それは、アタシが二人目のプリキュアとして命を受けた翌日の事。
いつも通り、区民センターのプールで汗を流していた。
昨日の戦闘後とは思えない程、みんなも平然と泳いでいる。
たった一人を除いて・・・ね。
さっきから視線を感じる。
それも冷たい目線を。
あの子はアタシを知っている。
何故かそう思えた。
しばらく様子を見るか。
それともこっちからアプローチをかけるか。
答えが出る間も無く、事は進む。
その少女は音を立てる事無く近づいて来た。
―あなたプリキュアでしょ―
心臓を一突きされたような衝撃だった。
やはりこの子はアタシを知っている。
胸騒ぎは止まらない。
「昨日一緒にいた子はどこ?」
「あの子は関係ないわ。それより名前ぐらい名乗ったら?」
「ふっ・・・。我が名はイース。これから長い付き合いになるぞ!」
「それはごめんだわ。アタシは忙しいの。あなたに付き合ってる暇はなくってよ。」
―チッ―
互いの目と目は交差し、火花を散らす。
「蒼乃美希。表へ出ろ。気に入った。」
「上等よ。と、その前に着替えぐらいさせてよね。これじゃ完璧じゃないわ。」
「逃げるなよ・・・」
時間稼ぎにはあまりにも足り無すぎる。ラブをたとえ呼んだとしても間に合わない・・・。
(くっ・・・。まだキュアベリーとしてアタシは・・・)
どこか吹っ切れないでいた自分の感情が邪魔をする。
が、やるしかない。家族や親友、四葉町を守るためにも!
「遅いぞ!逃げなかっただけ褒めてやってもいいが。」
「アンタに褒められる筋合いはなくってよ!」
―――チェィィィンジ・プリキュアッ!!―――
―――ビーーート・アーーップ!!―――
「ブルーのハートは希望のしるし!! つみたてフレッシュ、キュアベリー!!」
「イースとか言ったわね。ここじゃ戦いに集中出来ないわ。場所を変えるわよ。」
「っ!私に指図するなっ!!!」
「付いてきなさいっ!」
「チィッ!」
アタシは四葉町から出来るだけ遠くの場所を選んだ。今、アタシに出来る事はそれぐらいだと。
「えぇいっ!もういいだろ!」
「そうね。」
暁色の夕日がアタシたちを照らす。
「キュアベリー。まずはお前を倒して、アイツをFUKOにしてやろう。」
氷のような冷たい口調。この子には愛を感じなかった。この時は。
「そうはさせないわ!と、一つだけ教えてあげる。」
「何だ?」
「あの子に手出ししたら・・・。アナタを殺す。例え、刺し違えても。この身が滅びようともっ!!!」
疾風の如く拳を突き立てる。間髪入れずに後ろ回し蹴り。そして肘打ちを浴びせる。
怒号が空中で響き渡り、イースも激しく応戦する。
「何故お前はそこまでして戦う!所詮人間などっ!」
「アナタこそどうして戦うの!?守るべきものがそこにはあるのっ!?」
一瞬怯んだイースの首元に、アタシは手刀を下ろした。
時が止まる。
「何故止めるっ!私は敵だぞ!」
「・・・教えて欲しい・・・。アナタ・・・、いやイースは誰かに愛されてる?それとも、誰かを愛してる?」
アタシの行動は自殺行為だった。敵を仕留める所か、彼女を助けたいと言う気持ちが生じていて。
「私は・・・。」
怒りに満ち溢れていたイースの顔が少しばかり緩んだ。それはどこか寂し気で。
「戦いじゃ何も産まれない。アナタも完璧を目指したいなら、まずは誰かを愛する事よ。それが出来ないのであれば
誰かから愛される人になればイイ。」
そう言うとアタシはイースの体を包み込んだ。やはり氷のように冷たかった。
が、希望は捨てちゃいけない。
「離せっ!」
「イース!逃げちゃダメよっ!」
「私に指図するなと言っているっ!!!」
再び視線と視線がぶつかる。アタシは一歩も引かなかった。
「お前とまた、拳を交えてみたいな。」
「嫌よ。」
「貴様・・・。まぁいい。」
「あ、一つだけ条件があるわ。」
「何だ?」
「ちゃーんと体は温めるもんよ。そんなんじゃ風邪引くわ。今度は着こんで来なさいよね。」
「フ・・・。お前こそ、よくそんな格好して言える。」
そう呟くイースの口元が笑っているかのように思えた。
「お互い様ってトコじゃない。まぁイイわ・・・。あっ、そうだ!」
「まだ喋るのか?」
「アタシ、アナタの事キライじゃないから。」
―――!?―――
「お、覚えていろっ!蒼乃・・・、キュアベリー!」
明らかに戸惑いを隠せなかったイース。その後姿は、夕日で眩しくて最後まで
見えなかったケド・・・。
伝わったかな、アタシのハート。
最終更新:2009年09月06日 23:52