「ねぇ、シフォン。今日のハロウィン・パレードは、シフォンも仮装して参加する?」
美希がリンクルンを片手に、何だか得意げな様子で、シフォンに問いかける。ラブの膝の上で、今まさにおやつを食べようとしていたシフォンは、それを聞いて嬉しそうに声を上げた。
「ハーローウィーン!」
ピルンにどこまでその気があったのかはわからないが、今日のおやつはハロウィンにぴったりの、パンプキン・パイだ。それをしっかりと両手で抱えて、シフォンはくるりと祈里の方を向くと、キュアキュア・・・とおしゃべりを始めた。
「キー!」
祈里のリンクルンからキルンが飛び出して、シフォンの頭の上を、くるくると回る。
「・・・そう、わかったわ。あのね、美希ちゃん。シフォンちゃん、クマちゃんの格好の上に、何か可愛いお洋服が着たいんですって。」
「ふぅん、なかなか注文がしっかりしてるじゃない。女の子がファッションに敏感なのは、いいことよ。アタシに任せて、シフォン。完璧に、コーディネートしてあげる。」
祈里の言葉を聞いて、パチリと片目をつぶってみせる美希に、シフォンも嬉しそうに笑った。
今日は十月三十一日。クローバータウン・ストリートでは、恒例のハロウィン・パレードが行われる。
四人は学校から直接ラブの部屋に集まって、ここでみんなで着替えをして、パレードに参加する予定なのだ。
「はぁ~。いいなぁ、美希たんは。」
シフォンを抱っこしてベッドに腰掛けているラブが、珍しく大きな溜息を付く。隣りに座るせつなは、そんなラブの顔を、不思議そうに覗き込んだ。
「ラブ、どうかしたの?」
「いやぁ、大したことじゃないんだけどさ。ブルンはシフォンのおしゃれ担当だけど、シフォンだけじゃなくて、あたしたちを着替えさせることだって出来るじゃない?
その気になれば、あたしたちもシフォンと一緒におしゃれを楽しめるんだよね。」
「まぁ、そうね。」
美希もせつなと同じように、怪訝そうな顔になる。祈里も小首を傾げて、ラブの次の言葉に耳をすませた。
「ブッキーも、キルンがいればシフォンと一緒におしゃべりを楽しめるしさ。アカルンは、みんなで一緒にお出かけできるし・・・。」
そこまで言って、ラブが、あ、と小さく呟いて、顔を上げた。その目はさっきまでとは打って変わって、何だかヤケにキラキラしている。
「そっか!あたし、ピルンが出す料理はシフォン専用だから、一緒に楽しむことはできないのかな~って思ってたんだけど・・・。もしかしたら、試したことがなかっただけで、あたしたちも一緒に食べられるのかな?ピルンの料理で、みんなでピクニックなんかできたりして!」
「え・・・それはちょっと・・・」
「シフォンちゃんの、ご飯やおやつで?」
「そんなことしたら、シフォンに怒られないかしら。」
戸惑う三人をよそに、ラブは満面の笑みで、シフォンに話しかける。
「ね~え、シフォン。そのパンプキン・パイ、あたしも食べてみていいかな。ね?少~しだけ、味見させて~。」
「プリ!?」
驚いたシフォンが、パイを持つ手に力を込めて、嫌々とかぶりを振る。
「ねぇ、一口だけだから~。お願い、シフォン。」
「プ~リ~!」
「もう、シフォンのケチ。」
「プリーーー!!」
シフォンが口を尖らせて、ラブの膝の上から、せつなの膝の上へと瞬間移動した。その途端に、ラブの身体がふわりと宙に浮き上がる。
「わ、わ、わ~、シフォン!」
慌てるラブをちらりと見やって、シフォンが両方の耳を上へと伸ばし、パフンパフンと打ちつける。すると今度はラブのベッドからシーツが外れ、ふわふわと天井近くを漂ったかと思うと、ラブの頭上にバサリと落っこちて来た。
「うわぁ、シフォン、やめて~!」
まるでお化けの仮装でもしているような姿で、空中でジタバタしているラブを、美希と祈里が、心なしか冷やかな目で見つめる。
「まぁ、そりゃあハロウィンの日に、お菓子を貰うどころか取られようとしたら・・・」
「イタズラするしかないわよねぇ。」
☆
「うわぁ、何だか去年より、仮装している人が増えたみたいだねっ!」
カボチャの着ぐるみを着て、胴体がコロンと丸くなったラブが、そのまま転がりそうな勢いで、通りを駆けていく。
「ちょっと、ラブ~!その格好で転んだら、洒落にならないわよ。」
銀色の羽を付けた妖精の姿の美希が、そんなラブを呆れた調子でたしなめる。
黒い三角帽子をかぶって、魔女の格好をしたせつなは、腕に抱いたシフォンに向かって、穏やかな声で言った。
「ねぇ、シフォン。ラブはね、ただあなたと同じ物を食べて、一緒に『美味しい』って言いたかっただけなの。あなたのおやつを取ろうとしたんじゃないのよ。」
不思議そうに首を傾げるシフォンに、せつなはニッコリと笑いかける。
「だからね。今日、たくさんお菓子を貰ったら、あとでみんなで一緒に、仲良く食べましょ。」
「プリプー!」
上機嫌で両手を振るシフォン。隣りから手を伸ばしてその頭をなでながら、お気に入りのコウモリの仮装をした祈里が、のんびりとした調子で言葉を繋ぐ。
「大丈夫よ、せつなちゃん。シフォンちゃんが、ラブちゃんのことを大好きだっていうのは、この格好を見ても、ひと目でわかるわ。」
「確かにそうね。」
せつなは、仮装したシフォンの姿を――クマの着ぐるみの上に、オレンジ色のカボチャのドレスを着た姿を、改めて見つめる。そして祈里と顔を見合わせて、フフッと楽しそうに笑った。
「おばあちゃん、こんにちは!えへへ。とりっく・おあ・とりーとっ!」
「ラブったら、まだ早いわよ。パレードはこれからなんだから!」
ラブと美希が、駄菓子屋の前で足を止めて、おばあちゃんと話をしている。せつなは、ショウウィンドウのガラスをちらりと覗いて帽子の位置を整えると、祈里と肩を並べて、二人の元へ駆け寄っていった。
~終~
最終更新:2012年11月01日 01:31