「ラブ!大変よ!起きて!!」
深夜、ラブの部屋にパジャマ姿で飛び込んでくるせつな。
「ん~なに~こんな時間に?」
「空の様子が変なの!きっとラビリンスの仕業に違いないわ!」
「ええっ!」
熟睡していた所を叩き起こされる羽目になったラブだったが、
せつなの真剣な表情とラビリンス、という言葉に反応して
慌てて飛び起きた。
「わかった、とにかく外に出よう……って寒っ!」
そのまま勢いでベランダに出たラブは、
部屋の中との温度差にぶるっと身震い。
11月に入って急激に冷え込んだこともあって、
パジャマ一つでは流石に外に出るには辛い。
「ラブ、大丈夫?」
追って部屋から出てきたせつなが、ラブにベストを掛けてあげる。
見れば、せつなも同じくベストを羽織っている。
「ありがと、せつな、ところで、ラビリンスって、どこ?」
「ほら、これよ!今空から降ってきてるこの白いもの!」
言われて空を見上げるラブ。
そしてすぐに、せつなの言葉の意味に気づく。
天から舞い落ちる白い粉のようなそれの名は。
「……ああ、これはね、雪って言うんだ」
「雪?」
「うん、雨とか雷とかと同じで、自然現象の一つ」
「……じゃあ、ラビリンスの仕業じゃないの?」
せつなの言葉に、ラブは首を縦に振る。
「うん……そっか、せつなは初めてみるんだったね。
せつな、ちょっと手を出してみて」
「こう?」
ラブの言葉に従って手を前に差し出すせつな。
その手の平に、一片の雪が舞い降りる。
「キャッ!」
その瞬間の感覚に、思わず声を上げるせつな。
「冷たいでしょ、雪っていうのは、氷の結晶なんだ。
次はもっと近くで見てみて。
せつなの視力なら、ちゃんと見れると思うよ」
「近くでって……こう?」
手の平に落ち続ける雪を凝視してみるせつな。
「わあ……」
そこに見えたのは、幾何学模様のように正確に作られた雪の本来の姿。
次々に手の平に落ちる雪が、一瞬その姿を見せては
せつなの体温に耐えられずに溶けて消えてゆく。
「きれいね……これが……雪?」
「そう、今降っているのは、全部これ」
「なんだか……すごいわ」
空を見上げて関心したように頷くせつな。
そんなせつなを微笑ましく見守っていたラブだったが、気温の低さにブルっと身震い。
「それにしても、もう雪かあ……そりゃ寒くもなるよねー。
せつな、そろそろ部屋に戻ろう、風邪引いちゃうよ?」
隣の少女にそう声を掛けたラブだったが、せつなは首を横に振る。
「私、もうちょっと雪を見ていたいな」
「ええっ、でもベランダは寒いよ?」
「うん、だからあとちょっとだけなら、いいでしょ……くしゅん!」
ねだる言葉を口に出すと同時にくしゃみをしたせつなに、
ラブはほら言わんこっちゃ無い、と苦笑。
そして、せつなの後ろから、丁度抱きすくめるような形で覆いかぶさった。
「わ、ラブ!?」
「全く仕方ないなあ……ね、こうすれば、ちょっとは暖かいでしょ」
背中越しに伝わるラブの体の感触と、回された腕、
そこから伝わる彼女の体温が、せつなの体に染み込んでくる。
「……うん、暖かいわ」
そう応えると、回された腕に自分の腕をそっと重ねるせつな。
「もっとも、暖かいのは触れてる場所だけじゃないみたいだけど」
「え?」
「だって……ほら」
言いながら首だけで後ろを向くせつな。
その目に映るのは、真っ赤に染まったラブの顔。
「ラブがそんなに真っ赤な顔してるから、私、熱いくらいよ」
笑いながら言うせつなの指摘に、ラブは赤い顔を更に紅潮させる。
「だ、だって、これはね!せつなを抱きしめてるからこっちも暖かいとか
それだけじゃなくて、せつな柔らかいから抱き心地いいなーとか
そんな風に思っちゃうからで……何を言ってるんだかあたしは。
とにかく、好きな人を抱きしめてるんだから仕方ないじゃない!
……あ」
寒さとこの状態、それにせつなの指摘。
その三つが合わさってつい口が滑ってしまった。
そう思ったラブの顔が更に熱くなる。
しかし、
「……………………」
その言葉をストレートにぶつけられたせつなの顔も赤くなっていた。
「せつなも充分、赤いよ?」
「仕方ないでしょ!そんなこと言われたら誰だってこんな風になるじゃない!」
「誰だって、っていうのは違うかな」
「え?」
「あたし、せつなにしかそういうこと言わないし」
「……………………っ」
今度はラブの言葉で、せつなの顔が更に紅潮する。
「わはーっ、こんだけ熱ければもう暫くここで雪を見ててもいいかな。
ね、せつな?」
「知らないわよ!……だいたい、いつもそんなこと言ってくれたことないのに
どうしてこんな時に限ってそういう台詞が出てくるのよ?」
「んーと……雪の日ってなんだかロマンチックな雰囲気になるとか、
そういうものだって聞いたことあるし」
「このやり取りのどこがロマンチックなのよ!」
「えっとぉ……それは……ゴメンなさい」
先ほどまで寒がっていたのはどこへやら。
雪の降るベランダで、寒さを忘れた二人のやり取りは暫く続いたのだった。
最終更新:2009年11月11日 01:43