我が名はイース、ラビリンス総統メビウス様がしもべ
…のはずだった。
アイツ、、、桃園ラブに出会うまでは。
――――――――――――――――――――――
リンクルンとか言う変身道具を奪うため、コードネーム東せつなとして近づいた私を、アイツは
〝友達〟
だと言った。
友達だと…?笑わせるな!私には友達など必要ない。メビウス様さえいればいいのだから。
まあいい。友達ごっこをしてやろう。メビウス様の使命を果たすため。
けれどあの日から、私の中にもうひとりの私が住みついてしまったのだ。
新しい力を手に入れたはずなのに、痛みに耐え切れずプリキュアとの戦いに敗れた夜。
敗北感に打ちのめされて横たわる私に、心の中で誰かが呟いた。
『ひどくつらそうね』
「なっ…お前は誰だ!なぜ誰もいないのに声が聞こえるのだ!?」
焦る私に囁くように答える声もまた、確かに自分の声だった。
『私はせつな。イースから生まれたもうひとりのあなた』
「くっ、あれはただの変装だ!…幻聴が聞こえるとは、私も少し疲れたか?」
『信じないなら構わないわ。それよりも、こんなにも苦しくて痛いのはどして?』
せつなと名乗る声は、不思議そうに尋ねた。
「幻聴に付き合うほど暇ではないのだが…まあよい。このカードだ。このカードが私に新しい力をくれる。それには代償が必要なのだ」
私は自嘲気味に吐き捨てる。自分と会話をしているなんて、どうかしているな。
『そんなに痛くて苦しいのなら、もう闘うのはよせば?』
「馬鹿なことを!メビウス様のご命令なのだ。やめるわけにはいかない。お前が私から生まれたと言うのなら、
メビウス様の使命が絶対だとわかっているはずだろう?」
いつのまにか、見えない声を相手に、まるで幼い子供に言い聞かせるように話している自分がいた。
『どしてメビウス様はあなたを痛くするの?あなたはメビウス様を崇拝しているけれど、じゃあメビウス様はどうなの?
なぜあなたを大事にしてくれないの?』
「なっ…」
せつなに言われて、初めて疑問に思う。
こんなにボロボロになるまで尽くしても、なぜメビウス様は私を見てくれないのだろう。
「あのお方のためなら、たとえこの命尽きても構うものか!」
『ほんとうに?』
せつなの言葉に、自問自答する。本当にそうなのだろうか。
『あなたは何のために闘っているの?』
それはいつも心の奥深くにしまい込んだ疑問だった。
頭で考えたわけではなく、自然に言葉が流れ出る。
「私はただ…メビウス様に見てほしかった。ラビリンスのために闘う自分を褒めてほしかった。私という存在を、誰かに認めてほしかった」
『その誰かって、メビウス様でなくてもいいんでしょう?』
誰かって誰だ?せつなの言葉で、急にアイツの顔が浮かぶ。
『そう。その子よ』
「アイツは敵だぞ!」
『敵なんかじゃない。ラブは友達よ』
友達…。友達とは何なのだろう。
よくわからない。けれど、アイツを思い出すと胸が苦しい。
『イース…泣いてるのね』
せつなに言われ、自分が涙を流していることに気づく。
「泣いてなどいない!泣いてなど…」
私は涙を拭った。けれど熱い液体は、あとからあとから溢れ出し、止まらない。
「…私は…どうすれば…」
メビウス様に逆らえば、どうなるのかは知っていた。
「私は怖い…私が私でなくなっていくのが怖いんだ」
弱音をむき出しにした私に、せつなは優しく言った。
『違うわ、あなたは変わろとしているだけ。自分ではまだ気づいていないだけなの』
「私にも変われる日がくるのかな」
『ええ。いつも私はあなたのそばにいるわ。あなたが光に照らされるその日まで』
最終更新:2009年09月15日 00:39