「それでさーブッキーったらさー、おかしいでしょー。」
「へえあのブッキーでもそんな事言うのね。」
せつなが桃園家に来て間もない日のとある夜
ラブとせつなはラブの部屋でおしゃべりをしていた。
いつもならこの時間は2人とも寝ている時間だがこの日はたまたまラブの部屋で話していたら話が弾んで、
気が付いたら結構遅い時間になっていた。
「それに対して美希たんがさー」
「あら2人ともまだ起きてたの?」
そろそろ寝ようと自分の部屋に向かおうとしていたあゆみが、
ラブの部屋の電気に気づいたらしく、部屋のドアを開けて言った。
それに対してせつなが焦ったかのように立ちあがる。
「す、すいません。すぐ消灯に入りますので。」
そういって丁寧に頭を下げる。
「もう、せっちゃんたらそこまでかしこまる事ないのよ。」
あゆみは優しく微笑みかけるように言う。
「そうだよお母さんだってこう言ってるんだから。」
「せっちゃんは普段規則正しいからいいけど、ラブはほどほどにね。」
「でへへ。」
ラブは舌を出して笑う。
「まあ、たまには今日みたいに夜更かしもいいけど適当な所で寝るようにね。」
そういってあゆみは去って行った。
「さあ、お母さんもああ言ってる事だしお話の続きしよ。」
「で、でもやっぱり目上の人の意向に無理に逆らうわけには……」
すこしとまどったようにせつなが答える。
「もう、違うでしょ。」
少し怒ったような口調でラブが訂正する。
「目上の人じゃなくてお母さんだよ。」
「お母さん……」
せつなが戸惑うのも無理は無かった。
何故ならラビリンスでは親という概念など存在しなかった。
メビウスの指定による生殖行為により子供は生まれ、
生まれると、同時に親に全く関係なく番号がつけられ管理されていた。
だからせつなにとって周りの大人は目上の人以外の感覚は持てなかった。
「そっか……ラブリンスではお母さんっていないんだもんね……」
それを察したラブが少し寂しそうに呟く。
しかしすぐにいつもの元気なスタイルに戻って。
「よーし、じゃあ今晩は私がせつなのお母さんになってあげちゃう。」
「え、ええー」
ラブのあまりに斬新な提案にせつなも思わず間抜けな声で反応してしまう。
「だーかーらー今晩は私がせつなのお母さん。」
「聞こえたけどそんな……」
「お父さんとお母さんだって最初は他人だったんだから、血の繋がりがなくても家族になれる。それを今から教えてあげる。」
そう言ってラブは自分の膝にせつなの頭を導く。
「ちょっと、ラブ……」
せつなは困惑しつつも拒否はしない。
「ねえせつな。ここにはねせつなにひどい事する人もさせる人もいないんだよ。」
そういって優しくせつなの髪をなでる。
「昔の事なんて関係ない。私も、お母さんたちも、ブッキーもミキタンもみんなせつなの味方なんだよ。」
「みんなせつなに幸せゲットして欲しがっている。後はせつなが甘えてさえくれれば幸せゲットは完璧だよ。」
「甘える……どうやったらいいか分からない。」
せつなが悲しそうに答える。
「本当は昔から家族って羨ましかった……でも私には手に入れる事も、家族として振舞う術も知らない……」
そして少し涙を流しながら話を続ける。
「そして気が付いたら嫉妬していて、自分の意思でこの世界の家族の笑顔を奪おうとしていた……」
後半は完全に涙声だった。
「私……私……」
せつなはついに泣き出してしまった。
「もういいんだよせつな。」
そんなせつなの頭をゆっくり胸に抱きしめる。
「辛かったり、間違えたりして辛かった時はそうやって全部ぶつけてきて。それを受け止めるのが家族なんだよ。」
「ラブ……辛かった……辛かったよー」
せつなはラブの胸で本当に子供のように泣きじゃくった。
「うんうん、本当にせつなはいい子だね。」
それを本当のお母さんのような温もりであやすラブ。
「ねえ一つ聞いていい?」
「ん?」
「もし、万が一、私が昔みたいに人を不幸にしたら……家族はその時どうするの?」
「もちろん叱るのも優しさだからね。私は何度でも戦うよ、もちろん倒すためじゃなく助けるためにね。」
ラブの言葉を聞いてせつなは思う。
ラブはいつだってお母さんみたいな優しさで自分を助けてくれる。
でもいつかは今この家のお母さんをお母さんと呼べるようになりたいなと
「ねえその……もう少しなでなでしてもらっていい?」
少し照れながらせつなは聞く。
「……うん、えい。」
そうしてラブはせつなの髪をくしゃくしゃと撫でまわす
「ちょっと強すぎ。もう少し優しくして。」
「たはは、めんごめんご。」
こうしてせつなはラブに抱かれながらその日は眠ったのだった。
最終更新:2012年01月30日 20:55