競-104

今日は4人でパジャマ&クリスマスパーティー。
この日が来るのを楽しみにしていた。



ずっと楽しみに――――ね




「こっちはOKよ。後はイチゴを乗せるだけね。」
「わはー!せつな上手だよー。」

私は言われた通り、スポンジケーキに生クリームを塗って。
余った生クリームをちょっと舐めてみる。
ふんわりしていてとても美味しい。

私は人差し指で生クリームをすくい、それをラブの口元へ差し出す。

「えっ?」
驚いた表情で私と私の指を見つめるラブ。
「美味しいわよ…」
少し開いた口元に、そっと指を入れてみる。

〝ちゅぱっ〟

彼女はゆっくり、それを受け入れて。

「お、美味しい…ね」
「でしょ?」
私は何とも言えない感情に襲われる。


――――幸せゲット――――


ピンポーン


「あ!み、美希たんかな!?ブッキーは遅れてくるみたいだし…」
慌てるラブを余所目に、私は玄関へ。


「はーい。」
「お待たせー。寒いわね、ほんと。」
美希は履いて来たブーツを脱ぐため、玄関へ腰掛ける。

「寒かったでしょ?」
私はそう呟くと、背中越しに彼女を抱きしめる。

「せ、せつな?」
「しっ。聞こえるわ。」
ラブに気付かれないよう、耳元で囁く。

私は悪戯に微笑んで。

「今日は楽しい一日にしましょ」
「え、えぇ…」

着ていたコートを脱がせてあげる。

〝ふっ〟

そっとうなじに息を吹きかけて。

「ん…」
「色っぽいわよ。」
私の感情は征服感でいっぱいになる。


――――完璧――――


「ラ、ラブー。何かお手伝い…するわ」
駆け足でキッチンへ向かう美希を私は見詰めて。



ブッキー。
唯一、私は彼女の体を見ていなかった。
そんな彼女が一番遅くやって来る。


「私、ブッキーを連れてくるわ。」
「まだおうちでお手伝いしてるんじゃない?」
「その内来るわよ。せつな、焦らないの。」

「そうよね。あ…、ちょっとお手洗い行って来る。」



我慢出来る訳がない。既にラブと美希を―――――


(アカルン。ブッキーの元へ)


思うが侭に。
自分が納得するまで。


でなければ、私は…


「きゃっ」
「ご、ごめんなさい!」

「せつなちゃん!?どうしたの?」
「早く…会いたくて…」

「ごめんね。急いだんだけど………。え…、えっと…」
「何?どしたの?」

「手…」
「手?」

着地に失敗した私は、思いっきりブッキーの胸を鷲掴みにしていた。

「あっ!わ、私…」
「あ、いいよいいよ。待っててね、今着替えるから。」


(ありがと、アカルン。)
こうなる事は想定範囲内と、私は―――――信じてた



四人でいられる事。それは本当の幸せ。
私に笑顔をくれたみんな。


――――ありがとう


「せつなっ!先行くよー!」
「えっ」
「待ってるからね。」

楽しかった食事を終えると、四人は一緒にお風呂へ入る事になった。

「?どうしたのせつなちゃん。」
「わ…、私はまだ…」
ためらうせつなに、気を利かせた祈里は声をかける。

「初めてだもんね。もし恥ずかしいのなら、また今度でいいよ?」
「…」
小さく頷く一人の少女。
「じゃあ後でね。」



私は卑怯。
そして、臆病。
部屋に戻って窓から空を眺める。

(綺麗な月…)
明かりを付けずに私は、しばし呆然としていた。
全てをリセット出来るような気がして。


「せっちゃん?」
その声に私は我に返ったとでも言うか。
カチっと音を立て、明るい光が部屋を包み込む。

「みんなとお風呂に入らないの?」

「何だか恥ずかしくて。それに…」

「そう。じゃちょっと、お母さんとお話しない?」
そう言ってあゆみはベッドに腰掛けた。それにつられるようにせつなも隣へ。


「今日は楽しかったでしょう?」
「とっても。」
「みんな楽しみにしてたのよ。こっそり、教えちゃうけど。」
お母さんは悪戯に微笑んで話を続ける。

「せっちゃんが留守の時にね、色々と三人は話し合ってたわ。」
「…何を?」

「どうすればせっちゃんが喜んでくれるか?どうすれば幸せを感じてくれるか?ってね。」
あゆみはそっと、右手をせつなの肩に置いて。

「四人で入るのも、賑やかでいいんじゃない?ねっ」
「で、でも、私は…」
「待ってると思うけど。せっちゃんの事。」





「行ってきますっ」
自分にけじめをつけるためにも。


お母さん。

――――ありがとう



「あっ、せっちゃん着替え!!!」
見送るあゆみはくすくすと笑いながら佇むのであった。





高鳴る鼓動。
もう逃げない。今までの自分をやり直すためにも。

(よしっ!)
私は決意を胸に今、扉を――――開ける

「なっ」
「え…」
「ん?」


「ご、ご、ごめんなさい!!!!!!!!」

目の前に現れた三人の少女。
サプライズ。いや、ハプニング。
まさか、こんな形で魅力あるカラダを眺めるとは思ってもみなかった。


せつなは慌てて部屋に戻る。
呼吸もままならぬ程の動揺と高揚感に包まれながら…。


〝コンコン〟


「せつなー、お風呂いいよー。」
「あ!?う、うん…」

「入ってもいい?」
「………」
私は中へラブを招き入れる。

「美希とブッキーは?」
「部屋で寝る準備してると思うよん。」


「さっきは…」
「へ?」

「見ちゃったから…」
「何を?」


「体…」
「ぷっ。何でせつな、そんなに顔真っ赤なのー?おっかしいよー」
「ちょ、ちょっとラブ!声大きいから!!」



「平気だよ、あたしたちは。」

「ラブ…」
ごめんなさい。本当に…ごめんなさい。私は何度も心で呟いて。
言葉にすれば、楽しい雰囲気が崩れちゃう。そう思って。

「どうする?お風呂入る?もう寝る?」
「みんなと一緒に……居たいわ。」





それからいろんな話をラブと、美希と、ブッキーとして。


子猫の最後を見届けた事。命の尊さを実感した瞬間
夕暮れの町を浴衣姿で肩を並べて歩いた思い出
いつもお風呂上がりにベランダに出ておしゃべりしてる事
お母さんに教えてもらって卵雑炊を作った事
ゆっくり大人になろうね、一緒にと告白もした
シロツメクサが咲き乱れる草原での私たちの記憶
秋のイメージをゲットしに行った楽しい思い出
クラス対抗リレーのアンカーに選ばれた事
職場体験での奮闘気
そして、明日は「幸せ」を運べるようにと、いろんな企画を考えてる事も




凄く楽しかった。
みんな笑ったり、恥ずかしがったり、怒ったり、時には泣きそうになったり。
四人で体を寄せ合い、布団に潜り込んでいっぱいおしゃべりして。




気がつくと、私以外みんな寝ていて。
一人一人の寝顔はとても優しい表情。
眺めていると私まで眠くなってきて…。




――――おやすみなさい




そう呟きながらせつなは、最後にみんなへ感謝を込めて。



〝ちゅっ〟




~END~
最終更新:2009年12月24日 01:27