6-510

「ねえ、美希ちゃん?」

祈里は机の上にある雑誌をめくりながら、
片手に持つリンクルンの向こうの話し相手に尋ねた。

「なあに?」
「ラブちゃんと、せつなちゃん、あの後、どうなったと思う?」
「そうねえ……」

電話の向こうのから聞こえてくるのは、んー、一瞬考え込むような声。

「……別に何も起きなかった、かな」
「そうなの?」

やけに自信たっぷりに言い切る美希に、祈里が尋ね返す。

「ラブは行動力があるように見えて、
 自分のことになると誰かに背中を押されないと踏み出せないところがあるし、
 せつなは結構積極的だけど、アピールの仕方というか、
 上手い迫り方?そういうの知らないでしょ?
 ……だから、何にもない、っていうのがアタシの分析」
「そっかぁ、美希ちゃんがそういうなら、その通りなのかな」

心底残念そうに呟く祈里。

「はあ……『キスを見せ付けて二人の仲を進展させてみよう作成』失敗っと……
 ねえ美希ちゃん、次はどんな手で行く?」
「そうね……今度はダブルデート、なんてどう?」
「うん、いいね、それ。それでラブちゃんの背中、どーんって押してあげたりとか」
「せつなに相手のハートを射止める仕草を伝授してあげるとか?」

アハハ、と声を重ねて笑い声を上げる二人。
ひとしきり笑った後に、ところで、と美希が切り出す。

「それ、ちゃんとあたし達二人きりの時間もあるんでしょうね?」
「勿論!デートなんだから最後は二人っきりで……ね。
 今度は誰も見てないところで、キスして欲しいし……」
「……言うようになったわよね、ブッキー」

返事に一瞬、沈黙が挟まれたことで
多分、美希が照れているのだと察する祈里。

(……美希ちゃんの照れ顔、可愛いのよね)

それが電話越しで見えないのを残念に思いつつ、言葉を返す。

「えへへ、それは美希ちゃんのおかげだよ。
 好きな人と気持ちが通じあえたことで、私、変わることが出来たんだと思う。
 ……だから、ラブちゃんもせつなちゃんも、
 私達みたいに上手くいって欲しいなって」
「……そうね」

美希から返ってくる声も、肯定。
二人にも幸せになって欲しい、その気持ちは共通のものだから。

「それでね、美希ちゃん、デートコースの設定、お願い出来るかな?
 出来ればラブちゃん達の様子をこっそり見ながら、
 ちゃーんと二人っきりで過ごせるのがいいな」
「……無茶言うわね、ブッキー。
 でもまっかせなさい!オーダー通りの完璧なデートプラン、作ってみせるわ!」

自信たっぷりに応える美希の声。
彼女の好きな人はこんな時、絶対に期待を裏切らない。
二人と二人のダブルデート、楽しいものになるのは間違いなさそうだ。
だから、祈里の返事も決まっていた。

「うん、素敵なデートになるって、私、信じてる」
最終更新:2009年11月11日 01:44