コンコン
ラブの部屋の扉が、控えめな音で二回ノックされる。
「入っていいよ、せつな」
「勉強、はかどってる? ホットミルクを入れてきたの」
秋の夜長、と言っても、ラブとせつなは中々に忙しい。
ダンスに、シフォンのお世話に、家事のお手伝い。ついでにプリキュアまでこなしているのだから当然か。
……微妙にプリキュアの序列が低いのは気のせいだろう。
「ありがと~せつな。やっぱり勉強よりも、食欲の秋だよね~」
「おやつはないわよ。少し冷えてきたから、ラブがあったまるといいなと思ったの」
「キュア~」
「えっ、なになに、どうしたのシフォン?」
「お腹が空いた! って言うてるみたいやで、ピーチはん」
「キュアビタン、のむ~」
「そっか。私の入れたホットミルクを見て、シフォンも飲みたくなっちゃったのね」
「はいは~い。じゃあ、久しぶりに出してあげるね。はい!」
ラブは、手にしたキュアビタンをシフォンに近づける。その瓶に、せつなの手が重なった。
「ねえ、ラブ。私があげてもいいかしら?」
「いいよ。こうして抱っこしてね――」
ラブとせつなは、とっかえひっかえシフォンを抱き上げながら、ミルクの飲ませっこをした。
空気を読んだシフォンは、健気にも、お腹いっぱいになってからも、我慢してキュアビタンを飲み続けたという……。
「ゲップぅ……」
(楽しそうなんはええんやけど、もうシフォンは自分で飲めるんやけどな……)
~~次の日の夜~~
「せーつなっ!」
「きゃっ、急に入ってこないでよ、ラブ」
突然のラブの来訪に、せつなは驚いてベッドから転げ落ちそうになる。
特に集中して、何かをしていたわけではない。むしろその逆で、呆然と考えごとをしていたのだった。
「ごめ~ん、昨夜のお返しにね、せつなにホットミルクを入れてきたの。一緒に飲もっ!」
「ええ、ありがとう。今夜は二人きりね」
温かい牛乳を飲みながら、ラブとせつなは楽しそうにお話した。
でも、飲み終えてしまうと、空になったカップを眺めながら、またせつなは考えごとにふけってしまう。
「どうかしたの? せつな」
「昨日ね、シフォンにキュアビタンをあげていて、なんだか温かい、不思議な気持ちになったの」
「あ~わかるな。なんかこう、フワ~っとして、ポワポワ~っとして、幸せ~って感じだよね!」
「クスッ、下手な例えだけど、まさしくその通りね」
「それで、それがどうかしたの? せつな」
「うん、あのね……」
「言いにくいこと?」
「うん、そのね……」
「お母さんが、自分のおっぱいをあげる時って、どんな感じなんだろうって……」
「……………………」
「ごめんなさいっ! 忘れて!」
ラブの絶句に、せつなはいたたまれなくなり、とっさに部屋に逃げ帰ろうかと腰を浮かす。
が――しかし、自分の部屋はここだったことに思い至り……。
しかたなく布団の中に潜って、とにかくラブの視線から身を隠そうとした。
しかし無常にも、布団はあっさりとラブの手によって剥がれてしまう。
「ねえ、せつな」
「ごめんなさい、どうかしてたの。忘れて!」
「そうじゃなくて、試してみる?」
「試すって、私たちに母乳なんて出るわけないでしょ?」
「フリだけでいいじゃん?」
「でも、そんなくだらないことに、シフォンを付き合わせるわけには――」
「だから、あたしたちで、しない?」
今度は、せつなが硬直して、絶句する番だった……。
To be continued?
最終更新:2012年10月12日 21:07