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あの子は苦しんでいた。

心が泣いていた。


体もボロボロになりながら…。



憎き相手だったイース。みんなを散々困らせたあの子。

なのに、あたしは何故か〝助けたい〟と思った。

だって…


――泣いているから――


女の子が泣く時は、寂しい時・辛い時・悲しい時・嬉しい時って決まってる。
今のあの子は寂しくて辛くて、悲しい時なんだ…。


あたしはその涙の理由を、嬉し涙に変えてあげたいと思った。


「イース…。寂しいんだよね?とっても辛いんだよね?悲しいのならあたしの胸で泣いてイイんだよ?」


「私が泣く!?ふざけるなっ!私はどんなに辛く苦しんでも泣いたりなどはっ!!!」

「嘘っ!」
「嘘ではないっ!」
イースの形相が変わると同時に、体には無数の傷が浮かび上がる。


「イース…。ダメだよ、自分に嘘付いちゃ…。」
そう言ってあたしはあの子の体を抱きしめた。口調は優しく、抱きしめる力は強く。誰にも奪われないよう…



瞬間、二人を包む光の衣。



「う…、うぅん…」
「…ここは…どこだ?」


一面、綺麗な花に囲まれた丘とでも言うのだろうか。こんな景色見た事無い。


「パラレルワールドっ!?」


「いや、違うな…。ここはラビリンスでもない。」


さっきまでの言い争いは嘘のような、静かな空間に二人は取り込まれてる。


「ま、いっか…。ねぇ、イース。」

「何だ?」


「あたしたちって戦わなきゃイケないのかな?」

「……」



「気持ちイイよ、ほら。」
「あっ…」
ラブ、いやピーチは私の腕を掴むと、そっと自分の腕に組んで花の絨毯の上に寝転ぶ。


目を閉じると戦っていた時の記憶が薄れていくのがわかった。


それは二人とも、同時に感じとれた不思議な感触。


「傷まだ痛む?大丈夫?」
優しい顔したピーチが私に微笑む。


「平気…。」


変な感じ。でも嫌じゃない…。初めての感触なのだが、どこかその…。



「腕外してくれないか?」

「なんでー?」




「照れる…。」


「ふふ。可愛いね、イースって。」




「お前もな。」
私が私で無くなっていくような感じ。体もどこか熱い。顔も熱くなってるのがわかった。


「熱くないか?」

「ん?全然。」



「そろそろ離してくれないか?」

「やーだ。」



「怒るぞ…。」

「あ、ごめん…。」
そう言ってラブ、いやピーチは私の傍から離れる。さっきから何なんだ私は…。



少し縮まったあたしたちの距離。もう少しだけ頑張ってみようと思う。

「イースの体にあった傷消えてるよ!」
無理矢理な嘘。そう言ってあたしはイースの背中にキスをする。

――chu――

「んっ…」
思いもよらぬイースの声に、あたしも一瞬ドキっとする。


「あたし…、イースともう少しだけこうしていたい…。」
私はお前の敵なんだぞ!体に…触れるな…


この不思議な空間で触れ合う二人の少女。その時間はあっという間に過ぎ


「またこうして一緒にいたいよ、イースと。」



「生まれ変われたならな。」

再び二人を包む光の衣。元の世界に戻るのが惜しいぐらいに感じた時間だった。



「イースって胸大きいね!」
「なっ!?」
最終更新:2009年09月16日 01:01