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「はぁ...」

ここは私立白詰草女子学院。
わたしがここに立ってる時間は、もう十分くらい。
突然、土砂降りの雨が降ってきて。

「どうしよう...。わたし、傘持ってきてないよ...」
いつもなら忘れ物なんてしないのに。
今日は、久しぶりに美希ちゃんのおうちに遊びに行くって約束したから、うっかり忘れちゃったんだ…。

ハリキリすぎたのかな?
あーあ、ドジだなぁわたしって…。


(美希ちゃん、もうおうちに帰ってるかな…。今頃、わたしを待ってくれてるのかな…)

「...雨、はやく止むといいのに...」

中々振り出した雨は止んでくれない。
むしろ、激しさを増す一方で。


(やっぱり美希ちゃんにメールしなきゃ。このままじゃ時間に遅れちゃう…)


そう思った瞬間、リンクルンが鳴った。画面に写る番号を見て、相手が誰だかすぐにわかった。

ちょっと不安な気持ちで、わたしは電話に出る。

「...もしもし?」
「もしもしブッキー?アタシよ。」

「うん...分かる。でも、なんで...?」
もしかして、今日の約束取り消しって事...?そんなの嫌だよ...

「ブッキー、今どこ?」
「学校だけど...。あっ、あのね、美希ちゃ…」
「分かった!そこで待ってて!」
「えっ?」
美希ちゃんはわたしの言葉を遮って、電話を切った。

え?どういうこと?
わたしの頭の中は混乱しちゃって。


五分ぐらい経つと、わたしの前にはあの人が。

「はぁ...はぁ...まったく...」
全力で走ってきてくれたのだろう。数分経っても全然、呼吸が落ち着かない。
が、傘を持っている美希ちゃんはわたしにこう呟く。

「さぁ!いくわよブッキー。」
少し呼吸を整えて、美希ちゃんはわたしの手を引っ張って歩き始める。

「ちょっと、美希ちゃん?どうして美希ちゃんがここに...」
「何言ってんの!ブッキーを迎えに来たのよ。当たり前じゃない。」

「えっ...」
「まったく…。傘を持ってないならすぐアタシに電話かメールしなさいよ。もっと早くに迎えに来たんだから。」

「で、でも...。それじゃ美希ちゃんに迷惑じゃ...」
「迷惑なんかじゃないわよ、これくらい。それに、アタシも早くブッキーに会いたかったから…。」
美希ちゃんはそう言うと、顔をわたしの方に向けて笑顔で微笑んでくれる。


あっ、この笑顔…。
わたしの、大好きな笑顔だ…。


「...ありがとう、美希ちゃん。」
嬉しい。
わたし、すごく嬉しいよ、美希ちゃん。

「そういえば、これが初めてよね。」
「え?」

「ブッキーと相合傘。」

「あ...」

そう。今のわたしたちは、一つの傘を共有している。

相合傘だ。

「...たしかに、初めてだよね。」

「あ、もしかしてこれ、ブッキーの相合傘初体験?」
「えっ?あっうん、初めてだよ。」

「そっか、じゃあアタシ、ラッキーね!ブッキーの初めて、ゲットだよ!」
「美希ちゃんそれ、ラブちゃんのセリフじゃ...」
「ふふ、分かってるわよ、ちょっとマネしただけ。」

「もう、美希ちゃんたら...」

美希ちゃんはまた微笑んでくれる。

そして、わたしも一緒に微笑んで。


「美希ちゃん、本当にありがとう。」

「これくらいのことでお礼なんか必要ないってば...」

「ううん。これだけじゃなくて、ほかにも...」
「ほか?」

「うん...。あのね、わたし美希ちゃんの笑顔が大好きなの。」
「……」

「美希ちゃんの笑顔を見ると、すごく元気になる。」
「ブッキー…」

「かっこよくて、それにキレイなの。」

「チョット…。なんか照れるじゃない...」

わたしは、美希ちゃんと繋がっている手に少し力を込める。


「わたしね、美希ちゃんが好き。ううん、大好き!」
いままで心の中に隠した言葉、遂に言ってしまった。


「女の子同士だとわかっているけど…。やっぱり自分の気持ちに嘘はつけないよ...」
涙が出ちゃった。恥ずかしいのと、気持ちがうまく伝えられないのと、もういっぱいいっぱいで。

「こんなのいやかもしれない。でもお願い!せめて、いままでのように…、友達でいてほしいの…」
涙が止まらない...

でも、それでも頑張る。わたしの気持ちを伝えたいから。


だって、美希ちゃんが大好きだから...


「......美希ちゃんを愛しているから......」
小さな声で、最後の言葉。






きゅうっ




気付けば、わたしは美希ちゃんに抱きしめられた。
傘は、地面に落ちた。

「バカ...」
「......え?」
「アタシも、ブッキーが好きよ。」
「みき、ちゃん...?」


美希ちゃんは、わたしを抱きしめてる腕に力を込め、優しい声で囁いた。


「ううん...愛しているわ、ブッキー...。」

「美希ちゃん...」

「一秒でもはやく、ブッキーに会いたいから走ってきたの。」

「………」

「ブッキーのそばにいたいから。
 ブッキーの...、大好きなブッキーの笑顔が見たいから...」


「みき、ちゃん......」

目と目が合う。お互いを見詰め合って。


「目、閉じて...」

「うん。」

二つの唇が重なった。
美希ちゃんの唇は柔らかくて。

それに甘い香りがする。


大好きな人とキスをするのはこんなに気持ちいいことなんだ。


キスの後、数秒の沈黙を破って美希ちゃんはこう呟く。

「...今のも、初めて?」


「...うん。初めて...」

「アタシもよ。」


「初めてが美希ちゃんで……嬉しい。」


そして、お互いの顔を見て、わたしたちは笑った。


わたしたち、「友達」から「恋人」になったんだね。


「さぁ!早くいきましょ、今日、うちに遊びに来るんでしょ?」
「あ、そういえば!」
「さぁさぁ、はやくはやく!」

「もぉー、美希ちゃん待って~!」


わたしは美希ちゃんの後を追って走っていた。

あんなに強かった雨もいつの間にか止んでいて。


ねぇ、美希ちゃん。

わたしね、まだまだ美希ちゃんといろんな「初めて」、経験したい…。


だから、これからもずっと。


ずっとわたしの傍にいてね。
最終更新:2009年09月30日 01:10