7-8

クローバーのダンスレッスンが終わった後にブッキーと図書館へ行ったため、
帰宅がいつもより遅くなってしまったけど、ラブは私を待っていてくれた。
一緒に夕御飯を食べ、食事の後片付けをしていると、隣にいたラブが、

「せつな、話があるの。後であたしの部屋に来てくれる」
「ええ」


ラブの話って何だろう。
関係をやめようということなのかな?でも、私にとっては好都合。
関係を続けようということなのかな?でも、いずれは話さなきゃいけない事。
それが今日だっていうことだけ。

どちらにしても、私には怖いことなんてない。・・・はず。

ブッキーから教えてもらったベストの呼吸をしてみる。
でも、どきどきする。


緊張している私に、
「せつな、今夜は何もしないから。多分、ね」


ラブは苦笑いを浮かべながら、ベッドに腰掛ける。

「せつなもあたしに何か言いたいことあるよね」
あたしの話は長くなると思うから、というラブの言葉で、私は覚悟を決める。


「ラブ、私ね。この関係やめようと思う」

ラブの方を見ると、当然の様に聞いている。もっと取り乱すかと思ったのに。


「たぶん、そう言うと思った。でも、そのせつなの願いは却下」

私が抗議しようとすると、それを制し言葉を続ける。

「ゴメン、その理由も後で言うから。せつなは今、幸せ?」


私が幸せ?
当たり前じゃない。
家族がいて、友達がいて、そして、仲間がいる。
ラビリンスにいた頃では考えられなかったこと。

「勿論よ」


「そっか。でも、今のせつなは幸せには見えない」

私はそんな顔をしているのだろうか。



「あたしの幸せは、大好きな人が笑顔でいてくれること。
あたしの大好きなせつなが笑顔じゃなかったら、あたしだって幸せじゃない」

私はラブを不幸にしないために、身を引こうと思ったのじゃなかった?


「せつなが悩んでいるのは、お父さんとお母さんのこと?」
「ええ」
「前にも言ったと思うけど、今はこのままでいちゃダメかな」


「それに、せつな、今でも悪い夢見てるでしょ」

私が悪夢にうなされていること、ラブが知っているの、どして?


「そんなせつなに、お守り」

ラブが机の中から、鎖のようなものを取り出す。
シルバーのペンダント、先には小さいクローバー。

「あたしがせつなにプレゼントしたいと言ったら、美希たんが一生懸命、仕事の合間に探してくれたんだ。
あたしに買えるものって、予算的にも厳しいし。
それにこれはクローバーが小さいから、いつも身につけていられるしね」


ラブから手渡されたペンダントは、少しひんやりとしていたけど、
プレセントしてくれたラブと、探してくれた美希の温かい心を受け取る。
以前、ラブからもらったクローバーのペンダントとは少し違うけど、私とラブの愛と幸せの結晶。


「ありがとう、ラブ・・・・・ありが・・とう、美希」
「せつな、泣かないで」

ラブの言葉に、なんとか泣き止もうとするが、かえって、涙が次から次へと溢れだす。



 「それとね、せつなが一人で図書館に行った日にね、ブッキーからメールがあって、
せつなちゃんと喧嘩したの?だったらラブちゃん、せつなちゃんに謝りなさい、だって」

「喧嘩の内容も聞かないで、だよ。ひどいと思わない、ブッキー」


ラブの大げさな言い方が可笑しくて、私は思わず笑ってしまう。


「よかった。ようやくせつなが笑ってくれた」

「それは冗談だけど。ブッキーから本当にメールがあって。
せつなちゃんが何か悩んでいるから、ラブちゃん力になってあげて、自分ではだめだからって」

「あたし達、いい友達を持ったね」
「うん」


「二人は私達の関係・・」
「知らない・・・と思う。少なくとも、あたしは言ってない」
「そう」


「ラブ、これつけてくれる」

ラブにペンダントを差し出し、後ろを向いて、後ろ髪をかきあげる。
ペンダントをつけたかと思うと、ラブが私の首に顔を埋め、後ろから抱きしめてくる。
その後にきた、確かに湿った感触。
うなじにかかる熱い息に、濡れた部分が敏感に反応する。


「ラブ、今夜は何もしないって」
「あたしだって健全な女子だし」
「健全って・・・」
「それに、多分って付け加えたから」
「えー、そんなの聞いてない」
「上の方見てみて」
「上の方??天井しかないけど?」
「だからー」「何よー」



私の幸せ。

カオルちゃんのドーナツを食べたり、クローバーの仲間達とダンスをしたり、家族みんなの楽しい団欒の時。
だけど、それだけじゃない。

私の一番大好きなラブのそばにいて、
一緒に笑いあったり、怒ったり、喜んだり。同じ時間を共に過ごすこと。

それが、私の一番の幸せ。





数時間後のラブとせつな。



「あたしとせつなが出逢ったのって、宿世の縁なのかな」
「宿世の縁?」
「竹取物語のかぐや姫のセリフで、生まれる前から決められていたことっていうか」
「言葉だったら、知っているわよ。私は占い師だったし」
「そっか、そうだったね。せつなは占い師さんだったんだ」
「そういえば、私とラブが初めて会った後にね」
「うん」
「私とラブの未来を占ってみたんだけど」
「うん」
「聞きたい?」
「うん、聞きたい」
「どうしようかな?」
「えー、せつな、教えてよ」
「じゃあ、教えようかな。ずっと離れられない運命だって」
「本当?」
「私がラブに嘘言っても、何も得することないじゃない」


私はその占いの結果を見た時、否定したかった。
敵との関係が続くなど、私がプリキュアを倒せないということではないかと。
だけど、占いが正しかったことが、今なら分かる。


「ラブ、眠くなっちゃった?」
「う・・・ん・・。やっぱり、そうだね。やっぱりあたしとせつなは・・・」
「ラブ、私は恋愛運を占った訳じゃない・・・って、あ、もう眠っちゃった」


私はベッドの上から月を眺める。
ラブの部屋に差し込む月明かりは、いつもより温かい光に感じられた。
月がその時、私に教えてくれた気がした。


明けない夜がないように、私達にもいつか必ず春は来るのだと。


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最終更新:2009年11月21日 14:35