ここは四つ葉町のファミリーレストラン。
蒼乃美希と山吹祈里は奥の片隅に席を取り、和やかに談笑していた。
美希が口を閉じてうつむくと、会話がしばらく途切れた。
ゆっくり顔をあげた美希は、切り出し始めた。
「あのさブッキー、なんでプリキュア続けてるの?」
「えっ?」
「うら若き乙女が年中大変な目に逢ってるのよ、こんなひどい話ってないと思わない?」
「えっと‥それは‥‥そのう‥」
「せつなは、一度命を失ってしまって、そしてプリキュアになることで
いまのせつながあるわけでしょ。今では何があっても戦いから逃げることはできない、
と思ってるんじゃないかな」
「‥‥‥‥‥‥」
「ラブはさ、どんなピンチに陥っても最後は絶対自分たちが勝つ、
って信じて疑ってないみたい。何だかよく分かんないけど」
「そうかもしれないわね」
「あたしは‥‥」
「美希ちゃんは?」
「その前にブッキーは?」
「‥やっぱり、仲間がピンチの時は自分が何とかしてあげないと‥」
「そうそう、パインには何度も助けてもらってるよね。
ホントはこっちの方が守ってあげなきゃ、って思ってるのに」
「えへへへへ」
「あたしがプリキュアをやめるって言った時もそんな感じだったわよね。
でもね、それだけじゃあちょっと甘すぎるんじゃないかしら」
「そう?」
「あたしは、もう死ぬ覚悟ができてるっていうか‥‥」
「えっ?」
「希望のプリキュアなのにこれじゃあしょうがないんだけどね。はは。
もうダメだと思うことが何度もあったよ。それで後でいろいろ考えるの」
「美希ちゃん‥‥」
「戦いで死んでしまうのもアリかなって。
プリキュアになって普通の人じゃできないようなこともいろいろできたし、
後から讃えてくれる人も何人かはいるだろうし。
あたしが無鉄砲なのは昔からだから、ママも許してくれるかなって勝手に思ったりして」
「美希ちゃん‥美希ちゃん死なないで!」
「ブッキー?ちょっと落ち着いて。泣かせるようなこと言ったのなら謝るわ。
これはあたしがそう思っているだけで‥
でね、あたしはかなり開き直ってるつもりなんだけど、
何ていうか、ブッキーが一番無理してるようにあたしには映る。
だから‥プリキュアやめてもいいんだよ?」
「それって‥わたしが要らないってこと?」
「そんなこと言ってない!そんなことは‥絶対‥ない」
「ねえ聞いて。ブッキーがどんな気持ちで戦っているか、あたし真剣に考えたの。
そりゃあプリキュアとして選ばれたんだし、使命感を大いに持っているのは分かるけど、
ラブやあたしに引きずられてる部分も結構あるんじゃないかって。
つらい、って言いたくても言い出せないんじゃないかって。
ブッキーみたいに引っ込み思案で優しい子が、耐えられるはずないんじゃないかって‥」
「美希ちゃん、泣いてるの?」
「だから‥だから、この子を戦いで倒れさせるわけにはいかない、
あたしがなんとかしなきゃ、って‥‥うっ‥くっ‥」
「美希ちゃんそんなに心配してくれて‥‥
でもやっぱり、みんなの元を離れるわけにはいかないわ」
「‥‥‥ありがとう」
「え?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「やだ美希ちゃん、さっきと反対のこと言ってる。
大丈夫よ、わたしはどこにも行かないわ」
「う‥‥ダ、ダメだわ、あーあたし何やってんだろう‥
さっきの決心はどこへやら‥
ブッキーを説得するつもりが、逆に慰められて‥」
「うふふふふ」
「正直に言います。側にいてください」
「うん」
終
最終更新:2009年09月01日 21:51