「ふぅ…」
公園が夕暮れ色に染まるなか、アタシはひとり寂しく、カオルちゃんのドーナツカフェでため息をついた。
「どうしたお嬢ちゃん、ため息ついたら幸せが逃げてくよ、グハ!」
「カオルちゃんは悩み事とかなさそうだよね…」
「オイオイ、これでもオジサン、お嬢ちゃんよりも人生の先輩なワケだ。君たちくらいの頃もあったんだぜ」
めずらしく先輩風を吹かせるカオルちゃんに、アタシは意地悪く尋ねた。
「じゃあ聞くけどさ、好きな子を振り向かせるにはどうすればいいの?」
「ウッ…急に腹が痛みだした…悪いがお嬢ちゃん、店じまいだ」
カオルちゃんはそう言うと、慌ててお店を閉め、帰ってしまった。
何よ。
「ふぅ…」
幸せが逃げてく、か。
今のアタシに、逃げるだけの幸せが存在してるんだろうか。
幸せって何だろ。
アタシの幸せ…
不意にあの子の顔が浮かんだ。
考えれば考えるほど、あの子の事で胸がいっぱいになる。
なんだか胸が苦しいよ…
アタシ、どうしちゃったんだろ。
静寂を破るようにリンクルンが鳴った。
せつなだ。
「…はい」
『あ、ラブ?遅いから心配になって電話しちゃった。お母さんも心配してるわよ。もう帰って来れるんでしょ?』
「ん…ちょっとひとりになって考えたいことがあってさ、ごめんね心配かけて。今から帰」
最後まで話し終わらないうちに、目の前に赤い発光体が現れ、強く抱きしめられた。
「…せつな」
「心配…させないで」
「ん…ごめんね」
安心させるように、華奢な身体を強く抱きしめ返す。
せつなはきっと気づいてる、アタシの中に、せつな以外の誰かがいること。
だけど、アタシにとってせつなもまた、欠けがえのない存在。絶対に失いたくない、大切なひと。
…最悪だ、アタシ。
「キスして…」
「え」
思いがけない言葉にうろたえる。
正直、最近せつなの顔をまともに見れなくて、キスどころかそれ以上もご無沙汰だった。
「最近キスしてくれないのはどして?」
「そんなこと…ないよ」
無意識にくちびるを湿らせ、逡巡する。
自分の気持ちがせつなに伝わりそうでなんだか怖い。
だけどここでしなきゃ、もっと不安にさせちゃうよね。
アタシは決意して、せつなを抱きしめている腕を緩めた。
「目ぇ、つむって…」
「イヤ。ラブの顔見てたいの」
「…しにくいよ」
「いいから早く…」
せつなに急かされ、おとなしくくちづける。
久しぶりの、せつなの感触。
キスを続けているうちに、せつなを好きになり始めた頃を思い出し、自然に力が入り行為にのめり込む。
やがて、開いていたせつなの両の瞳は閉じられ、小さな一粒がそっとこぼれた。
最終更新:2009年10月02日 00:38