新2-331

 踏みしめた落ち葉がゆっくりと受け止めてくれる、そんな森の中。寒さに負けないように厚着をしたあたし達は、占い館の跡地へと来ていた。
 まぁ、あたし達とは言っても、せつなとの2人だけで、一応デートコースだったりします。
 せつなと出会い、イースと争い、そして悲しみを知った場所。
 けれど、それだけではなく、新しい家族と出会えた場所でもある。
 良い思い出も、嫌な思い出も、いろんなものがある場所。
 ただ、あの頃と違うのは占い館などなく、そこには森が広がっているだけだと言うこと。
 あたし達の思い出は、それぞれの胸の中にしか残っていない。それが少しだけ寂しくて、時々2人でここにくることにしている。
「ラブ、無理をしてここにこなくても良いのよ?」
「無理なんかしてないよ。ただ、なんとなくきたかっただけだよ」
 あたしですら沢山の思い出がある場所。その場所で、せつなは何を思うのだろう?
 過去の自分、イースだった頃を思い出しているのだろうか?
 ここで占った人達のことを思っているのだろうか?
 何を考えているか、その横顔から読み取ることは出来ない。難しそうな、ちょっと怒っているような、そんな表情で正面をじっと見つめていることしか分からない。
 どうしてなんだろう? 嫌なこともあったかもしれないけれど、良いことだってあったはずだよ?
「せつな、難しいことを考えてる?」
 声をかけるのを、ためらわせるような雰囲気。このまま放っておけば、どこかに行ってしまいそうな、不確かさを感じてしまう。
 あたしの傍にいて欲しいのに、離れたくなんかないのに。どうして、そんなことを感じてしまうのかな?
 せつなが何を見つめているのか、あたしには分からないよ。
「難しいことなんて、考えていないわ。ただ、沢山のことがあった場所だから。どうしても、考えてしまうのよ」
 せつなの考えていることや、悩んでいることは難し過ぎて、あたしでは解決してあげられない。
 けど、話くらいなら聞けるよ? せつなと一緒に考えることなら出来るよ? 1人で苦しまずに、あたしにも分けてよ。
 辛い時にこそ、頼って欲しい。
「ごめんなさい、変なこと言って」
「ううん、ぜんぜん良いよ。けど、あたしの知らないせつながいるのは、ちょっと寂しいな」
 好きな人のことを知りたい。好きな人に知って欲しい。
 あたし達は離れていた時間も長いから、お互いにまだ知らないところがたくさんあるはず。
 せつながラビリンスで苦しでいたことも、せつながこの世界にきたばかりの頃も。せつなの過去を、あたしは知らない。
 それが、少しだけ寂しい。
「ごめんなさい。話せないわけではないの。ただ、今話して良いのかどうか、私には分からないの」
「別に良いよ。無理に話さなくても」
 寂しいと感じられるのは、それだけせつなとの距離が近いから。距離が近くて、なんでも知りたいと思えるから。
 相手のことを知ろうとし、相手に知ってもらおうとし。お互いの気持ちが向かい合っているからこそ、寂しいと感じる。
「せつなが話しても良いって、聞いて欲しいって、そう思えた時に話してくれれば良いよ」
 今のあたしでは、頼りないのかもしれない。せつなの話を聞けば、耐えられなくなると思われたのかもしれない。
 あたしの強さを認めてくれていなくて、頼りないと思われているのかもしれない。
 良いよ、今はそれでも。ずっと、このままでいる気なんてないから。せつなを守れるよう、もっともっと強くなるって決めたから。
「あたしが強くなった時に、また教えてよ」
 せつなの悩みを解決できる強さと、せつなを安心してあげられる優しさを。その2つを身に付けていこう。
 あたしは大丈夫だって信じて貰えるように、頼ってもらえるように。自分を変えていこう。
「まだ、秘密にしてても平気かしら?」
 聞かれたくないことを、聞こうとは思わない。強くなれば、自然と話してくれるはずだから。
 言いたくないことは、言わなくても良い。いつか、せつなが頼れるような大人になってみせるから。
 今ではない未来で、あたしは一緒に悩むことにするよ。
「大丈夫。告白だって、ずっと待っていたんだよ? あたしはずっとせつなの傍にいるって、せつなのことを愛していくって決めたから。この幸せを長く楽しもうよ。焦らなくても、大丈夫だよ」
 あたし達は、これからもっと幸せになる。長い時間がかかっても、大きな幸せを見つけようって約束したから。
 今ここで焦る必要はどこにもないんだ。

「それに、女の子は秘密があった方が綺麗に輝くんだよ」
 これは、美希たんからの受け売りなんだけどね。少しだけ秘密を抱えている方が、綺麗になれるんだって。
 あたしにとっては、今のせつなが最高に可愛いし、綺麗なんだけど。将来、大人になったせつなも見てみたいから。輝いているせつなも、見てみたいから。
 ちょっとくらい、秘密にされても良いかなって、そう思っているの。
「……ラブがそんなことを言い出すなんて。大変、熱でもあるの?」
「え? それは、ちょっとひどくない? あたしだって、色々考えてるんだよ?」
 おでこをくっつけようとする、せつなにドキドキしながら、思わず言葉が漏れてしまう。
 あたしだって、頑張ってるのに。せつな、ひどいよ。たまには、格好良いこと言ってみようかなって、そう思っただけなのに。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。あたしは元気いっぱいだよ!」
 恋の病にはかかっているけど、それはせつなだって同じでしょ?
 突然頭が良くなったり、変なこと言いだしたりはしないよ。多分。
「ふふ、冗談よ。ありがとう、ラブ。おかげで、気が楽になったわ」
「なんか、納得いかないけど。どういたしまして」
 せつなにからかわれたと、そう気付いた時にはもう遅かった。
 もう、最近のせつなの悪い癖だよ? 自分に都合の悪いことが起きると、あたしをからかって誤魔化すの。
 そんなことしなくても、あたしはちゃんと隣にいるのに。せつなの隣に、ずっといたいのに。
「いつか、話せる時が来たら。何も隠さなくて良いと、そう思える日が来たら。ちゃんと私の口から告げるわ」
「うん、楽しみにしているね」
 楽しい話はないと思う。嬉しい話はないと思う。
 けれど、あたしがせつなの力になれるのなら、それよりも大切なことはないはずだから。
「さて、買い物に戻りましょ? クリスマスケーキの材料、買うんでしょ」
「うん、今日は腕によりをかけてケーキを作るから。楽しみにしててね」
「ええ、お願いするわ」
 今年の家族パーティ。そのメインとも呼ぶべきケーキは、あたしが作ることになった。
 ちょっとだけ不安もあるけれど、せつなが楽しみにしてくれてるのなら、失敗出来ないよね。
 そろそろ、いこっか。

――あたし達の未来も、ケーキみたいに大きく膨らむといいな
最終更新:2012年12月25日 00:44