新2-420

 美希の唇が離れ、すっかり熱くなった吐息と共に、優しく言葉を紡ぐ。

「次はブッキーから・・・できる?」
「うん。できるよ」

 短い距離で見つめ合ったあと、先にまぶたを閉じた祈里のほうから顔を寄せた。
美希の唇をキスで奪う。さっきと同じく、心臓は爆発しそうなほど高鳴っている。けれど、涙はもう止まりかけていた。

(美希ちゃん・・・)

 甘えるように祈里が上半身をもたれかけさせてきた。キスした口でクスッと笑った美希が、子供をあやすみたいに彼女の背中をさすってやる。
 それが気持ちいいのか、いつまでたっても祈里はキスをやめようとはしない。

 美希には、そんな幼なじみがだんだんと可愛らしく思えてきた。スキンシップの範囲内で、彼女の肩や腕などを撫でていく。
 ニットセーターの手触りの下に、やわらかな祈里の肌を感じる。
 美希の手の動きに反応して、祈里が「んっ・・・ん・・・」と陶然とした声を洩らしていた。
 やがて、ぴくんっ、と祈里の上半身が小さく震えて、キスで結ばれていた二つの唇が離れた。

「ごめん。アタシの手、くすぐったかった?」
「ううん、ちがうの。その・・・よくわからないけど・・・・・・」

 美希と祈里が顔を見合わせて、クスクスと笑い出した。いったん笑いが収まっても、目と目が合うとまた笑い出してしまう。

「不思議な気分よね。たった今まで、アタシとブッキーがキスしてたなんて」
「わたしも、まだちょっと驚いてる」

 微笑みながら、美希とのキスで火照った唇を指で触れてみた。

「女の子同士でしても、ちゃんとファーストキスになるんだよね?」
「まあ、ね。だけど、アタシが情けないトコ見せたのがきっかけだし、やっぱナシかな」
 と、そこで言葉を切り、美希が恥ずかしそうに脱力して笑った。

「せっかくのブッキーのファーストキスがこれじゃあ、ちょっとかわいそう」
「ううん。わたし、このファーストキス、すごく大切にしたい。その・・・だから・・・」

 祈里が美希の顔から視線を外し、もじもじと表情を赤らめて言葉を続けた。

「美希ちゃんも、わたしとのファーストキス、大切に・・・してくれる?」
「ふふっ、ブッキーはなんていうか、かわいいなぁ。ちなみにブッキーの唇、おでんの味がしてた」
「えっ、やだっ・・・」
「いいじゃない。おいしかったし」

 美希は、隣に座る幼なじみの頭へと手を伸ばして、優しく髪をいらった。祈里はキスされていた時と同様、安心しきったように両目を閉じて、無防備な表情を晒していた。
 ふとイタズラ心が持ち上がって、美希がゆっくりと顔を近づける。そして唇が触れ合いそうになった時点で、「ねえ、ブッキー」と呼びかけた。
 祈里がハッとして目を開くが、もう遅い。彼女の唇は、やわらかなぬくもりに塞がれてしまっていた。

(もおっ、美希ちゃんてば、子供みたいな事するんだから)

 驚いたのも一瞬だけ。
 すぐに祈里もまぶたを下ろし、キスの味わいを楽しむ。唇に感じる柔らかさには、自分の大切なものを捧げたという実感があった。胸の奥で心臓が甘美に脈打っているのは、その証明だろう。
 祈里は少しだけ積極的になって、美希の唇を気持ちのままに求めてみた。

(んっ、ブッキー・・・)

 幼なじみの仕掛けてきたキスが、「ちゅっ…ちゅっ…」と甘やかな音を奏でる。唇がくすぐったくて、ガマンできない。しかし、顔を逃がそうとすると、
 ――― ダメッ!
 と、そう言っているみたいに『ギュッ』と美希の服を掴んで、しがみついてくるのだ。
 祈里があまりにも可愛くて逃げられない。

(ちょっと・・・こら、ブッキー、いつまでキスしてるのよっ!)

 心の中で怒ってみても、美希の表情はすっかり緩んでしまっていた。


 ようやく唇を解放してもらった美希は開口一番、「まだおでんの味が残ってた」と素直に感想を述べた。これを聞いた祈里が「えぇ~、それだけなのっ?」と思わず言ってしまったのも無理はない。
 一生懸命頑張ったのに・・・と、祈里が両方の眉尻をしょぼんと落とした。
 そんな彼女が、愛しくなるほどかわいらしくてたまらない。祈里の頭をナデナデしつつ、美希が相好を崩した。

「大丈夫。ブッキーがくれたキスは、全部アタシの大切な宝物だから」
「本当っ?」
「うん、本当本当」
「うれしいっ!!」

 一転してパァッと表情を明るくした祈里が、喜びのあまり抱きついてきた。美希の右肩に顔をうずめ、うっとりとした声でつぶやいた。

「わたしたち、なんだか恋人同士みたいだね」

 その言葉の甘い響き。
 美希が耳の内側にこそばゆさを感じて、ぞくっ・・・、と小さく身震いした。ますますピッタリと身体をくっつけてくる祈里を抱き返す振りをして、自分の両腕の中に閉じ込めてしまう。
 ここから出ていかないで、とこっそり願った。
 ずっと祈里の身体のやわらかさを感じながら、彼女の声を聞いていたい。


「ねえ、美希ちゃん。わたし、また宝物を渡したい」

 いじらしい声で、キスさせて欲しいとおねだりしてきた。
 祈里のささやかな誘惑に対して、美希の心臓が激しいまでの早鐘を打つ。
 そのせいだろう。
 美希は自分の燃えるような感情を止められなくなってきていた。 ――― キスではなく、祈里そのものが欲しい。

「いいよ。ただし・・・・・・」

 抱擁という名の拘束を解いた美希が、祈里の左手を取り、おごそかとも言える動作で自分の口もとへと運んだ。切れ長の双眸を微かに細め、眼差しの美しさを研ぎ澄ませて少女を見つめる。

「今からアタシの渡す宝物を全て受け取ってくれたら・・・ね。もし途中で降参したら、キスはさせてあげない」

 どうする? ――― 美希が視線で問いかける。
 祈里の瞳に、わずかばかりだが警戒の色が揺れたのが見えた。けれど、それはすぐに別の感情によって和らげられた。いたずらっ子を許すみたいな、優しい視線で美希を見つめ返す。

「あー、美希ちゃんが、何かいじわるなコトを企んでる」

 祈里は『いいよ』という返事を、微笑むように瞳に浮かべた。
 それを合図にゲームスタート。美希の唇は、まず左手の薬指 ――― 結婚指輪をはめる指を這った。そこで執拗なまでに「チュッ・・・チュッ・・・」とキスの音を鳴らす。
 ンッ・・・、と喉の奥でうめいて、祈里が両目をつむった。
 もしも将来、祈里が誰かと結婚して、その人から送られた指輪をはめる時、絶対に思い出してしまう。この指に刻まれた美希のキスを。

 ――― 美希ちゃん、それ分かってて・・・。
 ――― でも、わたしも美希ちゃんに同じ事したい・・・かな。

 祈里の胸で、鼓動が甘い切なさを訴えてくる。
 美希の唇は、やがて指先へと移った。うやうやしく唇を添わせたあと、上下の唇をわずかに開き、指の先端を静かに含んだ。

「ああっ・・・」
 と、祈里が喉を震わせて、熱い溜め息をこぼした。
 美希の唇は、他の指も丁寧に愛でてから、手の平や手の甲に小刻みな音を鳴らしてキスの雨を降らせてきた。
 やわらかな唇の感触が皮膚に触れるたび、祈里は初めて味わう種類の『こそばゆさ』に声を殺して、何度も身じろぎを繰り返した。

「・・・・・・ン・・・ンッ」

 手を引っ込めたくなるほどくすぐったい。ぴちゃぴちゃと子犬に手を舐められる感覚に似ているが、美希のキスは、もっとずっといじわるで・・・・・・きもちがいい。

 ――― ふふっ。言ってあげないよ、降参なんて。

 美希が祈里の左手をそっと解放して、椅子から立ち上がった。「あっ」と声を上げて、祈里は反射的に彼女の服を掴んでしまう。

「どこにも行かないってば」

 美希はいとおしそうに笑いながら祈里の頭を抱き寄せ、髪にゆっくり手櫛を通す。そして、サラサラとすくった髪に唇を添わせた。
 音を鳴らさない、静謐なキス。大切な儀式であるかのごとく、祈里にそれを捧げる。

(美希ちゃん・・・・・・)

 再び手櫛で髪が梳(す)かれ、ほそい指ですくわれた髪にくちづけが行われる。
 祈里の髪の一筋一筋が宝石であるかのように、とても優しく扱ってくれているのが分かる。

「うっ・・・ん・・・」

 祈里が両手で、きゅっ、と美希の服の裾を掴んだ。髪にキスされる気配に、胸がざわめきを覚える。『好き』という気持ちが、別の衝動に変化してゆく ――― 祈里にとって、それは初めての体験で、少しこわい。

「・・・ブッキーは、今、何して欲しい?」

 急に声をかけられ、祈里が『ビクンッッ』と身体を震わせた。うるんだ瞳で美希の顔を見上げ、まず一つ目のお願いを口にした。

「わたしのこと、名前で呼んでほしい」
「わかった。あとは?」
「もっと・・・」
「もっと?」
「うん、もっと」
「・・・ん、分かった」

 くすっ、と意味ありげに笑った美希の唇が降りてきて、耳の輪郭をなぞった。その官能的なくすぐったさにゾクッときて、祈里は「あんっ・・・」と悩ましげな声と共に上半身をよじらせた。
 美希の唇が耳の内側に触れ、熱い吐息の混じった声でささやく。

「祈里」

 そのまま甘ったるくキスの音を鳴らして、また「祈里・・・」と彼女の名前をささやいた。
「祈里」 キス。「祈里」 キス。「祈里」 キス。「祈里・・・」 キス。「祈里」 キス。
 ほっそりした両腕で祈里を抱きすくめ、延々と彼女の名をささやきながらキスを繰り返す。いつのまにか力の抜けてしまった祈里の身体が、時折びくっ・・・とこわばる反応が楽しい。

「・・・・・・楽にしてて、祈里」

 祈里の耳にその言葉を残して、美希が椅子から腰を浮かせた。そして、テーブルの下に潜って、彼女の正面に回りこむ。
 白いタイツに包まれた綺麗な脚。美希の視線を感じたのか、モジモジと落ち着きをなくして恥ずかしそうにしている。

(うう~っ・・・)
 と、祈里が顔を赤くして、膝丈上の短いスカートの裾を両手でキュッと引っぱった。それでも隠し切れないひざの部分 ――― まずは右の膝小僧へと美希の指が触れてきた。
 びくっ!
 祈里が全身をこわばらせて悲鳴を呑み込んだ。美希はその反応を面白がるかのように、さわっ・・・さわっ・・・と、ひざの上に五指を滑らせてくる。
 たまらず右脚を悶えさせて、祈里が泣きそうな声でお願いした。

「美希ちゃん・・・それ・・・だめ、ガマン・・・できない・・・・・・っ」
「じゃあ、降参する?」
「そんな・・・ずるい・・・」

 そう言っている間に、左脚のひざも美希の指によって撫でまわされ始めた。
 左右のひざを意地悪くまさぐってくる指の動きに対し、両脚に力を込めてジッと耐える祈里。しかし、そんな抵抗も、わずか十秒ほどで崩れ去る。

「・・・う、あぁ・・・だめっ、くすぐったぁいっ・・・あぁんっ、美希ちゃぁぁんっ」

 祈里がガマンしきれず、両脚を哀れに悶えさせた。
 ふくらはぎに、ビクッ、ビクッ、と弱電流を流されたみたいな震えが走り、つま先を床に着けたまま、かかとの位置が突然高く跳ね上がる。 ――― びくんっ、と。
 美希の指使いは両手ともほぼ同じ動きなのに、祈里の脚は左右でバラバラの反応を示していた。

「だめっ、そんなに・・・美希ちゃんっ、だめっ・・・、あ・・・んぅ・・・」

 テーブルの下でイタズラを続ける美希からは見えないが、祈里の上半身も、両ひざを這うこそばゆさの前に早々に陥落し、なまめかしい身悶えを繰り返していた。

(さて、と。そろそろ祈里の足に宝物をあげなくっちゃ)

 両ひざをまさぐっていた左右の手がスーッと太もものほうへ滑るように移動。祈里が短く「ひっ!」と悲鳴を上げた。
 脚の動きが落ち着くのを待って、美希の唇が白いタイツの上を這う。最初は、さっきからイジメ続けていた膝小僧に。

「あっ・・・、美希ちゃん・・・」

 祈里は下手に脚を動かせなくなった。もし美希の顔にひざが激突したら・・・と思うと、今までとは違う意味で心臓がドキドキしてくる。

「美希ちゃん、そこは・・・んっ・・・、あぶないよ?」

 美希の手がタイツの上から太ももを撫でまわしてくるけれど、彼女を心配するあまり、そちらにはあまり意識が回らない。むしろ、ひざの丸みを愛でるように唇を滑らす動きに神経が集中する。

(ンンッ、くすぐったいけど・・・わたしの足、いっぱい可愛がってもらってる)

 タイツ越しにでも、充分感じられる唇のやわらかさとぬくもり。
 しばらくしてから、もう一方のひざにもたくさんのキスが浴びせられた。その気持ちよさに、祈里がうっとりと酔いしれる。

 気持ちいいと思っているのは、美希も一緒だった。
 タイツのスベスベした手触りを通して感じられる、瑞々しい肉厚の弾力。ダンスでみっちり鍛えた太ももには、さわった手を愉しませる健康的な肉感が詰まっていた。
 ひざの時と同じように指先を滑らせてみたり、手の平をぐっと腿肉に押し付けながら撫でてみたり。
 キスによる膝小僧への奉仕を続けつつ、うら若い乙女の太ももをたっぷりと味わわせてもらう。
 ・・・・・・なんだか痴漢をしている気分になってきた。

(それにしても、祈里の反応薄くない?)

 指でひざをいじめてやったら、あんなに可愛らしく悶えてくれたというのに。
 もしかして、あまり気持ち良くなってくれていないの? ――― そう勘違いした美希が、

(じゃあ、これならどう?)
 と、いきなり顔をスルリ・・・と両太ももの間へ侵入させ、内側からキスで攻める。
「あっ」と祈里が反射的に太ももを閉じようとするが、遅い。美希の左右の手が両太ももの下から回りこみ、むっちりした大腿部を抱え込むように掴んで、ぐいっ、と開かせる。

「やぁぁんっ、だめぇっ、美希ちゃん、だめぇっ」

 祈里が短いスカートの裾をグイグイ引っぱって抵抗するが、おかまいなく美希は太ももへのキスを続け、さらに深く分け入ってこようとしていた。

(本当にダメーーッッ! こんな格好恥ずかしすぎるのにぃぃぃっっ!)

 ちょうど頭一つ分、両脚を広げさせられた状態。しかも、見られたら一番恥ずかしい場所のすぐ近くに美希の顔が。

「んー、降参する? 祈里」
「え、それは・・・しないけどっ、あんんっ・・・もう美希ちゃんダメェーっ」

 両太ももの内側へ交互にキスを贈りつつ降伏を提示する美希へ、火が出そうなほど顔を真っ赤にした祈里が、左右の脚を可愛らしくパタパタ悶えさせながらも拒否。

「ふーん・・・、それじゃあ、もっとしちゃお」

 美希の唇が、白いタイツと溶け合うように重なる。
 愛しいという感情を熱く込めたキス。それは柔らかな太ももの中身 ――― しなやかに引き締まった筋肉の弾力を刺激し、少女の両脚を扇情的に悶えさせた。

「やあぁんっ、美希ちゃん、頭動かさないで・・・んん、くすぐったい、あっ、だめっ・・・あっ」

 美希の両手が太ももを開こうとするたび、逆に祈里は閉じようとあがく。そんな中で美希がグリグリと頭を動かすものだから、太ももの内側に髪の毛が擦れて、くすぐったくてたまらない。
 とうとう祈里がスカートの裾から両手を離して、美希の頭を押さえつけた。
 ――― けれど、

(だめ・・・、手に力が入らない・・・・・・)

 美希の頭が少しずつ両脚の奥深くへと入ってくる。
 太ももへのくちづけは、「ぢゅっ、ぢゅうっ・・・」と強く吸いつくキスに変わった。唇が離れたあとの白いタイツには、微かな唾液の湿り気が残るようになった。
 キスという形で美希の唇に腿肉をむさぼられると、自然に脚がわななく。特に気持ちよかった時は、びくっっ、とひざから先が小さく跳ね上がった。

(このままだと、わたし、もっと恥ずかしい目にあっちゃうのに・・・・・・)

 美希の唇は、太ももの付け根に近い場所まで迫ってきた。
 しかし、美希の頭に添えられた両手は、抵抗の意志を示そうともせず、つやつやと美しく磨かれた髪を幸せそうに撫でている始末。めくれ上がったスカートを直そうともしない。
 ぐいっ、と強引に両脚が広げられる感覚。
 祈里が弱々しくかぶりを振って、切なげに「だめぇっ・・・」とこぼす。

 結局、彼女自身は最後まで気付かない。今までさんざん口にしてきた『だめ』という言葉に、一度も『嫌』という意味が含まれていなかった事に。


 白いタイツの内側に、うっすらとショーツの白さが透けて見える。
 女の子の大事な部分は、たった二枚の生地の下。
 美希が、そこへ静かに唇を添わせた。微かに触れる程度。まだキスではない。うっすらと生地に染み付いた祈里の体臭を、静かに嗅ぐ。

「美希ちゃん・・・・・・そこ、赤ちゃんが産まれる所なの・・・・・・」

 ――― 知ってる。
 頭上から降ってきた幼なじみの声に、美希が声に出さずに答えた。
 それほど大切な場所だからこそ、いっぱい宝物をあげたい。
 ギュッと唇を強く押し付ける。

「あ゛あ゛っっ!」

 びくっ、と腰を揺すり、祈里が声を震わせた。かまわず美希はキスを何度も繰り返し、二枚の生地越しに、祈里の大切な部分を唇で感じようとした。

「ああぁっ・・・だめぇっ、美希ちゃ・・・んっ、お願い、激しく・・・しないでぇ・・・っ」

 やや上擦った哀願を口にしながら、祈里がブンブンと頭を左右に振った。全身が熱くなってきて、ガマンができない。
 白いタイツとショーツで守られた内側を、美希が強引なキスで求めてくる。それが、なんだか物凄くこわい。なのに、同時にとてもいとおしくて ――― 。

(あっっ・・・!?)

 腰の奥が蕩けて何かが溢れてくるような感覚に、祈里は目を見開いた。ゾクゾクとくるような違和感を訴えてきたのは、ちょうど今、美希がキスを行っている場所だ。

(やっぱり・・・やっぱり・・・・・・これはちょっと、あの・・・わたし、無理っ!!)

 羞恥心が限界を超えて、沸騰した。
 なんとかしないと ――― と、祈里があせる。
 普通にやめてと頼んだところで、たぶん美希はやめてくれないだろうし・・・・・・。

(は、恥ずかしいけど、これなら大丈夫かな・・・?)

 祈里は意を決してニットセーターの裾に手をかけた。
「み・・・美希ちゃん・・・」と呼びかけてから、一回だけ唇を噛み、恥ずかしさをこらえた。

「あのね、こっちにも美希ちゃんのキスがほしいかな・・・って」

 死んだほうがマシなくらいの恥ずかしさを覚えつつ、祈里がニットセーターと、その下に防寒対策として着込んできた吸湿・発熱タイプのインナーを一緒に胸の上までまくり上げた。
 パールホワイトのブラジャーのカップに収められた綺麗な双球を晒して、蚊の鳴くような声でささやいた。

「・・・・・・だから、そこはもう許して・・・・・・」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 テーブルの下から這い出てきた美希が、祈里の顔に手を伸ばした。人差し指の背で、スッ、スッ、と優しく両方の目尻をぬぐってくれる。

「恥ずかしくて泣いてるかと思ったけれど・・・ギリギリセーフみたいな感じ?」

 フフッ、と美希が笑って ――― 不意に真顔に戻った。ドアのほうへ視線を向け、何かを考え込む素振りをみせる。

「どうしたの、美希ちゃん?」
「そろそろお店が片付いて、ママが夕食を食べに来ちゃうかもしれない」
「・・・えっ?」

 ポカンとした表情のまま祈里が硬直する。やがて、美希を見つめる瞳に、じわっ・・・と涙が盛り上がってきた。

「やだっ、どうするのっ、わたし、こんな格好なのにっ?」
「いや、今すぐ来るって決まったわけじゃないし・・・あはは」

 涙目で顔を詰め寄らせてきた祈里に向かって、バツが悪そうに笑う美希。
 そもそも、こういう行為をしているコト事態、美希の想定外だったのだが。

「じゃあ、せっかくだし、もうちょっとだけして終わりにする? ブッキーが ――― 」
「ブッキーじゃなくて祈里っ」
「あ、うん、祈里が10数える間だけ、ね」
「ホントに?」
「疑わしそうな目で、ジーッと見つめないでよ。ホントだから」
「わかった。本当に10数える間だけよ?」

 祈里が首を縦に振ったのを見届け、美希が人差し指を彼女の口もとへと持っていった。そっと唇に触れ、右から左へ、亀の歩みのようにゆっくりと時間をかけてなぞった。
 不思議そうな顔で見返す祈里に、美希がウインクしてみせた。

「カウントする速さは、これぐらいでお願い」
「えええ~~~っ!?」

 そのペースで10まで数えていたら、ゆうに100秒を越えてしまう。
 正直、騙されたような気分になったものの、美希の顔を見ていたら許せてしまう。
「もおっ」と仕方無さそうに笑って、祈里が「本当に10数えたら終わりだからね」と柔らかい声音で念を押した。

 深呼吸してから、祈里は自分の手でブラジャーをずらし上げた。小ぶりな丸みが、二つこぼれ出た。まだ発育途中の果実とはいえ、乳房としてのカタチは整っており、肌の張りは瑞々しい。
 白い乳肉が描くまろやかな曲線、その先端は、ほんのりと桜色に彩られている。
 つつましげな乳暈(にゅううん)と敏感な突起物を、美希の視線にじっくり観察され、祈里が思わず身を縮こまらせそうになった。
 両手でニットセーターをまくり上げた姿勢のまま、美希から瞳をそらし、
「美希ちゃん、その・・・あまり見ないで」と、頼んだ。

「えー、見なきゃもったいないじゃない。こんなに綺麗なハダカ」

 肌は白く、ウエストは理想的にくびれ、バストの大きさも祈里の体付きとバランスが取れていて魅力的だ。身に着けている物を全て剥ぎ、一糸まとわぬ姿にすれば、きっと百合の花を思わす裸身が生まれると美希は思った。

 美希の右手が正面からやわらかな丸みを這った。乳房のカタチに沿って、ゆっくりと上下する手の平に、固くなった乳頭のなめらかな感触がこすれる。

「・・・うっ・・・あはぁっ!」

 一瞬ガマンした喘ぎ声だが、姿勢正しく伸びていた腰が、ガクンッ・・・と椅子の上で崩れるのと一緒に全部吐き出されてしまった。

「祈里の胸、すごくいい感じ」

 しっとりとした雪肌に包まれた乳房を優しく撫でまわし、その量感を手で味わって愉しむ。まだ肉が完全に熟していない分、若々しい弾力が触る手の平に弾んでくる。
 左手も伸ばして、もう一つの乳房もいらう。

「半分冗談で言ったつもりだったんだけど、やっぱり祈里って胸に栄養が回る体質じゃない? ほら、おっぱい重いよ」
「うそっ、重くなんてないもんっ」
「ふふっ、いーえ、これは確かに重い。祈里が大人になったら、もっと重くなる」
「もおっ・・・」

 美希が両手を使って、二つの乳房を同時に下から上へとゆっくり撫で上げ、外側へ滑り落ちて円を描くように下乳に戻る。祈里はまぶたを下ろし、呼吸を震わせた。
 くすぐったいけれど、マッサージされているみたいで気持ちが良い。
 ただ、ツンとこわばった乳首が手の平でこすられた時だけは、許しを乞うような切ない声の響きで喘いだ。

「やっ・・・ああっ、だめっ」
「祈里、かわいい顔してる。カラダもすごく熱くなってるし」

 祈里がお礼にと持ってきてくれた、くちどけのなめらかさナンバーワンを謳うホワイトチョコ。この上気した肌の上に乗せたら、ほどよい具合にとろけて美味しそうだと思った。

「あ、美希ちゃん、今、エッチなこと考えたでしょ」
「じゃあ、アタシがどんなエッチな事を考えたか当ててみて」
「無理。分からないよ、そんなの」
「分からない? なら、罰ゲームという事で・・・・・・」
「ひいっ!?」


「ねえ、美希ちゃん、もういい? 数え始めるよ?」
「待って」

 美希が手をとめて、右の乳房に口を近づけた。身構えるようにカラダを固くした祈里の気配を察して、なるべく静かに唇を触れさせた。
 ン゛ッ ――― と祈里が喉を震わせて、全身を硬直させた。しかし、乳房の丸みを愛でるみたいに「ちゅっ、ちゅっ・・・」と甘やかなキスが繰り返されると、少しずつそれも解けていった。

「じゃあ、いくね。い・・・いーーーーち・・・・・・」
「ん、ダメ。ちょっと早い。やり直し」
「えっ、うそ。もうっ・・・、じゃあ、いーーーーーーーーち・・・・・・」

 カウントが始まると同時に、美希が可愛らしい乳頭へくちづけを行う。「ちゅうっ」と音を鳴らして吸い上げると、祈里の上半身が激しくわなないた。

「やああっ・・・、美希ちゃんだめえええーーっっ」

 離れた美希の唇が、今度は左の乳房の先っぽに吸いつく。赤ん坊みたいに「ちゅうちゅう」と吸う幼なじみへ、祈里が「そんなに吸ってもおっぱいでないってばぁっ」と泣きそうな声で訴えた。
 少しでも早く終わらせようと、祈里が次のカウントを開始する。

「に、にーー・・・ア゛ア゛ッ、やだ、もおおっ、美希ちゃんっ!」

 祈里が数え始めるタイミングに合わせて、美希の唇が「ぢゅぢゅぢゅぢゅっ・・・」と小刻みに連続で吸いつき、敏感な乳頭を甘美な刺激でなぶってきたのだ。これは明らかに妨害だった。
 陶然とした表情で「あ゛あ゛あ゛あ゛っ、だめぇぇ」と声を震わせ、祈里が身体を逃がそうとした。しかし、すぐに背中が椅子の背もたれにぶつかって、逃げ場を失う。
 こんな風にいやらしく吸われると、気持ち良すぎて乳首がおかしくなってしまいそうだった。

 右の乳房に手の平が這わされ、丁寧に撫でまわされる。でも、祈里の口が再びカウントを開始しようとする瞬間を狙って、いやらしく揉みしだいてきた。

「あ゛ぁんんっ! やだもうっ、数えられないじゃないっ。そんな事ばっかりするなら、わたし、今すぐ降参するから!」

 ついに祈里が怒ってしまった。
 実際に降参されてしまうと、楽しみにしている祈里からのご褒美(くちづけ)がご破算になる。「あはは・・・それは困る」と美希が反省して、乳房へのキスを続けさせてもらう。
 コホンッと軽く咳払いした祈里が、今度こそカウントを再開。

「にーーーーーーーい」

 残り、8回。
 美希の唇が祈里の乳首にチュパチュパとむしゃぶりついて、せいいっぱい甘える。

(ううううっ、くすぐったいくすぐったいっ・・・)

 祈里が眉間に悩ましげなシワを刻んで、くねっ、とウエストをくねらせた。ちょっとぐらいのいじわるなら、大目に見てあげてもいいかな、と思う。
 自分の胸に一生懸命吸いつく美希が可愛くて仕方がない。

「さーーーーーーーーん」

 乳房の先から口を離した美希が、祈里の胸に頬ずりしながら反対側の丸みへと移る。軟らかな乳肉へ「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ・・・」とキスを滑らせてきた唇が、すっかり感じやすくなった乳首をくわえるのを待ってから、祈里が四回目のカウント。

「よーーーーーーーーん・・・、きゃっ」

 歯の硬い感触で上下から挟まれた途端、かわいい悲鳴を上げて祈里が身をよじった。

「こーら、噛んじゃだめっ。ふふっ、もう美希ちゃんたらぁ」

 口からすっぽ抜けた乳首を追って、美希が荒々しく唇を押し付けた。「ぢゅうっ・・・」と強めに吸引してから、コリコリした乳頭を優しく甘噛みして口の中でもてあそぶ。
 15歳の少女の乳首に、今日まで知らなかったヨロコビが走る。「くうっ・・・」と祈里が喉を仰け反らせて、びくっ・・・びくっ・・・と白い上半身を引くつかせた。

 ――― 美希ちゃん、もっといっぱい、わたしに・・・。
 祈里は意識して、次のカウントの開始を遅らせた。

 ゆっくりと、甘い声でカウントが続き、9回まで数えた。
 美希の口が両方の乳房を行き来して、乳突起を丹念に吸いしゃぶり、それだけでは飽き足らずチロチロと舌を躍らせて舐めまわしていた。

「ううっ、くすぐったいよぉ。ねえ、美希ちゃん、もういい? 早くしないと・・・・・・」
「ん、まだ待って・・・」

 睦言のように交わされる少女たちの会話。

「ほら、美希ちゃんがいっぱい吸ってくれたから・・・、今吸われていないほうの乳首も気持ちいいままなんだよ」

 祈里は、我が子を慈しむ母親の眼差しを美希へと注いでいた。
 放っておくといつまでも終わりそうにないので、

「じゅーーーーーーーーーう。はい、おしまい」
 と、まくっていたニットセーターを強引に下ろしてしまった。美希がさっそく抗議してきたが、やわらかな笑顔で受け流す。
 ニットセーターの中に手を入れ、ブラジャーとインナーを直しながら、ムズムズとうずいた状態が治まらない胸先を感じて思う。

(美希ちゃんからの宝物、こんなにたくさんもらえて・・・・・・しあわせ)

 二人の甘い雰囲気は、まだ続いていた。
 祈里は最後まで降参しなかったから ――― 。

「美希ちゃん・・・・・・」
「うん、早く頂戴」

 大好き。
 その言葉は声ではなく、キスを使って美希へ届けられた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 あと10秒ほど遅かったら、キスはお預けになっていた。

 店を終えてやってくる母親の足音が聞こえた時点で、美希と祈里は素早くアイコンタクトを交わして意思疎通。ドアが開けられた時には、もう何事もなかったかのように振る舞っていた。
 ただ、さらに10秒後、お腹をすかせたレミがテーブルに着いてしまい、二人は微妙な後ろめたさをずっと感じつつ、今日の夕食を食べるハメになったが。

 とりあえず、おでんを温めなおしている間に、美希が自分の考えている海外留学の件をレミに相談してみた。実は、最初にラブたちの前で決意表明してから母に話す予定だったので、まだ全く打ち明けていなかったのだ。
 美希が話し終わった途端、「グアムよ! グアムに留学しなさい!」と即効で返ってきて頭が痛くなった。

「それ、ママが行きたいだけじゃない」
「いいわよぉ、グアム。今度のお正月、また行っちゃおうかしら、グアム」
「ハイハイ」

 一応、留学条件は、まず治安の良い国であること ――― それだけはレミは譲らないそうだ。あと諸々に関しては早々に母娘で相談して・・・と決まったあたりで、土鍋の中身が空になった。
 二人分を三人で食べると、さすがになくなるのが早い。
 母親のために別に用意していた分を持ってきて、それを温める。

「待っててね。祈里には、ちゃーんとお餅の巾着をあげるから」
「えーっ、ひどいよ美希ちゃんっ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 夕食の片づけは、レミがしてくれる事になった。祈里が自分も手伝うと申し出たが、遅くならないうちに帰るようにと、やんわり断られてしまった。

「祈里、外は風が強くなってきてるみたいだから・・・」

 玄関まで見送りについてきた美希の手には、祈里が返しにきた青いマフラーがあった。
 ウン・・・と頷いて、祈里がそれを首に巻いてもらう。

「美希ちゃん。わたしね、どんな動物でも助けられる獣医になる」
「がんばって。祈里は心が強いから、どんな困難だって乗り越えられる」
「美希ちゃんもがんばって。・・・でもね、本当に駄目だと思った時はガマンしないで」

 ギュッと美希の背中に両腕を回して抱きしめる。

「わたしが支えるよ」
「じゃあ、祈里はアタシがこうして支えてあげる」

 美希が祈里を強く抱きしめ返す。

「どんなに遠く離れてても安心して。せつなにアカルン使ってもらって、ひとっ飛びだから」
「タクシー代わりに使ったら怒られちゃうよ?」
 と、笑ってから、祈里が言葉を続けた。
「別々の道を進んでも、わたしたち、ずっと一緒だから」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 美希の言ったとおり、外は氷のように冷たい風が強く吹いていた。
 さらには、歩き出してしばらくすると、風の中に粉雪が舞うようになった。
 早く帰らないと身体が冷え切ってしまう ――― それが分かっていても、祈里の足取りは遅い。
 本当は帰りたくなかった。
『美希ちゃん、今夜泊まってもいい?』と、ただ、そう言えばよかったのに。
 どうして、それが言えなかったんだろう?

(だって、お母さんたちには今晩泊まるなんて言ってないし、パジャマも持ってきてないし)

 心の中でウソの言い訳を始める。
 自分は恥ずかしくて逃げ出してきただけなのに・・・・・・。
 股間へのくちづけを思い出しただけで、顔が熱くなってくる。

(あれ以上はわたし無理だよ、美希ちゃん・・・)

 青いマフラーに手を添え、それを口もとにくっつける。

(美希ちゃん)

 迷って迷って、自分がどうしたいのか、心が定まってくれない。
 だから祈里は、自分の一番欲しいものだけを考えた。
 やっぱり ――― 戻ろう。
 そう心を決めて足をとめた時、

「今夜、泊まってく?」
 と、後ろから優しく抱きつかれた。
 帰したくなくなって、追いかけてきてくれたんだ ――― 美希ちゃん、嬉しいよ。
 祈里が微笑みをこぼし、「うん」と静かにうなずく。
 ――― これからのわたしは、ずっと青が似合う気分。

 手を強く繋ぎ、身体同士をくっつけるようにして二人の少女が歩く。
 時折、小声の会話を挟みながら。

「美希ちゃん、寒いね」
「大丈夫、すぐにあったかくなるわよ。 ――― アタシたち二人とも」
「うふふっ、優しく・・・してください」

(おわり)
最終更新:2013年01月06日 23:29