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「着いたよ☆」

せつなが美希の家の前でリンクルンにメールすると、ほどなくして
美希が内側からドアを開けた。

「いらっしゃーい。ごめんね、今日はお店閉めてるの。」

「あぁそうか、おばさま、お留守だものね」
「そうそう、あれ?ラブは?」
美希はせつなが一人なのに気付いて不思議そうな顔をした。

「ラブは昨日隣のクラスの子に教科書借りて返すの忘れちゃったんだって。
だからその子のお家に寄ってから来るって」

「そう。まぁいいや、上がって上がって」
美希はそう言ってせつなを招き入れた。


「掃除してたの?」

「うん。最初はお店に置いてる雑誌を新しい号に換えてるだけだったんだけどね。
なんかちょっとしたゴミが目に付いちゃって、気付いたら止まらなくなっちゃった。」
そう呟きながら美希は笑う。

(完璧主義の美希らしいわね…)
せつなもつられて笑顔になる。

「手伝うわ。 何をすればいいの?」
周りを見渡すせつなに美希は手を振って言った。

「いいの、いいの、大丈夫!もうこのゴミ捨てたら終わりだから!
先に部屋行ってて。もうすぐブッキーも来るわ」


「そう?なんだか忙しい時に来ちゃってごめんなさい」

「あ、部屋の冷蔵庫にジュース入れといたから。適当に好きなの飲んでて」

「わかったわ。じゃあ、部屋で待ってるわね」
せつなは一人で美希の部屋へ向かった。


今日は4人で美希の家でお泊り会。美希の母親は留守らしい。
ちょうど週末だし、一人だと淋しいから泊まりに来てよ!と美希が提案すると3人は二つ返事で快諾した。


ラブの家での生活はすっかり馴染んだ。
他所の家に泊まる…。せつなには初めての経験。
(一晩中4人でおしゃべりしたり出来るのね…)
そう思うとたまらなく楽しい気分になった。


ひとしきりワクワクすると、なんだか喉が渇いた。美希がジュースがあるって言ってたっけ。
美希の部屋には小さな冷蔵庫がある。ラブやブッキーはいつもそれを見て、とても羨ましがる。

人の家の冷蔵庫を開けることに最初は少し抵抗のあったせつな。
が、何度も訪れている美希の部屋の冷蔵庫はもう気兼ねなく開けられるようになっていた。

そういえば、遠慮なく美希の冷蔵庫を開けている自分に初めて気付いた時、
なんだか美希とすごく親密になった気がして妙に嬉しかったかな…。

そんなことを思い出しながら、せつなは冷蔵庫を開けて中を覗き込んだ。
中には何本かの缶ジュースと、プリンやゼリー、美希の化粧水などが冷やしてあった。

喉が渇いていたから何のジュースでも良かった。
種類を確認せず、一番手前にあった缶を手に取り、蓋を開ける指に力を込める。

プシュッと音がして、缶が開いた。

ベットの下のクッションに腰を下ろして、せつなは缶に口を付け勢い良く飲んだ。
リンゴジュースだ。微炭酸で飲みやすかった。


でもなんだか、ちょっと苦い?


なんだか……、頭がぼーっとする。
外が暑かったから、バテたのかしら、あたし…。



「せつなーおまたせ!ごめんね、一人で放置しちゃって。ブッキー今家出たってメールきたわよ」
ガチャリと音を立てて美希が入ってきた。せつなの反応はない。

「せつな??何ぼーっとしてるのよ?」
不思議そうに顔を覗き込んだ美希に気付いたせつなは、急に満面の笑みを浮かべて言った。

「あーーーーミキたんっ」
「みっ、ミキたん!?」
美希はせつなに駆け寄って床に膝をついた。

「どっ、どうしたの?せつな、何かあった!?」
「なにもないよぉ、ねぇミキたん…」
「んっ?」

「だっこして」
「はぁ!?」
(わけわかんない、いつものせつなじゃない!!どうしたのこの子…!?)

美希はテーブルの上に置かれた缶に目がいった。そこにあったものは…。

「せつな、あなたまさかこれ飲んだの!?」
「飲んでないよぉ、ん、飲んだかも…わかんない」
「わかんないって、飲んだでしょ、絶対!これ、お酒じゃない!あたしの冷蔵庫に入ってた!?」
そうこうしてるうちにせつなは美希に抱きついて、美希の膝の太ももをまたぐようにして馬乗りになっている。

(やっちゃったー。キッチンの冷蔵庫から部屋の冷蔵庫にジュース移した時、
ママのチューハイも一緒に持って来ちゃったんだ…。とにかくこの子なんとかしなきゃ!)

「ねぇミキたん…」
「な、なに?ちょっと降りなさい」
「ぎゅってして?」
「な…なに言ってんのよ、しっかりしなさい!」
美希がせつなの両手で肩を掴んで離そうとすると、せつなはうるうると涙を溜めた瞳で美希を見つめて言った。

「おねがい…ぎゅってして…」

(ま、負けた…。とにかくここは抱き締めて、なんとか酔いを醒ます方法を考えなきゃ…。)
美希は天井を見上げながら、せつなの背中に両手を回し、背中をぽんぽんと叩いた。

「ふふ、ミキたーん」
せつなはうれしそうに美希の首に腕を絡めて、肩に顔をこすり付けてくる。
(か、かわいい…!!違う!何考えてるの、あたし!!)

「ねぇミキたん…」
「つ、次は何よっ!?」

「ちゅーして??」
「ちゅっ!ちゅーって!!出来るわけないでしょ、そんなの!」
「してよぉ…」
せつなは上目遣いの潤んだ瞳で美希を見つめながら、少しずつ顔を近づけてくる。

透き通る白い肌、髪から漂う甘い香り、赤い唇…。


(キスしてもいいかも…。。。)

あと少しで唇が触れるその時。

「おまたせー美希ちゃん、おじゃましまーす」
ガチャリとドアを開け、祈里が部屋に入ってきた。

「鍵開けといてくれたのね、お店開いてないかと思って焦っちゃっ…」

目の前には妖しく抱き合う2人の親友たち。

「お、おじゃましましたぁー!!」
「待って!!!ブッキー行かないで!!これには理由が!!!」

「へ?」


……
………

「と、いうわけなの…」
美希はせつなを膝に乗せたまま祈里に事情を説明した。
せつなのスキンシップにだいぶ慣れたのか、相変わらずキスをせがむせつなを、どうどうと髪を撫でながらあやしている。

「な、なるほど~…」

「あたしが間違えてチューハイ入れてたのが悪いの。せつなにこれがお酒だってわかるわけないわ…」
悔やんでも後の祭り。美希は酔ってしまったせつなに申し訳なさそうに呟く。

一方。

そうよねー?と言いながら、祈里はせつなに話しかける。

「せつなちゃん、酔っ払っちゃったのね。気分は悪くない?」
せつなは一瞬キョトンとした顔をして、次の瞬間また満面の笑みで祈里に向かって言った。

「わんっ!」
「わ、わん?」
「わんわんっ!!」

「あーあ、今度は犬になっちゃったわよ、この子。 ブッキーのせいよ?ブッキーが動物好きだから。」
と、訳の分からない理屈をこねながら美希はせつなを祈里の膝へ移動させる。

立ち上がって冷蔵庫の中にミネラルウォーターがないのを確認すると、
「あたし水持って来るわ」と部屋を出て行った。


二人っきりになった部屋。

「せ、せつなちゃん、ワンちゃんになっちゃったの?」
「クゥーン…」
「なぁに?」
頭を差し出すせつなに祈里は、はっと気付いた。

「そっか、撫でて欲しいのね。よしよし」
せつなはしばらく気持ち良さそうに祈里に抱きついていたが、そのうちまたクンクンと鳴き声を漏らした。

「なぁに?どうしたの、せつなちゃん?」
祈里はまるで小さい子に話しかけるように、頭を撫でたまませつなの顔を覗き込んだ。
潤んだ瞳で顔を近づけるせつなに、祈里は一瞬、心を奪われた。


ガチャリ。


「持ってきたわよー。せつな、人間に戻った?」
美希は目の前の光景に息を飲んだ。

両手を掴まれ、
火照った顔で、
とろんとした瞳で、

せつなのキスを受け入れている祈里の姿。


「こらー!せつな、やめなさい!」
あわててせつなを引き剥がす。

「ちょっと!この数分間に何があったの!?ブッキー!大丈夫!?しっかりしなさい!」

「あっ!あぁ、ごめん、ありがと美希ちゃん…」
そう言う祈里はまだ赤い顔をして心ここにあらずといった様子だ。

「もぉーせつな、だめ!!」
わざとこわい顔をして睨み付けると、せつなの瞳はみるみるうちに潤んで、ついにはしくしく泣き出した。
途端に、美希は焦った。泣かれるとは思わなかったからだ。

「あぁーごめんごめん、せつな!ほら泣かないで。」
またせつなを膝に乗せて、背中をぽんぽんとする。


そのうち肩を震わせていたせつなは、美希の胸ですぅすぅと寝息をたてはじめた。
「せつな?せつな、寝ちゃったの?」



「おまたせーーー!!来る途中にドーナツ買いに行ったら遅くなっちゃったー!
ごめんねーって、え…??」
元気よく入ってきたラブが見た光景は…


疲れきった様子の美希、
赤い顔でボーっとしている祈里、
美希の膝まくらですやすやと眠っているせつな。


「み、ミキたん、何があったの??」

「せつなが起きたら話すわ。」

「あ、そう?」

「ラブ、せつなには甘酒もウィスキーボンボンも与えちゃだめよ。」

「わ、わかった…。」


「ラブ…。あんたまさか、普段せつなを抱き締めたり、キスしたり、ワンコプレイとかしてるんじゃないでしょうね?」


「え…、や、やだなぁ、ミキたん…。そんなことするわけないじゃんっ!!」
(ど、どうして知ってるのーーーー!?? )


最終更新:2009年09月28日 22:53