3-125

それは、アタシが二人目のプリキュアとして命を受けた翌日の事。

いつも通り、区民センターのプールで汗を流していた。
昨日の戦闘後とは思えない程、みんなも平然と泳いでいる。



たった一人を除いて・・・ね。



さっきから視線を感じる。
それも冷たい目線を。


あの子はアタシを知っている。
何故かそう思えた。



しばらく様子を見るか。

それともこっちからアプローチをかけるか。


答えが出る間も無く、事は進む。


その少女は音を立てる事無く近づいて来た。



―あなたプリキュアでしょ―


心臓を一突きされたような衝撃だった。
やはりこの子はアタシを知っている。
胸騒ぎは止まらない。


「昨日一緒にいた子はどこ?」


「あの子は関係ないわ。それより名前ぐらい名乗ったら?」



「ふっ・・・。我が名はイース。これから長い付き合いになるぞ!」



「それはごめんだわ。アタシは忙しいの。あなたに付き合ってる暇はなくってよ。」



―チッ―



互いの目と目は交差し、火花を散らす。


「蒼乃美希。表へ出ろ。気に入った。」

「上等よ。と、その前に着替えぐらいさせてよね。これじゃ完璧じゃないわ。」



「逃げるなよ・・・」



時間稼ぎにはあまりにも足り無すぎる。ラブをたとえ呼んだとしても間に合わない・・・。

(くっ・・・。まだキュアベリーとしてアタシは・・・)
どこか吹っ切れないでいた自分の感情が邪魔をする。

が、やるしかない。家族や親友、四葉町を守るためにも!



「遅いぞ!逃げなかっただけ褒めてやってもいいが。」

「アンタに褒められる筋合いはなくってよ!」

―――チェィィィンジ・プリキュアッ!!―――

―――ビーーート・アーーップ!!―――


「ブルーのハートは希望のしるし!! つみたてフレッシュ、キュアベリー!!」



「イースとか言ったわね。ここじゃ戦いに集中出来ないわ。場所を変えるわよ。」

「っ!私に指図するなっ!!!」

「付いてきなさいっ!」

「チィッ!」


アタシは四葉町から出来るだけ遠くの場所を選んだ。今、アタシに出来る事はそれぐらいだと。


「えぇいっ!もういいだろ!」

「そうね。」

暁色の夕日がアタシたちを照らす。


「キュアベリー。まずはお前を倒して、アイツをFUKOにしてやろう。」
氷のような冷たい口調。この子には愛を感じなかった。この時は。


「そうはさせないわ!と、一つだけ教えてあげる。」

「何だ?」



「あの子に手出ししたら・・・。アナタを殺す。例え、刺し違えても。この身が滅びようともっ!!!」



疾風の如く拳を突き立てる。間髪入れずに後ろ回し蹴り。そして肘打ちを浴びせる。
怒号が空中で響き渡り、イースも激しく応戦する。


「何故お前はそこまでして戦う!所詮人間などっ!」


「アナタこそどうして戦うの!?守るべきものがそこにはあるのっ!?」

一瞬怯んだイースの首元に、アタシは手刀を下ろした。


時が止まる。


「何故止めるっ!私は敵だぞ!」


「・・・教えて欲しい・・・。アナタ・・・、いやイースは誰かに愛されてる?それとも、誰かを愛してる?」
アタシの行動は自殺行為だった。敵を仕留める所か、彼女を助けたいと言う気持ちが生じていて。



「私は・・・。」
怒りに満ち溢れていたイースの顔が少しばかり緩んだ。それはどこか寂し気で。


「戦いじゃ何も産まれない。アナタも完璧を目指したいなら、まずは誰かを愛する事よ。それが出来ないのであれば
誰かから愛される人になればイイ。」
そう言うとアタシはイースの体を包み込んだ。やはり氷のように冷たかった。

が、希望は捨てちゃいけない。


「離せっ!」

「イース!逃げちゃダメよっ!」

「私に指図するなと言っているっ!!!」



再び視線と視線がぶつかる。アタシは一歩も引かなかった。



「お前とまた、拳を交えてみたいな。」


「嫌よ。」


「貴様・・・。まぁいい。」


「あ、一つだけ条件があるわ。」

「何だ?」


「ちゃーんと体は温めるもんよ。そんなんじゃ風邪引くわ。今度は着こんで来なさいよね。」


「フ・・・。お前こそ、よくそんな格好して言える。」
そう呟くイースの口元が笑っているかのように思えた。


「お互い様ってトコじゃない。まぁイイわ・・・。あっ、そうだ!」

「まだ喋るのか?」



「アタシ、アナタの事キライじゃないから。」



―――!?―――

「お、覚えていろっ!蒼乃・・・、キュアベリー!」

明らかに戸惑いを隠せなかったイース。その後姿は、夕日で眩しくて最後まで
見えなかったケド・・・。

伝わったかな、アタシのハート。
最終更新:2009年09月06日 23:52