「ブッキー?偶然ね」
自分を呼ぶ聞き慣れた声に、驚きながら振り返ると、そこにはやはり彼女がいた。
「ほんとね、すっごい偶然。せつなちゃん、今帰り?」
ドキドキしながら彼女の顔を見る。神様、ありがとう!わたし信じてた。この偶然に感謝します。
「うん、ラブは委員の仕事で居残りなの」
彼女の口から幼なじみ兼恋仇の名前が出るだけで、いつもながら胸がチクチク痛む。
「ブッキーは何してたの?」
小首を少しだけ傾げて、微笑むせつな。んもう、可愛すぎるなぁ。くらくらしそうだよ。
そうだ!あの事、今なら言えるかも。言うなら今しかないよね。
「あ、あの、あのね、せつなちゃん、わたしお願いがあるの」
「お願い?いったいなぁに?私に出来ることなら精一杯がんばるわ」
「あのね、こんなこと言うの恥ずかしいんだけど…」
やだ、なんだか顔が熱い…。
「わたしのこと、下の名前で呼んでほしいの。いのりって、呼び捨てで。ダメかなぁ?」
とうとう言ってしまった。 彼女は少し驚いているみたい。
「え…構わないけど、どうして?なぜ今までラブや美希には言わなかったの?」
そう聞かれると思ってた。でもその答えはもう決めてある。
「ラブちゃんや美希たんにはどう呼ばれててもいいの。でも…せつなちゃんには、
せつなちゃんだけにはいのりって呼んでほしいから」
言えた。ブッキーじゃない、いのりの本当の気持ち。
クスッ。彼女が少し笑った。やっぱり子供じみた理由で可笑しいのかな。言わなければよかった…。
「わかったわ。でも、ひとつだけ条件がある」
「条件?それって、なに?呼んでもらえるなら何でもする!」
「私のことも呼び捨てにすること。せつなって」
「え!?ハ、ハイ!」
嬉しい。今わたしすっごく幸せだよ。
「よろしく、いのり」
「よろしく、せつな」
夕闇に彼女の笑顔があふれて、涙で見えなくなった。
最終更新:2009年10月03日 21:44