人々を不幸にし、FUKOのゲージを溜め、インフィニティを見つけ出す。
それがどういうことなのか、その結果が何をもたらすのか。
その過程で、何が失われていくのか。
イースだった頃の私は、そんなことを考えたことはなかった。
私がラッキーをナケワメーケに変えた時、たけし君はどんな気持ちになったのだろうか。
自分の飼い犬の変わり果てた姿を見て。人々を襲う姿を見て。
彼は何を感じたのだろうか。
そんな事、わざわざ聞かなくてもわかる。
愛犬を奪われた悲しみ、奪った者への怒り、そして、何も出来ない自分への絶望-
あの頃の私は、
ただ、彼が不幸になればFUKOのゲージが溜まる。メビウス様のお役に立てる。
そんな風にしか、考えられなかった。
自分が彼の立場だったらどうだろう。
もし、もしもラブがラッキーと同じ目にあったとしたら。
今の私は耐えられるだろうか。
車を踏み潰し、道行く人々を襲い始めるラブ。
そんなラブに対して、何も出来ない無力な自分。
きっと、あの時のたけし君と同じ気持ちになるだろう。
何故ラブが、どうして、誰がこんな事を。
悲しみと怒りと絶望で、目の前が真っ暗になるに違いない。
イースだった頃の私は、そんな事を考えた事はなかった。そんな当たり前の事さえも。
そんな私を変えてくれたのは、ラブ。私の、最愛の人。
気が付けば、いつもラブの事ばかり考えていた。
私はラブに依存している。
私に幸せを教えてくれたラブに。私に幸せを、与えてくれるラブに。
本当は、いけない事だってわかっている。ラブの為にはならないという事も。
でも。それでも。
私はラブの傍にいたい。ラブに傍にいて欲しい。
ごめん。ごめんねラブ。
わかっていても、私はラブから離れられない。離れたくない。
ラブは私の全てなの。ラブがいないと、私は私でいられなくなる。
だから。神様、お願いです。
もう贅沢は言いません。他には何もいりません。だから-
ラブを、不幸にしないでください。
私はラブから離れられません。それでも、ラブを、不幸にしないでください。
私が傍にいても、ラブが笑っていられるように。
ラブが、辛い思いをしなくても済むように。
どうか、お願いです。ラブを、ラブの笑顔を、守って下さい。
どうか、どうか。
-お願い、します。
「せつな、せつな。」
「あ、なあにラブ?」
「せつな、どうしたの?考え事?」
「ん、ちょっとね。昔の事を思い出していたの。」
「昔のこと?」
「そう、イースだった頃の自分の事を、ね。」
「せつな・・・。」
「・・・後悔してもしかたがない事かもしれないけど、やっぱり、忘れることは出来ないから。」
そう、私はあの時の自分を、イースが犯した罪を、一生忘れてはいけない。
みんなの笑顔を奪ったこと。それは、東せつなが背負っていかなければならない罪。
・・・それなのに。
「そっか・・・。でもね、せつな。」
そういってラブは私に微笑む。
「あたしは、イースだった頃のせつなも好きだよ!ぜぇんぶひっくるめてせつなの一部だもんね!」
胸が熱くなる。彼女は・・・。
「ラブ・・・ありがとう。」
彼女は言ってくれた。私の罪も、私の過去も、自分が全て受け止めると。
そうして、私と一緒に同じ道を歩んで行きたい、と。
私の罪は重い。二人とも押し潰されて、暗闇の中を彷徨う事になるかもしれない。
そう、心配する私に、彼女は。
(せつなと一緒なら、真っ暗な中でもきっと楽しいよ!その代わり、手、離しちゃダメだよ?)
そう、笑ってくれたのだ。
「お礼を言われるようなことじゃないってば。ね、それよりさぁ~。」
「え?な、なに?」
「せつなさんが全然構ってくれないから、桃園さんちのラブさんが拗ねちゃったみたいなんですけど!」
時計を見ると、ちょうど八時を回ったところだった。
ラブと一緒にテレビを見ながら、いつの間にか物思いに耽ってしまっていたようだ。
「ふふ、ごめんねラブ。」
「ん。許してあげちゃう!その代わりぃ~。」
「きゃっ!ラ、ラブ!」
「熟れたてフレッシュ、ゲットだよ! ね?せつな、いいでしょ?ねぇねぇ~。」
「もう・・・。続きは、その、お部屋で、ね?」
「え~もう我慢できないよぅ。いっただっきま~す!」
「あ!だ、だめ!こんなところで・・・ラ、ラブ!」
「大丈夫だって!今日はお父さんもお母さんも遅いって言ってたし!ね?」
「あぁ・・・ラブ。だめ、だめよ・・・こんなところ、誰かに見られたら・・・。」
「誰も見てないよ。こんなにやらしいせつなの姿を見られるのは、あたしだけなんだから。」
「・・・ばか。」
彼女は私を導く光。私を暖かく照らす太陽。
ラブ、私の手を、離さないで。
もう二度と、私が道に迷わないように。
私が私でいられるように・・・傍に、いて。
「・・・あ!ラブ、そ、そこは!」
「・・・こらアカンわ。シフォンには見せられへん。ピーチはん、パッションはん、もうちょい自重したってぇな・・・。」
そう言いつつも空気を読んだタルトは、シフォンを抱えてそっと二階に移動するのであった。
最終更新:2009年12月27日 17:30