夜の狭間に、せつなは決まって、あたしの両の手首を掴む。
まだ火照りの残る細い中指と、親指とをがっちりと絡ませて。
手首をベッドに押し付けられたまま、あたしは静かに身体を起こす。
唇を啄むようなキスを味わってから、
次は顎へと。
白く蠢く喉へと。
そしてゆっくりと丘を上り、その頂きへと。
ん…と苦悶とも悦びともつかぬ声が漏れ、
手首がキュッと絞めつけられる。
そのまま、またゆっくりと丘を下り、滑らかな一本道を通って、
あたしは蛇のようにちろちろと、まだ淡い茂みを目指す。
あ…。その溜息のような熱い吐息と一緒に、
あたしの拘束が解けた。
「手錠の鍵は、いつもここにあるんだよね」
そう囁いて、自由になった右手をゆっくりと降ろす。
蜜を湛えた入り口に指をあてがうと、吐息は一層熱さを帯びる。
「今度はあたしが、せつなを開く鍵になってあげるね」
まるで道連れか命綱にでもするかのように、
せつなの手があたしの髪を、
愛おしそうにクシャリと、わし掴みにした。
「せつなって、いっつもあたしのこと、捕まえるよね」
まどろみ寸前のベッドの中、あたしの言葉に、せつなが小さく笑う。
「最初にラブに捕まったのは、私だけどね」
とろんとした紅い瞳は、あどけなくて、温かで、
それでいてゾクリとするほどに、妖艶。
せつな。
せつなになら、あたしはいつでも、ちゃんと捕まってあげる。
あたしの身体と心は、いつだってせつなのものだよ。
だから扉を開いて、あたししか知らないせつなを、もっと見せて。
せつなが心の奥にしまいこんだ、哀しい過去も後悔も、
いつか月明かりの下で、分け合える日が来るように。
その鍵を、いつか二人で見つけられるように。
その日まで、ずっと。
Fin
最終更新:2012年04月28日 23:12