「せつな、その歌好きだね」
ラブに言われて、私は自分が
鼻歌を歌っていたことに気づいた。
少し照れくさくなって、
強めにテーブルを拭いた。
同じ歌を、今度はラブが
鼻歌で歌っている。
小さな声で、
合わせて歌う。
クリスマスを前にした、
クローバータウンストリート。
イルミネーションの、暖かい光。
街で流れる音楽にも、
鐘や鈴の音が多く聞こえる。
聞いているだけで、幸せになれそうな
クリスマスソング。
その中で、ひときわ
心に残る歌があった。
歌の後ろで、ずっと
流れている、子供の合唱。
その部分の歌詞は、
よく聞き取れた。
ずしりと、心に響いた。
全ての歌詞の意味を知りたくて、
英語の先生を訪ねた。
私の鼻歌で、先生はすぐに
わかってくれた。
携帯プレーヤーを鳴らしながら、
いっしょに歌詞を書き取る。
辞書を片手に訳してみたが、
大まかな意味までしか解らなかった。
先生が、この歌独特の表現を
解りやすいように、手直ししてくれた。
出来上がった訳詞は、
私の心を激しく揺さぶった。
クリスマスだね。
今年は、
どんな年だった?
新しい年が、
また来るよ。
一緒に、祈ろう。
君が、楽しく
暮らしていますように。
恐いことのない、
年でありますように。
去年の今頃は、
何をしていただろう。
歌も、ダンスも、
無い世界。
この世界に、派遣される前。
最終訓練段階。
この世界の人々に対する、
不幸の集め方。
嫌がらせるには。
怖がらせるには。
悲しませるには。
徹底的に、叩き込まれた。
それが、生きる全てだと
思っていた。
この世界に来て、
気がついた。
私が、本当に望んでいたもの。
望んでは、いけないと
思い込んでいた。
みんなが、教えてくれた。
嬉しいときは、笑っていい。
悲しいときは、泣いていい。
自分に、素直になっていい。
私が、今、望んでいるもの。
みんなの、幸せ。
私の、幸せ。
みんなの、笑顔。
私の、笑顔。
自ら、心から望めば、
それは叶えることが出来る。
アカルンを呼び出す。
私の顔を覗き込むように
眺めるアカルンに、笑顔を返す。
「キィ」
アカルンも微笑み、光が私を包んだ。
薄暗い森。
占い館の、跡。
手に持った紙箱を、
地面に置く。
中には、小さな
ショートケーキが、3つ。
私の姿は、
捕らえられているだろう。
知って欲しい。
この世界にある、幸せ。
そして、それが
自ら望めば、手に入ること。
戦いは終わる。
君がそう望むなら。
戦いは終わる。
今すぐにでも。
次の瞬間、私は
部屋に戻ってきた。
「せつなー、早く来ないと
ケーキ無くなっちゃうよー!」
私は、あわてて
階段を下りた。
みんなに、
幸せなクリスマスを。
最終更新:2009年12月24日 01:35