新-993

夜の狭間に、せつなは決まって、あたしの両の手首を掴む。
まだ火照りの残る細い中指と、親指とをがっちりと絡ませて。

手首をベッドに押し付けられたまま、あたしは静かに身体を起こす。
唇を啄むようなキスを味わってから、
次は顎へと。
白く蠢く喉へと。
そしてゆっくりと丘を上り、その頂きへと。

ん…と苦悶とも悦びともつかぬ声が漏れ、
手首がキュッと絞めつけられる。

そのまま、またゆっくりと丘を下り、滑らかな一本道を通って、
あたしは蛇のようにちろちろと、まだ淡い茂みを目指す。

あ…。その溜息のような熱い吐息と一緒に、
あたしの拘束が解けた。

「手錠の鍵は、いつもここにあるんだよね」
そう囁いて、自由になった右手をゆっくりと降ろす。
蜜を湛えた入り口に指をあてがうと、吐息は一層熱さを帯びる。

「今度はあたしが、せつなを開く鍵になってあげるね」
まるで道連れか命綱にでもするかのように、
せつなの手があたしの髪を、
愛おしそうにクシャリと、わし掴みにした。

「せつなって、いっつもあたしのこと、捕まえるよね」
まどろみ寸前のベッドの中、あたしの言葉に、せつなが小さく笑う。
「最初にラブに捕まったのは、私だけどね」
とろんとした紅い瞳は、あどけなくて、温かで、
それでいてゾクリとするほどに、妖艶。

せつな。
せつなになら、あたしはいつでも、ちゃんと捕まってあげる。
あたしの身体と心は、いつだってせつなのものだよ。
だから扉を開いて、あたししか知らないせつなを、もっと見せて。
せつなが心の奥にしまいこんだ、哀しい過去も後悔も、
いつか月明かりの下で、分け合える日が来るように。
その鍵を、いつか二人で見つけられるように。
その日まで、ずっと。

Fin
最終更新:2012年04月28日 23:12