新2-155

 コンコン

 ラブの部屋の扉が、控えめな音で二回ノックされる。

「入っていいよ、せつな」
「勉強、はかどってる? ホットミルクを入れてきたの」

 秋の夜長、と言っても、ラブとせつなは中々に忙しい。
 ダンスに、シフォンのお世話に、家事のお手伝い。ついでにプリキュアまでこなしているのだから当然か。
 ……微妙にプリキュアの序列が低いのは気のせいだろう。

「ありがと~せつな。やっぱり勉強よりも、食欲の秋だよね~」
「おやつはないわよ。少し冷えてきたから、ラブがあったまるといいなと思ったの」

「キュア~」
「えっ、なになに、どうしたのシフォン?」
「お腹が空いた! って言うてるみたいやで、ピーチはん」

「キュアビタン、のむ~」
「そっか。私の入れたホットミルクを見て、シフォンも飲みたくなっちゃったのね」
「はいは~い。じゃあ、久しぶりに出してあげるね。はい!」

 ラブは、手にしたキュアビタンをシフォンに近づける。その瓶に、せつなの手が重なった。

「ねえ、ラブ。私があげてもいいかしら?」
「いいよ。こうして抱っこしてね――」

 ラブとせつなは、とっかえひっかえシフォンを抱き上げながら、ミルクの飲ませっこをした。
 空気を読んだシフォンは、健気にも、お腹いっぱいになってからも、我慢してキュアビタンを飲み続けたという……。

「ゲップぅ……」

(楽しそうなんはええんやけど、もうシフォンは自分で飲めるんやけどな……)

 ~~次の日の夜~~

「せーつなっ!」
「きゃっ、急に入ってこないでよ、ラブ」

 突然のラブの来訪に、せつなは驚いてベッドから転げ落ちそうになる。
 特に集中して、何かをしていたわけではない。むしろその逆で、呆然と考えごとをしていたのだった。

「ごめ~ん、昨夜のお返しにね、せつなにホットミルクを入れてきたの。一緒に飲もっ!」
「ええ、ありがとう。今夜は二人きりね」

 温かい牛乳を飲みながら、ラブとせつなは楽しそうにお話した。
 でも、飲み終えてしまうと、空になったカップを眺めながら、またせつなは考えごとにふけってしまう。

「どうかしたの? せつな」
「昨日ね、シフォンにキュアビタンをあげていて、なんだか温かい、不思議な気持ちになったの」

「あ~わかるな。なんかこう、フワ~っとして、ポワポワ~っとして、幸せ~って感じだよね!」
「クスッ、下手な例えだけど、まさしくその通りね」

「それで、それがどうかしたの? せつな」
「うん、あのね……」

「言いにくいこと?」
「うん、そのね……」

「お母さんが、自分のおっぱいをあげる時って、どんな感じなんだろうって……」
「……………………」

「ごめんなさいっ! 忘れて!」

 ラブの絶句に、せつなはいたたまれなくなり、とっさに部屋に逃げ帰ろうかと腰を浮かす。
 が――しかし、自分の部屋はここだったことに思い至り……。
 しかたなく布団の中に潜って、とにかくラブの視線から身を隠そうとした。
 しかし無常にも、布団はあっさりとラブの手によって剥がれてしまう。

「ねえ、せつな」
「ごめんなさい、どうかしてたの。忘れて!」

「そうじゃなくて、試してみる?」
「試すって、私たちに母乳なんて出るわけないでしょ?」

「フリだけでいいじゃん?」
「でも、そんなくだらないことに、シフォンを付き合わせるわけには――」

「だから、あたしたちで、しない?」

 今度は、せつなが硬直して、絶句する番だった……。



 To be continued?
最終更新:2012年10月12日 21:07