【もう一度奇跡を~せつなからの贈り物】
あなたに――――会いたい
ラブが大切にしていたぬいぐるみのうさぴょん。
内緒でこっそり、私の部屋へ連れてって。
「ねえ、うさぴょん。」
「なぁにせつなちゃん。」
「私ね、もう一度…」
その日の夜、私はベッドに潜り込みあの日の事を思い出していた。
眩いばかりの光。
世界中から放たれたハート。
そして―――
私の大切な人。
桃園ラブ。
キュアピーチ。
あの時、ラブの姿は確かに―――――天使だった。
おもちゃの国を、世界中の子供たちを救った彼女。
羽の生えたあなたを見ていたら、とても幸せな気持ちになれた。
優しくて温かくて、とても素敵な笑顔。
プリキュア・ラビング・トゥルー・ハート
私の想いも―――あなたに届くかしら?
(大丈夫よ。きっと届くわ…)
翌日、私はうさぴょんを抱えあの場所へ移動する事に。
もう一度あなたに会うために…、と。
「アカルン。おもちゃの国へ―――」
解き放たれる赤い閃光。それは光よりも早く。
まだ幾月も経ってないはずなのに、この場所へ来ると何故か懐かしい気持ちになる。
おもちゃの国は、子供達の夢で出来ているのだと改めて実感して。
四ツ葉町も素敵だけれど、ここもまた素敵な場所。
(救えて本当に……良かった)
「みんなー、ここへ集まってー!」
抱えてたうさぴょんが町中のおもちゃたちへ呼びかける。
数分も経たないうちに町中のおもちゃたちが私たちを取り囲んだ。
少し異様な光景だけど、そうも言ってられなくて。
「…と言う訳なの。今度はみんながせつなちゃんを助ける番よ!」
「お願い。みんなの力が必要なの。私だけでは……その…ハートが足りなくて。」
顔が熱い。ほっぺを抑えつつ、ちょっと俯き恥ずかしがる
その姿はまるで、初恋した女の子そのもの。
最初はピクリとも動かず、聞き入っていたおもちゃたちが徐々に口を開き始める。
「ヤッテミマショウ」
「わたしも手伝ってあげるわ!けどサインはちゃんと並んでよね!」
「一人で三人分。任せてー」
「でもみんな起きれるのか?ウキー!」
その言葉に、他のおもちゃたちが一斉に下を向き始める。
「ちょっとみんな!せつなちゃんが困ってるのよ?早起きぐらい…」
うさぴょんは私に気を使ってくれて。
この子もまた〝素直で優しい子〟
「ならばっ!このわたくしが人肌脱ぎましょう!」
「お前は!」
「待ってせつなちゃん!」
私たちの前に現れたのは忘れもしない…
ルーレット伯爵。それとトイマジンの手下。
「先日は大変ご無礼を。」
「……力、貸してくれるの?」
「えぇ、勿論。話もお伺いしました。
すでに、このルーレットは皆さんが起きる時間にセットしてあります。」
ルーレット伯爵の体にある針が指す数字は、四ツ葉町の日の出である〝6時30分〟
「これでおもちゃの国、いえ!世界中の人々が同時に起きる事になるでしょう!」
ルーレット伯爵の言葉に再び顔を上げ始めるおもちゃたち。
「これで安心ね、せつなちゃん。」
「えぇ。ありがとう、みんな…」
感謝の言葉をみんなに伝え、再びアカルンで私たちは部屋に戻る事に。
「アカルン。私のお部屋…」
「待って!」
「どしたの?」
「美希ちゃんと祈里ちゃんの所へ連れてって。」
「何か考えがあるの?」
「うん!」
確か今日はダンス練習もお休みだし、二人でいるはず。
ラブがいない事を祈りつつ…
「アカルン。美希とブッキーの所……を優先しつつ、離れ離れだったら
ブッキーの所へ。ごめんなさい、無理言って。」
咄嗟に沖縄で美希に電話した事を思い出し、今度はブッキーから頼って
みようかと。
赤い閃光は私たちを包み込み――――
〝トン〟
辿り着いたのは河原の土手。目の前には…
「どぅわぁぁあわぁ!!!」
「ひゃっ!?」
ジャージ姿の美希と祈里。そんなに驚く事ないのに。どして?
「ちょっとせつな!」
「もぅ…せつなちゃんびっくりしちゃうよ…」
「こんにちは美希ちゃん。祈里ちゃん。」
「あ、うさぴょーん!」
「あら、うさぴょんちゃん。ごきげんよう。」
私には驚いてうさぴょんには驚かないのね。不思議…
私たちは土手に座り、今回の特別なお願いを伝える事に。
「…と言う事なの。私のわがままだと思う。けど!どうしても……もう一度…」
「それとね、美希ちゃんと祈里ちゃんにはもう一つお願いがあるの。」
うさぴょんの考えを聞いた時、私は勿論驚いたけれど。
――――もう一度会いたい
「いくら何でもそれは…」
「うーん…、でもやってみないとわからないよ?」
「お願い!美希。ブッキー。」
(なんでブッキーの手しか握らないのよ………)
(あ…せつなちゃん…)
「やってみる!成功するってわたし、信じてる。」
「………や、やるわよ。やればイイんでしょ…」
「いつものセリフないわよ、美希。」
「くっ…。こなして見せるわ!ア、アタシ完璧にっ!」
〝ペチっ〟
握っていた二人の手の上に勢いある手の平がもう一つ重なる。
「ちょっと痛いってば美希。」
「アラごめんなさーい。ウフフ…」
「ん?どうしたの美希ちゃん?」
(仲がいいのねみんな。おもちゃより楽しいわ。)
二人に別れを告げると私は、歩いて家に帰る事に。
「アカルン使わないの?」
「えぇ。」
私を助けてくれたのはラブだけじゃない。
美希。
祈里。
みんなに支えられてここまでやってこれた。
嬉しさを噛み締めながら私はゆっくり、ゆっくりと土手の道を歩いていった。
「ただいま。」
「ちょーーーーーーーーーーーーーーーっと!せつなーーーーーーーーーーーー!!!」
「えっ!?」
私を出迎えたのは、腕組みをして眉間に皺を寄せたラブ。
私の家族。
親友。
パートナー。
そして―――大切な人。
「な、何?」
「今日はせつなが洗濯担当でしょっ!どーーーこ行ってたのっ!」
「あ、ご、ごめんなさい…」
すっかり忘れていた。普段、私は口を酸っぱくしてラブに忠告している事がある。
〝約束は絶対守る事〟
ラブは腰に手を当てて私をずっと見詰めてる。
(怒ってる…わよね…)
「あ…」
「え?」
「うさぴょん抱えてどうしたの?」
(!!!!!!)
やっぱりアカルンで帰れば良かった…。かなり後悔。どうやってこの場を乗り切るか。
黙って持ち出した事。
洗濯もさぼって。
約束を破ってしまった罪もある。
「あ、あのねラブ…。じ、実は…」
ラブの前で隠し事は出来ない。そう思い、なくなく事を告げようとすると。
「ま、いいや。それより朝ごはんまだでしょ?一緒に食べよっ!」
「一緒…に?ラブ、まだ食べてなかったの?もう10時だけど…」
「いいからいいから。はやくぅー」
そう言うと、駆け足でリビングへ戻っていくラブ。
その姿を唖然としながら見詰める私。
「いつもありがとう」
ラブといると本当に幸せ。本当に彼女の事が大好き。ずっと一緒にいたい。
こんな気持ちになれるのはもう、一生無いかもしれないとさえ。
「ラブちゃん優しいね。」
「えぇ。ちょっとおてんばすぎるけど。くすっ」
「いっただっきまぁぁぁすぅ!」
「いただきます。」
テーブルの上に並んだご飯やお味噌汁、様々なおかず。
全部ラブが作ってくれた物。愛情いっぱいの手料理。
私もいつか、こうして上手にお料理出来たらなって思う。
「ねぇせつなー。」
「何?」
「クリスマスイブの事なんだけど。」
「みんなでパーティーでしょ。」
「うん。で、次の日は?」
「家族で外食。」
「なーんか忘れてない?」
「えっ?」
「はぁ…。ま、せつなは初めてだもんね
クリスマス。」
「そうだけど…。どして?」
「聖夜なんだよ?出来る事ならせつなと二人っきりでいたい訳。」
「えぇ。それは私も一緒だけど…。」
「せっかく学校も休みに入るんだし、特別な日にしたいんだよねぇ…」
「あ!それなら平気。多分だけど成…」
思わず口が滑ってしまいそうになる。ソファーに置いたうさぴょんが、慌てて
手足をバタバタさせ私にアピールしていた。
(危ない。最後まで内緒にしとかなくちゃ。)
うさぴょんにウインクしてありがとうを伝えると、私は冷静を装い。
「成…、聖なる夜はメリークリスマス!イェーイ!!」
「何それ?せつな………ぷっ」
「あ、あははは…は…」
顔から火が出たかと思った。全然冷静じゃなくて。恥ずかしい…
食事を済ませると私はお皿を洗うのを買って出る。
洗濯も変わりにやってくれたお礼も兼ねて。
「ねぇラブ。」
「なぁにぃ~?」
(わっ。おとうさんそっくり…)
ソファーに横になりながらテレビを見ている。
何だか私がおかあさんになったかのようで。
夫婦ってちょっと大変かも。そう心で呟きながら。
「ラブは〝奇跡〟って信じる?」
「ん?奇跡ー?どうだろ…。起きてみないと何ともねぇ…」
ちょっとガッカリだった。ラブにしては珍しい答えのようで。
洗っていたお皿を片付けると、私もソファーに腰掛ける。もちろんラブの隣に。
「珍しいのね。いつも前向きで明るいラブがそんな事言うなんて。」
「考えてみてよー。私たち、これまで何回〝奇跡〟を起こしたか。」
「そうねぇ…」
思い出してみたら、とても指折り数える程度じゃ収まりきれなかった。
全てが奇跡。まさにラブの言った通りかもしれない。
と、すれば。
また奇跡は起きる。
自信が確信に変わった瞬間。
何気ないラブの言葉が私を後押ししてくれた。
「肩揉んであげる。」
「へ?凝ってないけど?」
「いいから。」
「変なのー」
私たちのの光景を、うさぴょんはニッコリ微笑みながら見詰めていた。
その日の夜、私はタルトとシフォンに明日のプランをこっそり伝えた。
「と、言う訳なの。否現実的だとは思うけど。」
「な…。ま、まぁ、パッションはんも奇跡の塊みたいなもんやしなぁ。」
「きゅあ?」
「多分やで、生身の人間さんやったら、かなり危険かとは思うねんけど…」
「そうね。そこだと思う。」
「ピーチはんは伝説の戦士、プリキュアや。あの時の奇跡はもう一度起こせるかもしれへん。」
「ほんと!?」
「でーきぅー?」
「100パーではあらへん。なんせ、やったためしがおまへん。」
その言葉に私は思わず、下を向いてしまう。
命の危険は無いにしろ、私のわがままにみんなを付き合わせてしまってる。
それでも…。それでも――――ね
「せーちゅな?だいじょーぅ。きゅあっ!」
「シフォン…」
「そやな。パッションはんにもほんま世話になってる。ここは一つ!奇跡を信じようやないか!!!」
込み上げて来る物を押さえるのが精一杯だった。
私はみんなに支えられて生きてる。
本当にこの家に来て良かった。
本当にみんなと出会えて―――――幸せ
「おーいタルトとシフォ…」
3人寄り添って幸せそうに寝てる姿を見て、ラブは静かにドアを閉めるのだった。
まだ陽の昇らない冬の早朝、12月24日。
今日はクリスマスイブ。
タルトとシフォンを起こさないよう、せつなはそっとベッドから起き上がる。
着替えを済ませると、アカルンを片手にまずは――――
「美希の部屋へ」
「っと。起きて…」
「完璧よ、もう。」
そこには、いつもと変わらぬ完璧な容姿の彼女が。
「寝れた?せつなの事だから緊張してるんじゃないの?」
「うぅん。不思議と寝れて。」
それは、自分がもう一人じゃないと確信出来たからで。
「さ、お喋りはここまでよ。お次は?」
「ブッキーの部屋へ。朝からごめんなさい、アカルン。」
ウインクしてせつなは微笑む。
「あちゃー」
「やっぱり朝は苦手なのね、ブッキーって。」
部屋は真っ暗。美希が明かりを着けると、優しい寝顔のブッキーがベッドに。
「ブッキー朝よ。ほら、起きて。」
「う…う、うん…」
「ごめんなさいブッキー。」
「あ、おはようせつなちゃん!」
頭に手を当てて、呆れる完璧少女が一人…。
「早く着替える!遅刻厳禁!!」
「はーい」
「くすくす…」
~AM6:00~
「起きて。」
「んあ…」
「シフォンちゃんも。」
「…きゅ…あ」
あとはラブちゃんを起こすだけ。
せつなちゃん、待っててね。
~AM6:15~
「寒い…。お肌に悪すぎる…」
「まだ日の出前だもんね…」
「ごめんなさい。今度アイスご馳走するから。」
「さらに寒くしてどーすんのよ…」
「おもしろいっ」
私たちは港の見える公園で待機する。厚着をしててもかなり寒い。
けれどこれから起きる、起こしてみせる奇跡に期待を膨らませ。
―――精一杯がんばるわ―――
~AM6:25~
「何よぉ急用ってぇぇぇ」
「内緒やねん!堪忍やピーチはん!」
「急いでラブちゃん!!!」
「zzzzzz」
「シフォーン!能力で公園まで連れてってよもう~」
起こすまでに25分も要するとは、さすがのうさぴょんも驚きの様子。
それ以上にタルトはラブを起こし、シフォンをおんぶし、クローバーボックスまで抱え。
(必ず成功させてや、パッションはん!)
~AM6:29~
「もう間に合わない!アタシ迎え行ってくる!」
「美希ちゃん。信じよう…」
(うさぴょん…。お願いラブ……。)
「皆さん!準備は宜しいでしょうか?私の時計の針が、約束の時間に差し掛かるまであと…」
おもちゃの国では、噴水広場に集まったみんながルーレット伯爵を取り囲む。
5、4、3、2…
―――――来る!
せつなは感じた。彼女のオーラを。
「みんなぁぁぁ!!!」
「ラブ!」
「ラブちゃん!」
「変身よ!!!」
「何でぇ!?」
「いいからっ!」
「早く~」
「時間が!」
1!
~AM6:30~
「さぁ皆さん!祈りを捧げましょう!!そして、目覚めよ世界中の人々よ!!!」
一斉におもちゃたちは胸の前に両手を合わせ祈る。
〝奇跡よもう一度〟
海面に浮かび上がる朝日。朝焼けの眩しさと共に現れた伝説の戦士たち。
タルトはクローバーボックスを開ける。
「シフォン今やっ!」
「きゅあきゅあプリプー!!!」
おでこから放たれた光はクローバーボックスに注げられ、虹色の光が今度は朝日に向かって放たれる。
「今よっ!」
「OK!」
「うん!」
「何々!?何が起こってるのよー!」
虹色の光に次いで放たれる希望と癒しの光線。さらに続く幸せの嵐。
ピーチは呆然とその様を見ている。朝から凄い光景を目撃しているのだから。
ただ一つ言える事は、これから〝奇跡〟が起きるんだろうと言う事。
そして、眩い光が朝日を包み込み、その光はピーチにも。
新しい朝は四葉町を、おもちゃの国を、そして――――――世界を照らす。
いつもと違う朝。だけど、それはどこか心が温かくなるような気がして。
命ある者全てが、それを実感する。
昨日の思い出。今日の喜び。明日が来る事を。
――――ありがとう―――――
想いが一つになった時。それは彼女が再び誕生する瞬間。
ピーチのリンクルンが光り、空へと舞い上がる。
「ま、まぶしい…」
「見えないよぉ…」
「ピーチっ!」
「あたし…、また………なれるの…?」
キュアピーチのさらなる変身。背中に大きな翼が生え、薄い桃色の衣が彼女を覆う。
〝ホワイトハートはみんなの心!羽ばたけフレッシュ、キュアエンジェル!〟
ゆっくりと舞い降りる白桃色の天使。
「みんなのハート、伝わったよ。ありがと。」
「ん…ピーチ。ううん、エンジェル!…久しぶりじゃない。」
「素敵…。また会えたね!」
「………」
「どうしたのパッション?」
「泣いてるの?」
一人俯く少女、キュアパッション。心配そうに見つめるベリーとパイン。
「どないしましてん、パッションはん。」
「せつなちゃん?奇跡起きたんだよ?喜ばなくちゃ!」
「せちゅなー?」
仲間たちもまた、彼女を覗き込む。
「お礼を言わなきゃいけないのは私。私なのに…」
涙ぐむパッション。奇跡を起こすために立ち上がったのは間違いなく彼女、東せつな。
それに共感した仲間たち、おもちゃの国のみんな、そして世界中の人々の感謝の心。
「せつな、驚いたよ。」
「…ごめんなさい、ラブ。私のわがままで…」
「最高のクリスマスイブになったね。まだ朝だけど。」
にっこり微笑むエンジェル。その笑顔は本当の天使のようで。
「そろそろ帰るわよみんな。」
「えっ?もう少し見てたいなぁ…」
「あかんパインはん。パーティーの準備もあるさかい。それに!後は二人の時間やで。」
「シフォンちゃんも眠たそうだし、ね。」
「きゅあぁぁぁ~」
「じゃ、後はお二人で。また後でねっ!」
「お話たっぷり聞かせてねっ!」
気を利かせて飛び立ってく仲間たち。
「あっ。行っちゃった…」
「ありがとう、みんな…。」
朝焼けが彼女たちを眩しく照らす。日の出からまだそんなに時間は経ってないけれど。
眩しいのは太陽だけじゃないのかもしれない。
「寒くない?」
「えぇ…、大丈夫。」
「なーんかおかしいと思ったんだよ、昨日から。」
「えっ?もしかしてバレ…」
「うぅん。わからなかった。」
「せつな。」
「何?」
「ありがとう。これからも…宜しくね。」
「はい。」
「好きだよせつな。」
「私も、ラブ。」
二つのシルエットが一つに。
こうして、クリスマスイブに起きた奇跡は、二人の愛を確かな物にしたのだった。
――――永遠に
「あっ!」
「えっ!?」
「忘れるトコだった。」
「???」
「想いよ届け!プリキュア・ラビング・トゥルー・ハート!!!」
掛け声と共に、空には大きなハートの形をしたオーラが描かれる。
エンジェルの手から白い光が放たれ、世界中のみんなへ温かいハートが降り注がれる。
~Happy Merry Christmas~
【もう一度奇跡を~せつなからの贈り物】
終わり
最終更新:2009年12月24日 01:49