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避-160

紅葉が見られる湖の駐車場に併設された物産センターを見上げると、「2F オルゴール館」の文字が目に入った。
この手の観光地には良くあるパターンだ。


「ねえお父さーん、早く行こうよー!」

「はいはい、分かったよ。今行くから。」


店内に入ると、オルゴールのBGMが流れてきた。
オルゴールの音色は癒されるから僕は好きだ。
そういえば最近我が家で昼夜を問わずオルゴールの音が聴こえるんだけど、ラブやせっちゃんが携帯の着信音でも変えたのかなぁ。


「お母さーん、あたしオルゴール見に行きたい!ねっ、いいでしょ?」

「いいわよ。せっちゃんと行ってらっしゃい。私たちはお土産選んでるから。」

「わー、やったぁ!行こっ、せつな。」

「ありがとう、お母さん。行ってくるわ。」


2階へ駆け上がっていくラブとせっちゃんを見送り、あゆみと二人でお土産選びを始めた。


「この漬物はどうだい?」

「ダメダメ。この程度の品ならウチのスーパーでも買えるわ。」

「そうか、じゃあお前の目利きに期待してるよ。」


僕たちは青果売り場に移動した。
色々な種類の野菜や果物がかごや袋に入って並べられている。


「お母さん、今が旬の果物って何があるかね?」

「そうねえ。ここにある物なら、りんごかしら。」

「よし、りんごにしよう。で、いくつ買うんだい?」

「えーっと、ウチとお隣さんと蒼乃さん家と山吹さん家と・・・。」
「それに、あなたの会社の同僚にも買ってあげるんでしょ。」

「ああ、そうだった。じゃあ10パック買うか。」

店員を呼んで、りんごを注文する。
しばらくすると段ボール3箱に入ったりんごが台車に載せられてきた。
代金を支払い、一旦車までりんごを運ぶことにした。


「やっぱり車で来て良かったわねー。」

「そうだね。宅配は送料もかかるし旅行気分が抜けてから届くってのが、ちょっとね。」


車にりんごを積んで再び店内へ戻ろうとした時、僕の携帯が鳴った。
ラブからの着信だ。電話機を開いて通話ボタンを押す。


「もしもし。・・・ああ、買ったよ。りんごを。」
「えっ?わかった、今行くから。」


「お父さん、どうかしたの?」

「ああ、ラブとせっちゃんが2階のオルゴール館に来てほしい、ってさ。」


店の2階に上がり、入場ゲートをくぐる。
館内は大小さまざまなオルゴールが展示されていた。
販売コーナーにもたくさんのオルゴールが並べられていて、多くのお客で賑わっている。
その中にラブとせっちゃんの姿を確認し、彼女らのもとへ向かう。


「あっ、お父さーん!」

「おー、ラブ。どうしたんだい?」

「うん。あのね、オルゴール見ていたらほしくなっちゃって。」

「買うならこれがいいって、ラブと選んでいたところなの。」


まあ、オルゴール館に入った時点である程度の出費は覚悟していたけど。
二人がどんなオルゴールを選んだのか、聞いてみるか。


「ラブ、買ってあげないこともないから僕に見せてごらん。」

「ホントに!?ケースはあたしが選んで・・・」

「曲は私が選んだの。」


そう言って、ラブとせっちゃんは陳列されているオルゴールのケースとメカを手に取り、僕に差し出した。
ラブが選んだのは三角屋根の家をかたどったケースで、我が家と同じピンク色に塗られていた。
せっちゃんが選んだメカの曲目は「愛のオルゴール(Music Box Dancer)」だった。


「あら、その曲懐かしいわね。私が中学の時にピアノで弾いていたから。」

「わはー!偶然だね、お母さん。せつなは曲名だけで決めたみたいだけど。」

「お父さんはこの曲知ってるの?」

「もちろんだよ、せっちゃん。小さい頃からよく聴いていたさ。」

「あらお父さん、あなた何か楽器やってらしたの?」

「いや、そうじゃないんだけどね。アハハ・・・。」


本当は僕の田舎のちり紙交換車のメロディーだったなんて、言えないよ。
それでも、ラブとせっちゃんが選んで、あゆみにもゆかりのある曲なら買ってもいいかな。


「よしっ、じゃあ買ってあげよう。」

「本当!?やったー、せつな。幸せゲットだね!」

「ありがとう、お父さん。オルゴール、大切にするわ。」


ラブとせっちゃんからケースとメカを受け取り、レジへ持って行った。
20分で組み立て仕上げをしてくれるということなので、もう一度1階のお土産売り場で買い物をすることにした。
あゆみはお菓子を、ラブとせっちゃんは小物類を選んでいる。
オルゴールも完成し、すべての買い物を終えて店を後にした。


「さあ帰るぞ。ちょっと遅くなったかな?」

「帰りも安全運転でお願いしますね、お父さん。」

「あたしたちは寝ていくからー。」

「ラブったらもう寝る気でいるのね・・・。」


湖からの帰り道は、一般道路から既に渋滞していた。
高速道路に入っても断続的な渋滞で、ラブは予告通り後部座席で眠りについている。
つられるように、せっちゃんもラブに寄り添って眠ってしまった。


「お母さん、夕ご飯はどうするかね?」

「そうねえ。この時間だから途中で食べていこうかしらね。」

「わかった、じゃあ次のサービスエリアに寄るとするか。」


車をサービスエリアに入れ、駐車位置に停めた。
眠っている二人に声を掛け、せっちゃんが先に目を覚ました。
ラブはなかなか起きなかったが、夕ご飯の言葉で目を覚ましてくれた。
車から降りて、レストランなどが入った建物へ向かった。


「ゆうごはーん、ゆうごはーん、みんなでおうちでゆうごはーん♪」

「ラブ、ここはウチじゃないでしょ。」

「わはっ!そうだっけ。」

「せっちゃん、サービスエリアではその土地の美味しいものが食べられるんだよ。」

「そうなの、お父さん。楽しみだわ。」


レストランに入り、食券販売機の前に立った。
天ぷらそば定食でいい?と、あゆみがメニューを決めてくれた。


「あたし、大盛りー!」

「まあ、ラブ。あれだけお昼食べたのに?」

「毎度のことだけど、ラブの食欲には恐れ入るよ。」

「だってー、ひと眠りしたらお腹が減っちゃって。」


食事を済ませ、再び車を走らせる。
到着するインターチェンジまであと何km、の看板が見えた。
こういう時こそ気を引き締めて運転に集中しないと。


「もうすぐ出口だな。」

「サービスエリアを抜けてからは早かったわね。」

「せつな、初めての高速どうだった?」

「ええ、いろんな景色が見られてとても楽しかったわ。」


料金所を通過し、一般道路に下りた。
四つ葉町まであと数十分、もうひと踏ん張りだ。


「ねえお父さん、美希たん家に寄ってってくれるー?」

「そうだな、お土産もあるし今から寄っていくか。」

「ありがと、美希たんにメールしよっと。」


僕たち一行はやっと四つ葉町に帰って来た。
ヘアサロンに車を着けて、店のドアを開ける。
レミさんと美希ちゃんが出迎えてくれた。


「あら、圭太郎さん。きょうは旅行だったの?」

「ええ、家族サービスですよ。」

「こんばんは、おじさま。」

「おお、美希ちゃん。今日も綺麗だねー。」

「美希たーん、これお土産だよ!」


あゆみがりんごをレミさんに手渡す。
ラブはオルゴール館で買ったペンダントを美希ちゃんに渡した。


「まあ、ごちそうさま。」

「ありがとう、ラブ。せつな。いつか撮影でも身に着けるわ。」

「こんな素敵な旦那様がいて羨ましいわ、あゆみさん。」

「もう、ママったら・・・。旅行の話、今度ゆっくり聞かせてもらうわね。」


レミさんたちに別れを告げ、次の経由地である山吹動物病院へ向かった。
せっちゃんが携帯で祈里ちゃんに電話している。
通話を終えたせっちゃんが僕の方を見てうなずく。
動物病院に到着し、玄関のチャイムを鳴らす。
正さんとタルトを抱えた尚子さん、それにラブのぬいぐるみを抱えた祈里ちゃんがやってきた。


「おー、圭太郎さん。こんばんは。」

「あゆみさん、せつなちゃんたちと一緒の旅行、どうだった?」

「ええ、本当に楽しかったわ~。」

「お帰りなさい、ラブちゃん。せつなちゃん。」

「ただいま、ブッキー!タルト、お利口にしてた?」

「うん!タルトちゃんはウチが大好きだもんねー。」


祈里ちゃんの言葉に、タルトが引きつった顔をしたように見えたけど何でだろう?
僕が正さんにお土産のりんごを渡し、あゆみはお菓子を尚子さんに渡す。
タルトの預かり賃としてこのくらいなら納得してもらえるかな。


「ブッキー、私たちもお土産を買ったの。」

「ホント?せつなちゃん。何を買ってきてくれたの?」


せっちゃんが取り出した小さい紙包みを受け取った祈里ちゃん。
開けていい?と聞く祈里ちゃんに、いいよ!とラブが答える。


「わぁー、ご当地白ネコちゃんの新作ストラップね。」
「ありがとう、せつなちゃん。ラブちゃん。わたしの気に入るものを買ってきてくれるって、信じてた!」


ラブがタルトを、せっちゃんがぬいぐるみを受け取り、おやすみのあいさつをして動物病院を後にした。
この日最後のドライブを終え、ようやく自宅に帰宅した。


「ただいまー。あー疲れた。」

「長い時間運転お疲れ様、お父さん。」

「疲れたー。でも楽しかったよね、せつな。」

「ラブとこんなに長く一緒にいられるなんて。またドライブに行きたいわ。」

「ラブ、今日はお父さんを先にお風呂に入れてやるのよ。」

「うん。わかったよ、お母さん。」


入浴を済ませ、パジャマに着替えるとラブとせっちゃんが待っていた。


「今日は一日ありがとう、お父さん。」

「私たち、お礼をしたいの。」

「お礼って何だい?」

「ささっ、そこへ座って。お父さん。」


言われるままにリビングルームのソファーに腰掛けると、ラブとせっちゃんが二人がかりで僕の両肩を揉み始めた。


「ああ、気持ちいいねぇ。上手だよ、せっちゃん。」

「そ、そう?でもすごく肩が凝ってるわね、お父さん。」

「強さが足りないのかなぁ?えいっ!」

「いてて!ラブ、もうちょっと優しく頼むよ。」


こうして、僕たち家族の1日は終わりを告げようとしている。
またみんなで旅行に行けるように、明日から仕事を頑張るよ。

~おわり~
最終更新:2010年02月11日 19:47