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「住む所を探しているなら家に来るといい。」

「ラブから話は聞いているわ。」

帰る所の無かった私に手を差し伸べてくれたお父さんとお母さん。

そしてラブ。

私は嬉しかった。本当に嬉しかった。初めて幸せを肌で感じる事が出来た。



「お邪魔します…。」


「話を聞いて、ある程度は準備したんだけどねー。まだ片付いてないんだ!」
お父さんは汗を掻いたフリをして私を笑わせる。

「今日はラブの部屋で寝てもらってイイ?散らかってるけど。」
お母さんはちょっと呆れた顔をしてる。

「ちょっとお母さん!それじゃまるで、あたしがいっつもだらしないみたいじゃん!!!」

「当たってる当たってる。」
「図星でしょ、ラブ。」

「とほほー」


「くすくす…」

私、また笑ってる…。これが『幸せ』なんだ。



「せつなー、まだまだ寝かさないよー!いっぱいお喋りしちゃおー!」
「僕も参加するぞー!」
「コラっ!お父さんは明日も仕事でしょ!ラブもダンス練習あるんでしょ!」

「はい…」
「はーい…。ぶぅ…」

「さ、せつなちゃん。部屋に行ってゆっくり休んでね。と、これは着替えね。」
「ありがとうございます。」
お母さんに会釈。

「おやすみ、二人とも。」
「おやすみなさい。」
お父さんにも会釈。



「さ、どうぞっ!あたしのお部屋へ!」

二人は着替えを済ませ、ベッドに腰掛ける。

「今日はせつながベッド使ってイイよ!あたしは下で寝るから。」

「え?いいわよ、あたしが下で寝るから。」

「いいのいいの。遠慮しない!さ、どーぞ。」

「あ、ありがと…。」

布団と言う物はとても温かくて柔らかかった。と、いい香りがした。ラブの匂いなのかしら?
ベッドの下に寝場所を準備するラブ。

私は何だか申し訳なくて。



「じゃ、電気消すね。」
「ええ。」




「たっはー!緊張して眠れないよっ!」
「きゃっ!び、びっくりするじゃない…」

「ごめん…」



「せつな覚えてるかな。」
「何?」

「不思議な光があたしたちを包み込んで、お花畑みたいな所へ運んでくれたのを。」

「ええ、覚えているわ。不思議な光だったわよね。」


「あれから毎日考えてたんだ。また行ってみたいなって。」

「……」


「あたしね、あの時気付いたんだ。せつなの事が好きなんだって…。」

「えっ!?」


「でもね、恥ずかしくて言えなかった…。けど、一緒にいれるだけであたしは幸せだったんだよ?」


「……私も。あんな感触、初めてだった。人を好きになるって…事。」

私には無縁だと思っていた感情。

好きになると言う事。
愛すると言う事。

それを教えてくれたのはあなた。


「また行けるといいわね、あの場所に。」

「うん!」


「ラブ…。今日は本当に……、ありがとう。」

「せつな…。」

お互いを大切に思い合う心。愛し、愛される喜び。全ての運命に感謝する二人。


(ずっと一緒にいようね、せつな。)
(ラブ。これからも私の事、宜しくお願いします。)


幸せを枕に、そっと吐息を立てて眠りに付く二人の少女。



その時、互いのリンクルンが眩い光を放ち二人を包み込む。

一瞬の出来事。二人は目を閉じたまま。


「う…、うぅん…」
「…ここは…どこ?」

一面、綺麗な花に囲まれた優しい場所。見た事のある風景。


「ピーチ?」
「パッション!?」

あの光はリンクルンから放たれた物だった。互いが平和の戦士、プリキュアの姿を
してる時点で二人は、その置かれている現状を把握する事は出来た。


「また来れたのね。」
「やったー!パッション、幸せゲットだよ!」

「ほんとね。幸せかも。」



「でも私、ピーチに謝らなければならない事があるの。」

「何?」


「ペンダント。大切なペンダントを私…」


「いいよ、もう。」
そう言ってピーチは私を抱きしめる。あの時と一緒。言葉は優しいけど、抱きしめる力は強い。


「パッションは大切な仲間。親友で家族で…」

「……」


「恋人っ!ほら、四つ揃った!幸せのクローバーだよっ!」

「ピーチ…」
止め処なく溢れる涙。こぼれた涙に、パッションのリンクルンが光を照らす。

それに合わせてピーチのリンクルンも光を照らし。

「あっ!」
「これは…」


奇跡がまた起きる。四葉のクローバーのペンダントが二人の下へ。


愛の結晶。その名にふさわしい二人への贈り物。


そっと手に取る二人。互いを見詰め合う。


「ピーチ…」


「…パッション」



重ねる唇。ペンダントを握ったお互いの手と手を絡め合う。


何度も何度もキスをする二人。唇から頬、耳、そして首へ。
漏れる吐息が二人を熱くする。



「パッションと一緒に………なりたい。」


「……私、初めてだから…。」


「…あたしも。」


パッションはそっと頷き、ピーチを迎え入れる。


ピーチは不器用ながらもパッションの衣を剥いでいく。


「ちょっと…、くすぐったいよ…。」

「ごめん。」


「優しく…ね。」
「うん。」

初めて見る愛しき人の体。透き通るような白い肌。女性特有の美しい曲線。


「あたしのも…。お願い。」

「わかった。」


パッションもまた、慣れてない手つきでピーチの衣を剥いでいく。


「恥ずかしい…な。」

「そうね。私も恥ずかしいわ。」



「大好き。」

「私も。」

互いの温度を感じながらそっと寄り添う二人の戦士。
愛を確かめ合い、幸せを感じた合った時間はあっと言う間に過ぎて。



「またこうして一緒に来れたらいいな、パッションと。」


「ピーチとなら喜んで来るわよ。」


再び目を閉じる二人。優しい時間が過ぎ去っていく。




朝の光が窓から差し込む。眠たそうに部屋の主が起き上がる。



(……夢……だったのかな?せっかく一緒になれたのに。)


それにしては妙な感じがする。記憶がハッキリとしているのだ。


「ん…?…ぅんっ!?」
重たかった瞼が一瞬にして開かれる。横にはベッドで寝ていたはずのせつなの姿が。

ほんの少し、吐息を立てながら寝てる姿が愛おしい。


(夢なんかじゃない!)
しばし呆然とするラブ。が、考えるのも面倒臭いので…


「あと15分だけ寝よ。」
再び布団に潜り込む。彼女を起こさないように、そっと。



瞳を閉じると、二人が居たあの場所へ戻れそうな気がした。


今日から始まる新たな生活。二人の愛と幸せの証は夢なんかじゃない。


隣で寝ている彼女の小さな手の中には、クローバーのペンダントが優しく握られているのだから。
最終更新:2009年09月17日 23:15