新2-370

 桃園ラブ24歳、いろいろあって学生時代からとある会社でバイトをしていたが、持ち前のバイタリティが認められついに社員に登用。
ところが、そのバイタリティが予期せぬ方向で買われていきなり転勤、四つ葉町から遠く離れた町で働くことになった。
しかも今年は特に忙しく、年末年始の休みも返上という有様。 楽しみにしていた四つ葉町への帰省ができなくなり、
今はラビリンスにいるせつなに泣きついた。

「ラブ、どうしたの?」
「うぇ~ん、せつな~、仕事が忙しくて正月だというのに四つ葉町に帰れないよ~」
「そうなの?本当はね、私もここのところ急に立て込んできたから、実家に帰れても2、3時間ほど居られるかどうか……
じゃあ、私、大晦日にラブのところに行くわ」
「ほんと? 今からでも大丈夫なの?」
「まあ…… でも、なんとかするわ」
 せつなもラビリンスではいろいろ責任のある身ゆえ、異世界への移動は極力控えているが、
他ならぬラブのためである。今回はウエスターやサウラーに留守を任せることとした。
「ウエスター、サウラー、何時間かだけ留守にするけど後をお願いするわ!」
「そうだね……美希の最新の写真集で手を打とうか」
「サウラーも結構諦め悪いわね……」
「イース、あの世界のうまいもの頼んだぞ!」
「……わかったわ」

 大晦日の夜、残業を終えたラブは年越しそばを調達しようとコンビニに向かった。
「さすがにスーパーだと大晦日は閉まるのが早いもんなあ…… おそば~おそば~って、
え?みんな売り切れじゃん!」
 皆考えることは一緒である。
「しょうがないなあ……もう○ッ○ヌードルしかないじゃん。まあ同じ麺類だししょうがないか。せつなとあたしの分、と!
あ、期間限定のミルクシー○ード味だ。これも1個買っとこおっと」

 アパートに帰ったラブが電気をつける。
「やれやれ……もうそろそろかな」

 周りが赤く光ったかと思うと、せつながラブの部屋に現れた。

「ラブ。こんばんわ、かしら?」
「せつなー!」
「キャッ」
 ラブがせつなに飛びつく、お馴染みのシーンである。
「今日も残業だったの?」
「明日も正月返上で仕事だというのに今日くらいは勘弁して欲しいよ」

 せつながまだ弾力の残る赤いクッションに座る。
 普段は使われないせつな専用であり、
同僚がたまに来るときは、インテリアと言い張っているらしい。

「今年は四つ葉町に帰れないのね」
「ごめんねー、今年は正月返上だよー」
「この世界では正月というのがあって、みんなお休みをするものだと
昔きいてたけど、そうじゃないのね」
「お父さんやお母さんが子供のころはそうだったらしいんだけど、
 今はお店なんて年中やってるくらいだからね~」
「ラビリンスはもともと正月のようなものがないから、そんなに変に感じないわね」
「パートのころはさすがに正月まで出勤しろとは言われなかったよー」
「四つ葉町にはまた別の日に帰れるの?」
「そうだなあ……3月くらいにはさすがに休みが取れそうだからその時に帰ろうかな」
「そうね……私もそれくらいには休暇をもらおうかしら」
「お父さんもお母さんも喜ぶよ」



 ラブが小さな台所に向かって、年越しそばならぬ年越しヌードルの準備をする。
 トポトポトポトポ……

「せつな、年越しそばだよ~、3分間待っててね。」
「年越しそば……って、こんなだったの?」
「たはは……帰りにあわててコンビニにいったら、もう○ッ○ヌードルしかなくってさ、これもそばだし、しようがないかなって……」
「こういうそばもあるのね。初めて見たわ」
「お母さん、カップ麺は家では出さなかったからね。でも、意外と美味しいんだよ。」
「3分経ったわ」
 せつなはかつてラビリンスの戦闘用員であったころの訓練により、時計を見なくても正確に時間がわかる。
「ほんとだ。いつも、時間忘れてのびちゃうんだー。さ、食べよ!いただきまーす」

 実はラブにとってはこれが実質夕ごはん。
 ズルズルズル……
 勢いよくすする。

「くっはー!空きっ腹にしみるぅー!せつなもずずっといっちゃって!」
「精一杯頑張るわ……(ズッ!)ごほっ、ごほっ!」
「ごめん、せつな。無理に勢いよくすすらなくていいんだよ。普通に食べて」
「難しいわね……(ちゅるちゅるちゅる)美味しいわ!これ、持って帰っていいかしら?」
「いいよ。期間限定のがあるけど持って帰る?一個しか残ってなかったし、今日はせつなと一緒のが食べたかったからね」
「ありがと、私もラブと一緒のそばが食べられてうれしいわ。(ミルク?ウエスターに食べさせるには注意が必要ね……)
そこにある雑誌も持って帰っていい?」
「今月号のA○○C○○だね?美希たんの特集なんだよ!表紙も美希たんだし」
「ありがと、助かるわ」
「え?」

 年越しそばならぬ年越しヌードルを食べて、二人は一息つく。

「せつな!除夜の鐘を撞きに行こうよ」
「除夜の鐘? 前に四つ葉町に帰ったときにテレビに出ていたわね」
「この町には古い寺があって、毎年近所の人たちが除夜の鐘を撞いているんだ」
「鐘って、お寺の人が鳴らすんじゃないの?」
「ここのお寺は、みんなが順番に撞くんだよ」
「素敵ね……」

 アパートを出て10分ほど歩くとお寺に着いた。

「ちょっと家出るの遅かったかな?」
「もうずいぶん並んでるわね」
「あ、始まったよ」

 ご~ん……  ご~ん……

「除夜の鐘は108回なんだよ……」
「どうして108回なの?」
「108つの煩悩ってのがあるんだって」
「煩悩って、なあに?」
「えーっと…… 悩みごとらしいよ。108回鐘を撞いて煩悩を消す……らしいよ?」
「そうなの? ということは私たち、煩悩を浄化するのね?」
「……うーん、そうだね!」

 少しは大人になったところを見せようとしてうろ覚えの記憶を精一杯引っ張り出すラブと、
若干勘違いしているらしいせつなであった。



 ご~ん……  ご~ん……

「今年はいろいろあったよ、もともとパート入ったあたしが社員になった途端いきなり
転勤になるわ、君なら出来るって営業回りやら何やら初めてのことばかりでびっくりだっだよ……」
「大変だったわね、でもラブならできるわ」
「せつなも、ラビリンスの幸せのために今も頑張っているんだよね」
「ええ」

 ご~ん……  ご~ん……

「美希たんは相変わらず海外を飛び回ってるんだ」
「大変ね、今度はいつ日本に帰るの?」
「春には帰国するって言ってたよ」
「私たちが帰省できるときと一緒ならいいわね」

 ご~ん……  ご~ん……

「ブッキーも今年は卒業研究で四つ葉町には帰省しないんだって」
「もうすぐ獣医になれるのね」
「ブッキーならいい獣医さんになれるよ」

 ご~ん……  

「さあ、順番か来たよ、一緒に撞こうね」
「精一杯、頑張るわ」

 せつなとラブが撞木の綱を握る。

「これで鳴らすと煩悩が浄化出来るのね!」
「……そうだね」
「いくわよ、ラブ!はあぁぁーっ!」
「ふえっ?」

 せつなが体をしならせ、力いっぱい撞く。
 一瞬髪の毛が銀色に見えたとか見えなかったとか……

 ゴーン(音量5割増し)

「なんか耳が痛かったよ……」
「ごめんなさい、でも煩悩は浄化できたわ」
「そうだよね~ あれだけ大きな音だと変なのも逃げていくよ!
そうそう、鐘を撞いた人には、お堂で飴湯をふるまってくれるんだよ、行こう!」
「ええ」

 ご~ん……  ご~ん……
「はあ……あったまるぅ…… せつなも飲んでごらんよ、あったまるよ」
「ありがとう…… 本当に美味しいわ」
「でしょ? ここの飴湯はすっごく美味しいってきいてたんだ」
「(これはウエスターにはもったいないわね)」

 ご~ん……  ご~ん……

「そろそろ12時だよ、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1!
あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
「……あけましておめでとうございます……今年もよろしくお願いします、
こういうのっていいわね」



 ご~ん…… ご~ん……

「今、109回目の鐘が鳴ったわ、どして?」
「えーっと、現代人は大変だから煩悩が昔より余計にあるんだよ」
「この町の人ってそんなに悩んでるの?」
「ここも、四つ葉町と同じくらい幸せな街だよ。ただこの世界の人も
いろいろ大変なんだよ」
「そうなの……でも、さっき強く鳴らしたから煩悩は浄化されたわ!」
「……そうだね」
 飴湯も少し冷めてきたので、二人は冷たくならないうちに残りを口に含んだ。
「そろそろ行こうか」
「ええ」
「ごちそうさま!」
 湯呑を返却した二人は、寺を後にした。

「寒くなったわね」
「そっか、せつなはこの世界の寒さに慣れていないんだね……」
 ラブはせつなの背中を抱きしめた。
「あったかいでしょ?」
「ええ、とっても……でも少し恥ずかしいわ」
「だいじょうぶだよ、女の子同士ならそんなにおかしくはみられないよ」
「ほんと?でも……ありがとう、しばらくはこうしてて」
「……うん!」
 そのまま二つの影が一つになる。
「そろそろ帰らなきゃ」
「やだ、もっとこうしていたい」
「ごめんなさい…… 今度の休みにはゆっくり会えるわ」
「そうだね…… それまで仕事、精一杯頑張るよ」
「私もラブに会えて、幸せゲットだったわ」

 せつなの体が赤く光り、そしてラビリンスへと帰って行った。

 ラブはせつなのいたぬくもりを噛みしめつつ、明日の仕事も頑張ろうと思ったのであった。
 *****
 一方ラビリンスに戻ったせつなは、留守を頼んだウエスターとサウラーにお土産を渡したものの
「イース、写真集にしては思ったより美希の写真が少ないね?」
「え?そうね、あの世界の写真集はこれが常識なのよ」
「いーすぅ~!これってうまいなぁ~、ひっく!」
「ウエスター、勝手に食べたらダメじゃない! これじゃ明日は仕事にならないわ……」
「この写真集には男性の写真もあるのかい?」
「これもあの世界では常識なのよ(汗) あ、ラブからメールだわ」

 SUB 無事に着いた?
 明日起きられるかわからないよ~(ToT)
 お願い、起こしに来て(^^)

「はあ……ラブまで……」

 SUB Re:無事に着いた?
 自分でちゃんと起きなさい!

「煩悩はちゃんと浄化したはずなのに、どして?」
最終更新:2012年12月29日 22:13