今年の夏は長雨のせいか、早く過ぎてしまった感があって。
いよいよ来週から学校も始まる。あっと言う間の夏休みだったかな。
そんなアタシにとって、短い夏の最後の日曜日。大好きなアナタと待ちに待ったデートの日。
「今日もバッチリ!うーん、アタシ完璧!」
ママにお願いして、ちょっとだけ背伸びしたオシャレな服を着飾って。
いつ以来だろう、こんなにときめいて洋服を着たのは。
いつしかモデルとして働く事にも慣れ、洋服を着るのに戸惑いも無くなり。
仕事としてのオシャレ。モデル、蒼乃美希としての生き方。
だけど何か物足りない自分もいて。
「チョット胸開きすぎかも。」
アナタに会える嬉しさが、アタシの気持ちを開放的にさせて。鏡に映る蒼乃美希は、最高の笑顔でこちらを見てる。
「ママー、今日遅くなるかもしれなーい!」
弾む声が玄関に響く。足取りも軽く、ドアを開けると夏の太陽の日差しがアタシを襲ってきた。
まだアタシに歯向かう気なの?女の大敵は。そう心に呟きながら実は、晴れてくれた事に感謝したり。
思えばいつも、アナタと一緒にいた気がするな。幼馴染みとしての運命だったのかもしれないケド。
変わらぬ四葉町の景色。アナタと歩いたこの道。これから進んでいく未来へ。
思い出のアルバムは進行形。アタシもまだまだ進行形。あ、アタシたちも・・・だった。
街路樹のお陰で歩道は日陰が多く、風も気持ちいい。自然と歩くスピードも速くなって。
「早く会いたい・・・」
そう呟く自分がどこか恥ずかしい。
あそこの角を曲がれば待合場所のレストラン。時間よりも30分前に到着。ほんとアタシって完璧。
手鏡でお化粧チェック。ルージュも塗り直して。開き過ぎだった胸をちょっと隠したり。
「美っ希ちゃんっ!」
後ろから脅かすようにアタシの肩を掴んで顔を覗かせる無邪気な天使。
「えっ!?もう着てたの?」
先を越されるなんて有り得ない・・・。完璧主義のアタシが負けるなんて。
と、言うか負けても悔しくない相手。じゃない、
大切な人。
大好きな人。
恋人、山吹祈里。
眩しい夏の太陽以上の輝きを持ったアナタ。アタシにいつも、希望と信じる心を届けてくれる。
「早いわよ祈里。待つ喜びも感じさせてくれないなんて。」
ちょっとふてくされてみる。まだまだアタシも子供。
「ごめんなさぁい・・・。でも、わたしも美希ちゃんと一緒だよ。待ってる時間も楽しみなの。」
そう言って、アタシの両手を握り笑顔を振りまく祈里。きゅんと胸が締め付けられる。可愛すぎる程可愛い。
「お洋服も綺麗だねー。美希ちゃん大人っぽい。」
ちゃんと背伸びしてオシャレしてきたトコも褒めてくれる。さすがアタシの彼女。
付き合い始めて最初の夏。お互い、忙しいながらも会える事を望み、信じ合ってここまでやって来れた。
レストランから見える青空は雲一つ無く。燦燦と照りつける太陽もアタシたちを祝ってくれていた。
「祈里、ホントそれ好きだよね」
このレストランに来ると、必ず注文するのがホットケーキ。ちょっとシロップを多めにかけるトコがまだまだ子供。
「美希ちゃんだって毎回一緒だよぉ?」
アタシも実は単純。アイスカフェオレとホットサンド。もっと食べたいけど、好きな人の前では小食気取り。
そんな心情を無視して祈里はイタズラにアタシを誘惑してくる。
「あーんしてっ?美味しいよ?」
「チョット・・・。恥ずかしいわよ!」
「お願ーい。ねっ?」
「・・・」
やっぱり甘い。かけ過ぎだってシロップ・・・。
「あ!美希ちゃん、この後どこに行くの?」
目をキラキラ輝かせながら問いかける祈里。このテーブルさえも遠く感じる程の距離。
抱きしめたい。壊れるほどに。
「夏の思い出作りに・・・行こっか!」
「うん!ほんと、今日は楽しみにしてたの!」
会えない時間は愛を育てるって本当なんだと実感した瞬間。
「そうそう。新しいメニューが出来たんだって。祈里知ってる?」
「え?知らないよ?」
「メニューのここなんだけど・・・」
そう言ってアタシは祈里の横に座り。
―――chu―――
「さっきの仕返しよ。」
「・・・恥ずかしい・・・」
夏の思い出。アタシならではの演出。ちょっと甘すぎたカモね。
最終更新:2009年08月30日 08:06