―――本日午後、行方不明となっていたメクルメック王国のジェフリー王子が無事に…
「あら、良かったわねー」
夕飯の片づけをしていた手を止めて、あゆみママがTVから聞こえてきたそのニュースに思わず声を上げた。
なんといっても四ツ葉町で起きた大事件。あゆみさんだけでなく、それはもう町中の関心事だったのである。
―――しかし残念ながら、家宝の『ポセイドンの冷や汗』は騒動の合間に割れてしまい…
「まあ勿体無い。でも不思議ね。家宝がそんな事になった割には、王様も王女も王子も、
なんだか皆嬉しそうな顔してるじゃない。どうしてかしらね?」
「ど、どーしてだろーね、せつな!?」
「そうね、どーしてかしらね!?」
突然振られた言葉に、ラブとせつながギクリと顔を見合わせた。
もちろん理由は知っている。それは宝石なんかよりもずっと大切な、ずっと価値のある物を
三人が確認できたからだ。
だけどそれは王子達とプリキュア(あとカオルちゃん)しか知らない秘密。
答えなんか言えるはずも無く、結局笑って誤魔化すしかないのだ。
「まあ分からないわよね」
とは言え、娘達にそんな秘密があるとは当然あゆみさんは知るはずも無く、一人で納得すると
「それにしてもこの王子の笑顔可愛いわねー。見てるだけで幸せになっちゃう」
と、次のニュースに切り替わったのを確認して、お勝手口へと戻って行った。
「もうお母さんたらドキドキさせるんだから~」
母の姿が見えなくなったのを確認して、ラブがホッと息を吐いた。
そしてそれは、どうやらせつなも同じだったらしく、互いに聞こえた安堵の音に可笑しさを感じて
アハハと笑いあう。
「でも、お母さんも言ってたけど、ジェフリーの笑顔って本当に宝物だよね」
「そうね。あの宝石よりもずっと輝いてたわ。笑顔ってあそこまで人を幸せに出来るのね」
「あれ?せつなも幸せになったの?」
確かあの時は違うって言ってたのに、とラブが聞く。
「あ!その…まあね。一応は」
「へえ…」
とせつなを見るラブ。それから、ポツリと言った。
「あたしといる時よりも幸せ感じた?」
「え?」
「せつなはあたしといる時よりも幸せ感じた?」
なんでこんな事を聞いたのかは自分でも分からなかった。
わざわざ聞く事では無いし、大体が比べるような事でもない。でも、何故だか聞かずには居られなかったのだ。
それは確認したかったのかもしれない。しかし
「そうね」
ガツンとした衝撃が、ラブの体を突き抜けた。
「そうだったかも知れないわね」
「そう…なんだ…」
ニュースではもう一度ジェフリーの話題をやっていた。そこには彼の天使の笑顔が再び映し出されている。
でも何故だろう。さっきまではあんなに可愛いと思っていた笑顔なのに、今は胸がギュッと痛くなる。
ひょっとしてあたし、こんな小さな子に…?
ウソ、ウソだよ。だってせつなが幸せになってくれるのは、あたしにとっても幸せで…。
だけど、でも、あたしと居るよりもせつなが幸せだなんてそんな事……
頭の中で思いがグルグルとごちゃ混ぜになって行く。
どうしたらいいのか分からなくなって、胸の奥が熱くなって行き―――
「なんてね」
クスリとせつなが笑った。
「ラブとは比べられないわ」
「え?」
「私にとってはラブの笑顔が一番の幸せの素。だからそんな顔しないで」
そしてそっとラブの頬へと手を添える。
「ばか」
思わず憎まれ口が出た。
だけどそのまま、ギュッとせつなに抱きついた。
「ラブ…」
「せつな…」
見詰め合う二人。視線は情熱的に絡み合い、互いの呼吸すら感じられる。
そしてその雰囲気の中、互いの唇がどんどんと引き寄せられて行って……
「あなた達、なんで抱き合ってるの?」
「―――!?お母さん!?」
なんとかTVの怪談話のせいにしてもらいましたとさ。
おしまい
最終更新:2009年08月24日 21:49