「久しぶりね、イース」
「お前はノーザ!」
突如現われたラビリンス最後幹部ノーザ。せつなは咄嗟にリンクルンに手を伸ばし変身しようとした。
「ノーザ・さ・ん!」
「は?え、えっと…ノーザ…さん…」
呼び捨てが気に入らなかったのか、元同僚にまでさん付けを強要するノーザ。
せつなもつい、さん付けで呼んでしまう。勿論さん付けで呼ぶ理由は無いのだが。
「またシフォンを狙ってきたの!?」
「今日はインフィニティよりも大事な用があって来たの。イース、ちょっと付き合いなさい」
「…な」
「え?」
「せ・つ・な!私はもうイースじゃありません!」
「あー…ハイハイ分かったわ、せつなちゃん」
さっきの仕返しか、せつなはイースではなく、自分はせつなだと言い返す。
しかしつい敬語になってしまっている事に自覚はないようだ。
ノーザはこんな事で言い争うのは時間の無駄と感じ、素直にせつなと呼ぶ事にした。
こちらも自覚無しでちゃん付けで呼んでしまっているが。
場所は変わって、二人はカヲルちゃんのドーナツカフェに来ていた。
「それで…用って何ですか?」
「ええ。ちょっと貴女達の事が聞きたくてね」
「…プリキュアの秘密を簡単に喋ると思います?」
「プリキュアじゃなくて、普段の貴女達よ」
「普段の?」
せつなはノーザが何を言ってるのか分からなかった。
不可思議なせつなを気にせずノーザは話を続ける。
「この前初対面した時に貴女達が可愛いと思ってね。色々知りたくなったの!」
「は、はあ…」
「蒼色の娘のおへそなんか堪らないわね!黄色の娘は抱き心地良さそうだし!」
喜々と語るノーザにせつなは呆然とした。
ラビリンス最高幹部と呼ばれたノーザのこんな姿を見たのは初めてだったから。
「その中でもピンクの娘は一番私の好みかな」
「っ!ラブは駄目です!誰にも渡しません!」
黙って話を聞いていたせつなだったが、自分の愛する人の事には衝動的に声を荒げてしまった。
「へぇ…せつなちゃんはあのピンクの娘…ラブって言うの?その娘が好きなのね」
「あ、えっと…」
「自分をせつなと言った時といい、今といい、貴女ってそんな顔もするのね。知らなかったわ」
「あ、えっと…」
「さっきなんかほっぺた膨らましてとても可愛かったわよ」
予想しない一言にせつなは一瞬で顔が赤くなる。無意識にだろうが、自分がそんな顔をしてただなんて。
「せつなちゃ…イースがあんな女の子なんて、もっと早く知ってれば良かった。そしたら…」
ノーザは敢えてせつなをイースと呼んだ。その表情はどこか寂しげな感じがした。
「ノーザさん…」
「…さて、もうそろそろ暗くなるし、お話しはこれぐらいにしましょうか」
気付けばとっぷり日が暮れてやがて夜になる時間だ。確かにもう家に帰らなければならない。
「さ、お行きなさい。待ってる人がいるんじゃないの?」
「…はい。それじゃまた…」
「また、って事は会ってくれるのかしら?」
「そ、それは…」
「うふふ、気にしないで。今日は楽しかったわ」
ノーザはせつなの答えを待つ事なく背中を向け歩き始めた。
その背中もどこか寂しそうで…。
「私も、皆が知らない貴女の一面をもっと早く知ってたら…」
せつなは言葉を止め首を振る。
考えるのはよそう。今の私にはラブがいる。
「今日も私の作ったニンジン料理たくさん食べてもらわなきゃ!」
せつなは家に向かって駆け出した。憧れの人より、もっと大切な人―ラブが待つ家へ。
最終更新:2009年10月26日 22:26