「ラブちゃんごめんね。わたし、今日行けなくなっちゃって…」
連休初日、わたしの家の動物病院はあいにく超満員。だからお休みにしてって言ったのに…。
動物さんたちは悪くないんだけど、わたしには不都合だらけ。
「今日はお出かけして良いって言ったから、毎日お手伝いしてたのに…。」
「ごめんね祈里。まさかこんなに診療受付が来るなんて思ってなかったのよ。」
「次の患者さん呼んで!」
お父さんとお母さん、飼い主さんたちや動物さんたちを見てたら、お手伝いを断る事が出来なくて。
せっかく楽しみにしていたみんなとのお買い物。美希ちゃんがオーディションに着ていくお洋服探し。
この日のために、ファッション雑誌だって一生懸命読んで勉強したのに…。
「はぁ…」
こんなわたしに、神様はさらに追い討ち。
美希ちゃんに断りの電話を掛け、次はラブちゃんに。
「もしもし。ブッキー、実はラブ、体調崩しちゃって。」
「えぇ!?ラブちゃん熱出しちゃったの!?」
リンクルンに出たのはせつなちゃん。ラブちゃんもまた今日の日を楽しみにしていた一人。
あ!みんな楽しみにしてたんだけど。
「ゆっくり休んでね。こんな時は寝るのが一番のお薬だから。」
「うん、ありがと…。」
「せつなちゃん、わたしたちの代わりお願いね。」
「ええ。精一杯頑張るわ!」
ラブちゃんの元気無い声に落ち込み、せつなちゃんの明るい声に再びやる気を起こす。
――頑張れ山吹祈里!!!――
何とか午前中の診療を終え、お昼休憩。どっと疲れが襲ってくる。
「お昼にしましょう。祈里も疲れたでしょ?」
「こりゃ午後も頑張らねばな。」
「うん…」
やっぱり気になるのは美希ちゃんとせつなちゃんの二人っきりでのお買い物。
それとラブちゃんの具合。
(ラブちゃん、今ひとりぼっちなんだよね…)
胸が急に、締め付けられる想いになった。
今すぐ会いたい。
「祈里、ご飯…」
「ごめんなさい!ちょっと出かけてくる!」
「祈里どこ行くんだ?」
「ラブちゃんのおうちっ!」
お昼休みは1時間。
わたしは走った。一生懸命走って。
一秒でも早く、ラブちゃんに会いたくて。
ラブちゃんの家の前に着くと、わたしは乱れた呼吸を戻す。
軽く深呼吸。
「こんにちは。」
「あら祈里ちゃん。今日はごめんなさいね。ラブったらこんな時に限って。」
「ラブちゃん寝ちゃってますか?」
「今お薬持って行ったとこだから、まだ起きてると思うけど…」
「お邪魔しますっ!」
「えっ?あ、あ、どうぞ…。」
思わず駆け足で階段を駆け上る。
ノックもせずに、わたしはドアを開ける。
「ラブちゃんっ!!!」
「うぉっ!わわわわわ!
いたたたた…。びっくりするじゃん!ってブッキー!?」
思わず尻餅付くラブちゃん。
神様の意地悪。着替えしてる時に入っちゃうなんて…。
「ご、ごめんラブちゃん!だ、大丈夫?」
駆け寄るわたし。ちょっと反省。
「うん。それよりブッキー、どうしたの?病院平気なの?」
「今はお昼休憩。それよりもラブちゃんが心配で…。」
「照れるじゃんかブッキー。お見舞い着てくれたんだ。嬉しすぎるよー。」
「会いたかったの…」
わたしの本心だった。自然と体が動いたのも、ラブちゃんに会いたかったからかもしれない。
「ブッキー」
「何?」
「ズボン…、履いてイイ?」
「わぁぁぁぁ!ご、ご、ごめんなさいっ!!!」
もう最悪すぎる展開。わたし何やってるんだろう…。
「パンツ見たでしょ。」
「見てない見てない!!!」
思いっきり首を横に振る。ピンク色なんて見てない!
「顔、赤いよ。」
「ふぇーん…」
そんなわたしを見て、ラブちゃんは笑ってくれる。
元気付けるはずが逆な展開に。
ラブちゃんの笑顔を見てると、ほんとにわたしは幸せ。
「あ、体の具合はどう?」
「うん、今お薬飲んだから寝れば平気だよ。ブッキーの言う事はちゃんと守るよ!」
そう言ってラブちゃんはベッドに潜り込む。
わたしも傍に寄り添う。
「何か入院してるみたいだね。」
「?」
「だってブッキー、ナース服なんだもん。」
「あ…」
急いでたから着替えるのも忘れてた。もうおっちょこちょいすぎるよ、わたし…。
「走ってきた?汗すごいよ。」
ラブちゃんはわたしの額の汗をタオルで拭いてくれる。
「やだ、わたしが看護しなきゃいけないのに。」
「大袈裟だってばブッキー。寝れば平気だって。」
「うん…」
ラブちゃんのほっぺはちょっと赤い。まだ熱が残ってるんだ。
「さ、おやすみしようね。」
わたしはそっと体を倒す。
「ありがと。」
「熱くない?」
「パンツ見られたから熱いかも。わはー」
「もぅー」
ラブちゃんらしい。体調悪いはずなのに、すっかりいつものペース。
わたしはそっと手を握る。やわらかい女の子の手。
見つめると微笑んでくれた。
「ラブちゃん…」
そっと唇を重ねる。
(ん…)
吐息が漏れる。ほんの数秒の出来事。
「病気、移っちゃうよ…」
「今度はラブちゃんが看護してくれるならわたし…」
握ったラブちゃんの手を、そっと自分の左胸に押し付ける。
「ドキドキ…、してるでしょ?」
「うん…」
「病院…、戻らなきゃダメ?」
「ほんとは戻りたくないけど…」
再び重ねる唇。今度は長く。ずっとこのままで居たい。
「じゃあね、ラブちゃん。お大事にね。」
「ありがと、ブッキー。」
寂しさを感じつつ、わたしは部屋を出ようとすると。
「あ、ブッキー!ちょっと!」
「え?」
「ちょっと来て。」
「何?」
「後ろ向いて」
「うん。」
〝バサッ〟
「きゃっ」
「たっはー!黄色のパンツゲットだよ!」
「ラブちゃんっ!!!もう!」
「ブッキーだってあたしの見たからイイの!美希たんとせつなも今頃、超ラブラブなんだからいーの!」
「そんなの理由になりません。」
「ケチ」
「知りません。」
「ぶぅ」
体調崩しても笑顔の天使。そしていたずらっ子な天使。
わたしの愛の処方箋、ちゃんと大事にしてね。
最終更新:2009年09月20日 23:49