駅を出たところで、
強い北風に煽られる。
体が、寒さで縮む。
コートの襟を合わせ、
足早に家に向かう。
カバンの中には、
3つの包み。
会社の近くにある、専門店で
似合うものを、店員と一緒に考えた。
ざっくりとした、桃色と
赤のセーター。
そして、暖かいオレンジの
膝掛け。
今年は、プレゼントが
ひとつ、多い。
プレゼントの数だけ、
渡すまでの微笑みが増える。
本当に、よく笑うようになった。
レストランで、初めて
会ったときの、彼女。
一度も笑ったことがないような
ぎこちない表情。
何かを思い詰めているような瞳。
面白いことを言って盛り上げるのも
苦手な私は、情けないが娘に任せた。
相変わらず、
全力ではしゃぐラブ。
徐々に、彼女の顔から
力が抜けていく。
ドジを踏んだラブにつられて、
ふと見せた、笑顔。
また、バカなことやってるなあ。
その思いは、ラブを見て
一瞬にしてかき消された。
ラブの顔に一瞬だけ浮かんだ、
包み込むような慈愛。
この子の、笑顔が見たい。
この子の、幸せが見たい。
いつもより1オクターブほど高い、
ラブの声の裏側に、強くにじむ気持ち。
子供だと、思っていたのに。
テーブルの下で、私の左手に
お母さんの右手が重ねられた。
考えていることは、同じようだ。
商店街に入る。
綺麗に飾り付けられた街並みは
見ているだけで暖かい。
「大きな荷物だね。
プレゼントかい?」
立ち寄った酒屋さんで、
話しかけられる。
「ええ、今年はちょっと奮発しました」
「いいねぇ、かわいい娘さんが
ふたりだもんなぁ」
笑みが、顔から
こぼれ落ちる。
シャンパンを、2本買う。
1本は、ノンアルコール。
裏道に入ると、みんなの家から
いい匂いが漂ってきた。
どの家も、今日は
ご馳走が並んでいるだろう。
ひときわ、いい匂いが
漂ってきた。
匂いの元を辿ると、
見慣れた家にたどり着く。
恒例の、自作イルミネーションが
光っている。
毎年、家族全員で
ひとつずつ作って、飾る。
今年は、4つ。
いつもラブが作っている
サンタクロースの横には、
ちょっと不格好な、雪だるま。
家の外まで、漏れている
笑い声と、お皿が触れる音。
いつか、ふたりとも成長して
この家を離れることになるだろう。
でも、辛いとき、落ち込んだとき、
いつでも帰ってきていい。
ここが、ラブとせっちゃんの
帰ってくる場所。
家に入る前に、わざと
足音を響かせた。
家の中で、ばたばたと走る
音が聞こえ、ぴたりとやんだ。
わかっている。
でも、今年はいっそう
賑やかだろう。
さあ、始めよう。
「ただいま!」
私は、クラッカーのテープが
効果的に当たるように、顔から
家の中に入った。
最終更新:2009年12月26日 15:50