新-757

クリスマスを目前に控えた、ある日の夜。
夕食を終え、自室に戻ったせつなは読書に耽っていた。
と、そこに。

コンコン

ドアをノックする音が聞こえ、せつなは本に落としていた視線をドアに向ける。

「せつな、ちょっといい?」

「ラブ?いいわよ。」

カチャッ

(・・・?)

ドアを開けて入って来たラブの格好が部屋着ではなく外出着だったため、それを見た
せつなは怪訝そうな表情を浮かべる。

「ラブ、そんな格好して、どしたの?」

「あ、うん。今からさ、二人でクリスマスイルミネーションを見に行かない?」

「今から?」

「うん。」

唐突なラブからの誘いを受け、せつなの表情はますます怪訝なものへと変わる。
人一倍寒がりなラブは、寒いから、という理由でいつも炬燵の中で丸くなっており、
中々外に出ようとはしないからだ。―――とは言え。

「・・・わかったわ。じゃあ、私も着替えるから、ちょっと待ってて。」

「うん。」

せつなが桃園家に来てからというもの、ラブはせつなに色々な事を教えてくれた。
きっと今回も何か伝えたい事があるに違いない、そう考え、せつなはラブの誘いに
応じる事にした。


圭太郎とあゆみに、ちょっと出掛けて来ます、と声を掛け、ラブとせつなは家を出た。
あちこちの家々や商店街、通りの木々に至るまで、色とりどりのライトや装飾が施され、
それぞれが己の存在を誇示するが如く光り輝いている。

「こうして見るとさ、普段見慣れた街中の景色も、また違って見えるよね。」

「えぇ。本当に・・・綺麗ね。」

行き交う人々も、ふと足を止めてその光景を眺めたり、中には携帯カメラで写真を
撮ったりと、思い思いに楽しんでいる。
それらを見ている内に、ふとせつなの胸中にある疑念が過る。

「ねぇラブ、どして美希とブッキーは誘わなかったの?」

「ん?いやー、いつもは美希たんとブッキーと行ってるからさぁ。今年はせつなと
二人で巡りたくて。」

「そう・・・。」

疑念が完全に晴れた訳ではないが、きっとこれ以上追及したとしても、ラブから明確な
回答を得るのは難しいだろう。そう思い、せつなはそれ以上問うのを止めた。
そうこうしている内に、ラブは街外れの方向にどんどん進んで行く。

「ラブ、そっちにはもうイルミネーションは無さそうよ。」

「いーからいーから。せつなは黙って付いて来ればいーの。」

「もう・・・。」

一旦こうと決めたら絶対に信念を曲げないラブのことだ、もう何を言っても無駄だと
悟ったせつなは黙って付いて行く事にした。


そうして二人がやって来たのは、白詰草の丘。

「ほら、ここからだと、街中のイルミネーションが見渡せるよ。」

「あ・・・。」

眼下の景色を見渡し、せつなは息を呑む。そこにはまるで、光の湖かと見紛うばかりの
光景が広がっていて。
せつなは暫く声も無く、正に幸せ色が溢れんばかりのその光景に見入っていた。

(・・・ん?)

せつなはふと背中に温もりを感じ、振り返る。―――すると。
吐息が掛りそうな程すぐ傍らにラブの顔があって。

「え、ちょっと、ラブ?」

「いやー、やっぱ寒くてさぁー。ちょっとせつなの温もりを分けて欲しくて。」

「駄目よ。誰か来たら・・・恥ずかしいわ。」

「へーきへーき。ここまで来る人ってそう多くないし。」

そう多くないって事は誰か来るって事じゃないの、と腕の中でもがくせつなを
逃がさない様にしながら、ラブはせつなの耳元に唇を寄せて、

「来年もさ、ううん、それ以降もずっとさ、この景色を見に来ようね。・・・二人で。」

と囁いた。

それを聞いて動きの止まるせつな。先程の疑念は消え去り、代わりに体の芯から
湧き上がって来るような温かさに包まれながら、

「・・・ええ。」

と応えたのだった。


―――そして、暫くの間。
お互いの温もりを感じながら、白詰草の丘の上で寄り添い合うラブとせつなの姿が
あったそうな。
最終更新:2011年12月31日 21:09