「じゃあ、またね」
サウラーのソレワターセを倒した後、秋の夕暮の下、
クローバーのメンバーは公園の前で別れ、それぞれの家路についた。
山吹祈里は一人で考えながら歩いていた。
(今日はまあ良かったけど、シフォンちゃんがいつインフィニティになるか
分からないんじゃ、これからも大変だわね。
子守唄を歌っていれば本当に大丈夫なのかしら?
何かいい方法を考えないといけないわねえ‥)
(それにしても美希ちゃん、やっぱり元気なかったなあ。大丈夫かしら?)
祈里は立ち止った。何かに気付いた風だったが。
(‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥)
(また今度でいいかしら?)
右手の人差し指をあごにあてながらしばらく考えた後、
祈里は回れ右をして今来た道を反対方向へ走り出した。
(やっぱり今じゃないと!)
パタパタパタパタ‥‥
美希は近づいてくる足音に気付き、振り返った。
「ブッキー?どうしたの。何か忘れてたことでもあった?」
祈里は前のめりになりながら美希の両肘を軽く捕まえた。
「美希ちゃん、顔をもう一回よく見せて。」
「え、ええ」
「もっとちゃんとこっちを向いて。」
祈里は美希の両肩をつかむと、自分と正対させた。
美希の顔を真剣に見つめた後両手を下ろし、ゆっくりと話し出した。
「美希ちゃん、やっぱり元気がない感じね。
今日の事件が原因だと思うけど、今のうちにちょっとなんとかしておいたほうがいいわ。
一度公園まで戻りましょう。」
祈里は美希の右手を引いて歩き出した。
「ブッキー、なんとかって、何をどうするの?」
「それは今考えてるところなんだけど……」
美希はおとなしく祈里に引かれるままに歩いた。
*******
美希はベンチに腰掛け、両手は脇に下ろして手のひらをベンチについている。
やや前傾姿勢で顔はうつむき、沈んでいるように見える。
祈里はその周りをしばらく歩きまわっていたが、美希の正面に立ち、
その顔を覗き込んで言った。
「美希ちゃん、情けない顔してるわね。」
「今日のことは、美希ちゃんにとってかなりショックだったと思うの。
そのダメージは、シフォンちゃんが元に戻ってもなかなか消えないかもしれないわ。
だからそれを和らげてあげられないかって思ったんだけど…」
「うん‥‥‥」
「そうそう、シフォンちゃん。
わたし、キルンを使ってシフォンちゃんとお話しできるでしょう?
それでいろいろ聞いたりしてるのよ。
さっきインフィニティになってしまったときのことも聞いたんだけど…」
「え?」
「とっても苦しいんですって。縄で首を絞められるみたいに。
一刻も早く助けてあげなくちゃならない。
だから、一人で抱え込まないで事情をきちっと話して欲しかったわ」
「ごめんなさい‥」
「いいのよ。今度から気をつけてくれれば」
祈里は美希の左側に座った。美希の顔をチラリと見てから、また続けた。
「それにしても‥‥」
「私たちこれからどうしたらいいのかしら?悩みが多いわ。
シフォンちゃんはいつインフィニティになってしまうか分からないし、
子守唄が本当に効果があるのかも分からない。
もしまたクローバーボックスがなくなってしまって、
シフォンちゃんが消えてしまったらと考えるとぞっとする‥」
「ブッキー、何でそんなことばかり言うの?」
美希は顔をあげて叫んだ。涙がほおを流れた。
「ごめんなさい。」
祈里は両手で美希を抱き止めた。
「美希ちゃん、変なこと言ってごめんなさい。でも‥つらいときは泣いていいのよ。」
「我慢しなくていいのよ。受け止めてあげるから。」
「ブッキー‥‥」
美希の目から涙があふれでてきた。
祈里は美希の背中に右手をまわして手のひらをあて、左手で美希の頭を包む。
「よしよし、美希ちゃん。こわかったねー。もう安心していいのよ」
右手で美希の背中をさすりながら慰める。
「でも、涙でブッキーの服が濡れちゃう‥」
「気にしなくていいの。涙はあるだけ出せばいいの。」
「うう‥‥」
「美希ちゃん、もっとこっちに来て。私にしがみつく感じで。
私のリボンと制服のボタン外すから、何でもつかんじゃっていいよ。」
「そんな‥‥」
「いいの。いまさら遠慮したってしょうがないじゃない。」
「うん‥」
美希は素直に従い、大きな赤ん坊のように抱きかかえられた。
「シフォンちゃんに歌ってあげたように、今度は私が美希ちゃんに歌ってあげるね」
ねんーねん ころーりよ おこーろりよ
ぼうーやは よいーこだ ねんーねしな
秋の夕暮れは深まり、木の葉がくるくると舞っていた。
おしまい
最終更新:2009年11月01日 21:01