「イースよ、不幸のゲージが一向に貯まらないのはどういうわけだ」
「申し訳ありませんメビウス様。またしてもプリキュアなる者が――――。
3人目のプリキュアが現れ邪魔を致しました」
跪いて許しを請う。
悔しさで目の前が真っ暗になる。
こんな報告しか出来ない自分のふがいなさが憎い。
次こそは必ず…………。
四ツ葉町の郊外にある大型の公園、新緑も美しい湖の近くの木陰にイースこと東せつなは来て
いた。
春の柔らかい日差し、心地よい風の吹く季節。景色を楽しむ家族連れ、スポーツに励む若者達、
大勢の人で賑わっていた。
忌々しい。
こんな所で事を起こすなど、これではまるで私がプリキュアを恐れているようではないか。
東せつなは心の中で悪態をついた。
それもそのはず。キュアピーチ・キュアベリー・キュアパイン。ラビリンスの邪魔をするプリ
キュアの尽くが、全てイースの前で誕生しているのだ。
戦うたびに敵が増えていくジレンマ。心理的に腰が引けるのも無理は無かった。
「まあいい、今日は不幸のエネルギーをたっぷりと集めさせてもらう。」
〝スイッチオーバー〟
「ナケワメーケ、我に仕えよ」
五角形のデザインの石台につけられた飲み水の蛇口に赤いダイヤが突き刺さる。
巨大な石造の怪物となって、周囲の木々を凪ぎ払い人々を混乱に陥れた。
辺り一面を水浸しにしながら。
その頃、美希は読者モデルの仕事で四葉公園の野外撮影を行っていた。
念入りに化粧をし、衣装のコーディネートをしてもらいポーズを決める。全てはプロの仕事だ。
ベンチに座り、自慢の表情でカメラに目を向けた時、地震のような振動が襲った。
「いけない!美希ちゃん、早く逃げて」
カメラマンの一人がそう叫ぶ。スタッフたちは慌てて機材を車に運び込もうとしていた。
手伝おうかとも思ったが、アタシのするべきことは他にある。
「すみません」と美希は声をかけて走り出した。
〝チェイーーーンジプリキュア!ビートアーーーップ!〟
「ブルーのハートは希望の印。摘みたてフレッシュ、キュアベリー」
気高い表情。美しい立ち姿。完璧な青の衣装に身を包んだ、美の化身がそこに現れた。
「おのれプリキュアめ、こんな所にまで現れるのか」
交戦を始めた青いプリキュアを憎らしげに見つめる。しかしプリキュアは奴だけのようだ。
戦局は有利に動いていた。ナケワメーケの放つ水で地面はぬかるみ、プリキュアの持ち味であ
る機敏な動きを妨げていた。
動きにくいためか、攻撃をかわす動作にも余裕が無く今にも命中しそうだ。
「やれ、ナケワメーケ」
召還中はコントロールに意識の大半を奪われ、自身は戦闘に参加できないのがもどかしかった。
イースの戦闘力はナケワメーケを超える。しかし、ナケワメーケでなければ不幸のエネルギー
は集められないのだ。
突然戦局は動く。攻撃をギリギリにかわしたベリーは、そのまま敵の拳に飛び乗って引き手を
利用して懐に飛び込んだ。
石台で作られた固い拳の上、ここでなら力が込められる!
渾身の右ストレートがダイヤの中心に命中し、そして――――。
「エスポワールシャワー!!!」
ナケワメーケは石台に戻った。
「おのれ、またしても」
悔しげにつぶやいて立ち去ろうとするイースの前に、青い戦士が立ちはだかった。
「逃がさないって言ったらどうする?」
青い瞳に宿る鋭い眼光。そして、美しいまでに重心の取れた立ち姿には、先ほどの戦闘による
疲れは微塵も感じさせない。
共に美しき戦士が睨みあう。
戦闘の前の一瞬の静けさ。意識して無いが故の完璧なる美の光景。
先に破ったのはイースだった。
自らの作り出したゆかるみを嫌い、横に飛んで足場を確保する。体術で勝ると判断したゆえの
選択だ。
飛び込んでくる青い戦士の攻撃をかわす。反撃する余裕が無い。その攻撃は疾く、そして鋭か
った。
馬鹿な……。
こんな温い世界の人間に私が遅れを取る筈が無い。イースは内心で焦りを感じていた。
レジェンドプリキュア。その力は身体能力の向上だけではない。
ベリーのリンクルンに宿る希望の青い鍵ブルン。それは無限のメモリーの扉を開くカギ。
蓄積された幾多の戦闘データの中から、ベリーに最適な戦闘技術をダウンロードする。
数千倍に強化された肉体から繰り出す蹴撃は、音速すら超え、爆発的な破壊力を生み出した。
強い……。だが、それだけではない。
他のプリキュアからは感じられない気迫、闘志、何より――――――殺気があった。
だが、所詮は素人。如何に優れた戦闘技術はあってもその攻撃は単調でフェイントも少ない。
戦闘経験に長けたイースには軌道の予測が出来た。
徐々にイースが押し返し始める。攻撃をかわしカウンターを叩き込む。
不利を悟ったベリーは大きく後ろにジャンプした。
「逃がさない!!」
飛び込んだイースに向けて、ベリーが地面をえぐる蹴りを放った。
つぶてを嫌い、顔を庇った瞬間ベリーの姿が消えた。
「悪いの悪いの飛んでいけ」
「どこだ!?」
周囲を見渡しても見つからず声だけが響く。遥か上空からベリーが叫ぶ。
「エスポワールシャワー!!!」
希望どころか、殲滅の雨がイース目掛けて上空から降り注ぐ。
間に合わない。そう判断したイースは防御を捨てて気をためる。
苦痛の雨を抜けて、一瞬気の怯んだベリーに両手から渾身の衝撃波を放った。
ベリーは数十メートル吹っ飛びうずくまる。
手ごたえはあった。しかし、こちらのダメージも深刻だった。何より時間がかかりすぎている。
奴らの仲間でも来たらもう、しのげない。
「勝負は預けるぞ、キュアベリー」
そう言い残してイースは去った。
「アタシ完璧…にはほど遠いかな…」
変身を解いて座り込んだ美希はそう愚痴った。
想像以上にイースは強かった。いつも戦闘に参加してないからと舐めてかかったのがいけなか
った。
「これからは気をつけなくちゃね。あの子たちにはこんなことさせたくないし」
そっと一人つぶやいて助けを待つことにした。
苦痛に堪えながらイースは館に戻った。プリキュアはどうやら変身を解けば傷は消えるらしい。
それこそ卑怯だと思う。今夜は―――――眠れない夜になりそうだ。
「イース、どうした、プリキュアにやられたのか!!」
弱り目に祟り目、一番会いたくない奴に出くわした。……ついてない。
「おのれプリキュアめ、待ってろ、俺が仇を討ってきてやる」
差し出された手をイースは振り払った。
「誰の仇だ、私はやられてなどいない! お前の手など借りない、奴らを倒すのは私だ」
心配そうに、そしてどこか複雑な表情をしているウエスターを残して部屋に戻った。
〝我が名はイース、ラビリンス総統メビウス様が僕〟
待っていて下さいメビウス様。必ずや私が、私こそが……。
イースはベッドに倒れこみ悔し涙を流した。
最終更新:2010年04月04日 20:47