新-812

「ここが私の部屋、せつなの部屋は本当はとなりなんだけどまだベットがないから今日は一緒に寝よ。」

「あ、ありがとう…」

私がイースじゃなくなったはじめての夜、食事を終えた私はそのまま桃園家の一員として招待された。
今日の食事はいままでの中で一番おいしかった。
とてもじゃないけどラビリンスの食事とは比べ物にならなかった。
ラブを騙すふりして近づいた時に食べたご飯やドーナツもおいしかったけど、
でも今日は完全にイースじゃなくなったからかな?もっとおいしい気がした。
あの頃みたいにただ一人で黙々と栄養を摂取するのとは違う……

あ、でもあえてひとつ言うなら肉の横についてた緑の苦いの…えーっとピーなんとかだっけ?
あれだけは苦手だったけど、それさえも私には愛おしかった。

「あ、ごめんなさいね今日は床に布団敷くからそれで寝てもらえるかしら?」

ラブのおばさまがラブの部屋までやってきて布団を敷こうとしてくれる。
見ず知らずの何もかも失った私を受け入れてくれたとても優しい人。

「あ、いいの。今日はせつなと一緒にベットで寝るから。」

「ええ!」

ラブの提案に私は驚いた声を上げる。
い、一緒のベットってそんな…

「あらあらそんな無理言ってせっちゃんを困らせちゃだめよ。」

「ねえ、いいじゃんいいじゃん。せつなー」

そう言って私の手を取る。もうベットに連れ込む気満々だ。
でも私は嫌な感じはまったくしない。何故ならラブのそんな所に惚れたのだから。

「全く、せっちゃんも嫌だったら言えばいいのよ。」

「いえ、嫌だなんてそんな…」

「ほーら、せつなもこう言ってるじゃん。」

「はいはい、じゃあ後は2人で仲良くやるように。ラブが困らせてきた時は私の所に来てね。」

そう言うとおばさまは去って行った。

「じゃあおやすみなさーい。さあせつな一緒に寝るよ。」

「も、もう…」

結局私はラブに手を引かれるまま同じベットで眠りにつく事になったのだった


zzzzzzzzzzzzzzzzzzzz

温かい布団に入ってじっくり考え込む。
私はこれまで幾人もの人を不幸にしたにも関わらず幸せゲットしようとしている。
確かに私は管理されて、闘わされて不幸だったのかもしれない。
でも他のラビリンスの人たちはどうなるの?
私はアカルンの力で本来の寿命が尽きてもこうして生きている。
でも今でもラビリンスでは命すら管理されている人たちだっている。
そして私はそれに加担し続けていたはずだ。
それなのに私だけ生き延びてこんな所でこんな……
ウエスターやサウラーは管理体制を信仰させられ今でも終わりの見えない闘いをしているのに……
そう本当の私、みんなを不幸にする存在のイースはあの時、あの森で死ぬべきだったんだ。
なんだったらいまからでもやっぱり……

「ギュッ」

そんな事を考えているといきなりラブに背中を強めに抓られる。

「痛い痛い!!ちょっと何するのよ、ラブ」

私は抗議の声を上げるがラブは怒ったような顔をして

「せつな、今変な事考えてるよね!」

「そ、そんな事」

私はラブから目をそらして答える。

「嘘ついてもだめ!今のせつなすごく嫌な顔してた。」

いけない顔にでてしまっていたのか。

「命が尽きてもいいなんて言って、本当は幸せになりたいのを無視して、自分を傷つけようとしてた時と同じ目をしていた。」

「ラブ…」

本当にラブには何もかもお見通しの様だ。

「そんな事を考えようとするせつなには……こうだ!」

ラブはそう言って私の体をこちょこちょとくすぐりだす。

「キャッ、ちょっとラブってば何するのよー」

「さあ、笑え笑えー今夜はせつなが変な事考えられなくなるまで笑わせるんだからー。」

笑わせるって言ってもこんな強引な手で?

「ちょっと、本当に、本当に、きゃ、あはははー」

ラブの強引なくすぐりに気付いたら私は何も考えずに笑っていた。


「分かった、ラブにはもう負けたから、止め…きゃははは」

「だーめ、これは私の大好きなせつなに対して変な事考えたせつな自身へのお仕置きも含んでるの。」

「そんな、ね、ねえ…キャハ、もう許してってばー」

「ダーメ」

「ってそこはお尻……ちょっとそんなところまでくすぐらないでよー」

「今のせつなにはこれくらいの荒治療が必要なの。」

そんな訳判んない理屈で人の体、しかもお尻をくすぐるなんて…よーしこっちにも考えがあるんだから。

「こらラブ、いい加減にしなさい。」

そう言って私は逆にラブの体を逆にくすぐり始めた

「キャハハ、やったなーせつなめ、私だって負けないんだからー」

結局その日は一晩中くすぐりあいっこだった。
でもこうしていると一人でマイナスな事ばかり考えていた自分がアホらしくなってくる。
ラブにはこういう不思議な力があるから一緒にいて飽きない。
でもこういう大切な人とふざけて全てを忘れる時間が幸せなのかな?
私にはまだ幸せの形が分からない。
でも今日私をくすぐったお返しにラブにたっぷり教えてもらっちゃお。
最終更新:2012年01月09日 00:23