6-109

「久しぶりね、イース」

「お前はノーザ!」

突如現われたラビリンス最後幹部ノーザ。せつなは咄嗟にリンクルンに手を伸ばし変身しようとした。

「ノーザ・さ・ん!」
「は?え、えっと…ノーザ…さん…」
呼び捨てが気に入らなかったのか、元同僚にまでさん付けを強要するノーザ。
せつなもつい、さん付けで呼んでしまう。勿論さん付けで呼ぶ理由は無いのだが。

「またシフォンを狙ってきたの!?」

「今日はインフィニティよりも大事な用があって来たの。イース、ちょっと付き合いなさい」
「…な」
「え?」

「せ・つ・な!私はもうイースじゃありません!」

「あー…ハイハイ分かったわ、せつなちゃん」
さっきの仕返しか、せつなはイースではなく、自分はせつなだと言い返す。
しかしつい敬語になってしまっている事に自覚はないようだ。
ノーザはこんな事で言い争うのは時間の無駄と感じ、素直にせつなと呼ぶ事にした。

こちらも自覚無しでちゃん付けで呼んでしまっているが。

場所は変わって、二人はカヲルちゃんのドーナツカフェに来ていた。

「それで…用って何ですか?」
「ええ。ちょっと貴女達の事が聞きたくてね」

「…プリキュアの秘密を簡単に喋ると思います?」

「プリキュアじゃなくて、普段の貴女達よ」
「普段の?」
せつなはノーザが何を言ってるのか分からなかった。
不可思議なせつなを気にせずノーザは話を続ける。

「この前初対面した時に貴女達が可愛いと思ってね。色々知りたくなったの!」
「は、はあ…」

「蒼色の娘のおへそなんか堪らないわね!黄色の娘は抱き心地良さそうだし!」
喜々と語るノーザにせつなは呆然とした。
ラビリンス最高幹部と呼ばれたノーザのこんな姿を見たのは初めてだったから。

「その中でもピンクの娘は一番私の好みかな」
「っ!ラブは駄目です!誰にも渡しません!」
黙って話を聞いていたせつなだったが、自分の愛する人の事には衝動的に声を荒げてしまった。

「へぇ…せつなちゃんはあのピンクの娘…ラブって言うの?その娘が好きなのね」
「あ、えっと…」

「自分をせつなと言った時といい、今といい、貴女ってそんな顔もするのね。知らなかったわ」
「あ、えっと…」
「さっきなんかほっぺた膨らましてとても可愛かったわよ」

予想しない一言にせつなは一瞬で顔が赤くなる。無意識にだろうが、自分がそんな顔をしてただなんて。

「せつなちゃ…イースがあんな女の子なんて、もっと早く知ってれば良かった。そしたら…」
ノーザは敢えてせつなをイースと呼んだ。その表情はどこか寂しげな感じがした。

「ノーザさん…」
「…さて、もうそろそろ暗くなるし、お話しはこれぐらいにしましょうか」
気付けばとっぷり日が暮れてやがて夜になる時間だ。確かにもう家に帰らなければならない。

「さ、お行きなさい。待ってる人がいるんじゃないの?」
「…はい。それじゃまた…」

「また、って事は会ってくれるのかしら?」
「そ、それは…」
「うふふ、気にしないで。今日は楽しかったわ」
ノーザはせつなの答えを待つ事なく背中を向け歩き始めた。
その背中もどこか寂しそうで…。

「私も、皆が知らない貴女の一面をもっと早く知ってたら…」
せつなは言葉を止め首を振る。

考えるのはよそう。今の私にはラブがいる。
「今日も私の作ったニンジン料理たくさん食べてもらわなきゃ!」
せつなは家に向かって駆け出した。憧れの人より、もっと大切な人―ラブが待つ家へ。
最終更新:2009年10月26日 22:26