家に帰ってから、ラブは改めてこれまでのことをゆっくり話した。
タルトのこと、シフォンのこと、ラビリンスやスイーツ王国のこと。
そして、私のこと……。
私は何も話せなかった。
手当てしてもらってる間もずっと震えていた。
もう、おとうさん、おかあさんって呼ぶことすら恐ろしくなっていた。
少し前まで、口にするだけで幸せが広がっていたのに。
居候で通そうと思った。だから欺いていたって口にした。なのに。
おかあさんは自分の子だって言ってしまった。
私は……巻き込んでしまったんだ……。
話が終わった。おかあさんが私の前に立つ。
身をすくめる私をそっと抱き寄せてくれた。
「辛かったわね。よく頑張ったわね。もう大丈夫、大丈夫よ」
嬉しかった、言葉にできないくらい嬉しかった。
でも、それ以上に苦しかった。
どうして私は人を傷付けることしか出来ないんだろう。
だから泣きながら謝った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
おとうさんが厳しい表情で電話をしている。何を話してるかは想像がついた。
「ラブ、せっちゃん、あたしたちはレミさんの家に行ってくるから、絶対外に出ちゃダメよ!」
私は返事をしなかった……。
「行かせるわけには行かないわ!」
レミが断固として主張した。
「しかし、TVを見る限り、放置しておけない状況なのも事実でしょう。
そして、現状プリキュアをおいて他に彼らに対抗する手段はありません。
どちらにしても、ここに居ても安全の保障はないのですよ」
正先生が重く言った。口調からして本意ではないのだろう。
「だからって、子供を戦場に放り込んでいいって話にはならないでしょう!」
レミが意気込む。彼女にとって美希は唯一の生きがいなのだ。
「私は、行かせてやりたいと思います。ラブのためにも、何よりもう一人の娘のためにも」
あなたっ!とあゆみが叫ぶ。
「今、私たちは私たちの気持ちばかり話している。娘たちが今までどんな想いで戦ってきたのか。
その気持ちを、ないがしろにしていいんでしょうか」
結論は出た。
子供達の意思にまかせる。
どんな結果になったとしても後悔だけはしないように。
約束の時間が来た。
圭太郎たち5人は、公園の中心に居た。
噂を聞きつけたのだろう。そこに集う人々は昼間の数倍に膨れ上がっていた。
丁寧に説明した。
ラブたちのこと。
せつなのこと。
これから起ころうとしていること。
不安が波紋を呼び、混乱が広がる。
質問と暴言が飛び交う。
本当にプリキュアはラビリンスを倒しに行ってくれるのか。
必ず勝てる保障はあるのか。
その間、私たちの安全は誰が守るのか。
恐怖が怒りを呼び生贄を求めた。
あんたたちじゃ話にならない、プリキュアを出せと。
「待ってください!!!」
ラブを先頭に私が続く。両脇を守るかのように美希と祈里が固めてくれた。
どうして着たの!とおかあさんが悲鳴を上げる。
せめて落ち着くまで待って欲しかったと。
「みんな聞いてください!」
ラブが話す。
例え誰に止められても、ラビリンスには必ず行くってこと。
負けられない、でも、とても厳しい戦いになるってこと。
自分のことに精一杯な人たち。でも身勝手だとは思わなかった。
傷つけてきたんだ、私が。
脅かしてきたんだ、私たちが。
奪ってきたんだ、この人たちの幸せを。
私は大きく前に歩み出た。
あちこちから非難の声が上がる。
「言い訳はしません。私は許されない罪を犯しました」
再び深く深く頭を下げる。
「でも戦わせて下さい。私には、これしか、これしかないんです。
きっと戻ってきます。そしたら、私を自由にしてください」
ラブが、美希が、ブッキーが私を庇うように両手を広げて前に出た。
そしておかあさんたちも同じように。
「せつなお姉ちゃんをいじめるな!!」
タケシ君がラッキーとともに走ってきた。
「せつなお姉ちゃんは僕達をずっと守ってきたんだぞ、
一番カッコイイ、一番強いプリキュアなんだぞ」
とてもおとなしい子、礼儀正しい子。優しい子。
そんな子の怒りが、勇気が、想いが伝わり広がっていく。
人が集まってくる、私を守るように取り囲む。
クラスメイトが、商店街の知り合いが、カオルちゃんも立ちはだかった。
そして、一際輝くオーラを放つ3人の姿。
「小さな女の子の更生一つ認めてやれない世界に、生き残る価値なんてあるのかしらね」
トリニティ、その中心に居るミユキさんだった。
非難の声が止んだ。バツが悪そうに俯く人たち。
みんなだってわかっているんだ。
あの子を責めても仕方ないって事。
祈り信じるしかないってこと。
タケシ君が私に駆け寄ってくる。
ごめんなさい、そう言おうとした言葉が遮られる。
「せつなお姉ちゃんありがとう。僕を助けてくれてありがとう」
でも私はあなたに酷い事をした。イースなの。
「違う!せつなお姉ちゃんはせつなお姉ちゃんだよ、
優しくてかっこよくて、僕が一番大好きなプリキュアなんだ!」
ラッキーがワンワンと吼えながら私の周りを走る。
「せつなお姉ちゃん頑張れ!プリキュア頑張れーーー」
「そうだラブーがんばれよ~」
「ラブちゃ~ん、美希ちゃ~ん、祈里ちゃ~ん」
「せつなちゃんがんばれ~東さんファイト~」
『頑張れ~、そうだ頑張れよ~、頑張れ、頑張れ、頑張れ、頑張れ、頑張れ―――――』
『ピーチピーチピーチピーチピーチピーチピーチピーチピーチピーチピーチピーチ』
『ベリーベリーベリーベリーベリーベリーベリーベリーベリーベリーベリーベリー』
『パインパインパインパインパインパインパインパインパインパインパインパイン』
『パッションパッションパッションパッションパッションパッションパッション』
タケシ君から始まった応援が地響きとなって周囲を揺るがす。
涙が止まらなかった。
本当に、この世界に来てからの私は泣いてばっかりだ。
前にラブが言ってた。
応援って本当に凄いと思う。
勇気が沸いて来る。
力が漲ってくる。
まるで負ける気がしない。
「せっちゃん、まだあなたのことを良く思わない人は居ると思う。
でも、後のことは心配しないで行ってらっしゃい。きっとみんなわかってくれるわ」
おかあさん……。
「そうだ、必ず帰って来るんだぞ。せっちゃんの家は僕達のところにしか無いんだ」
おとうさん……。
「よかったね、せつな。幸せゲットしようね」
「せつなの絆、完璧」
「せつなちゃんならきっと許してもらえるって信じてる」
ラブ、美希、ブッキー……。
「美希ちゃ~ん、なるべく早く帰ってきてね~」とレミ。
「気をつけてな、祈里」と正。
「無理はしちゃダメよ」と尚子。
「世界を頼んだぞ」と圭太郎。
「二人一緒に帰ってこなかったら家に入れないんだから」とあゆみ。
『はいっ!いってきます!!!!』
万感の想いを込めて、最後になるかもしれない変身をする。
〝チェイーーーンジプリキュア!ビートアーーーップ!!!!〟
必ず帰って来る。
私たちは4人じゃない。
心はみんなと繋がっているから。
―――絶対負けない、必ず勝利するんだ―――
私たちは心に誓うのだった。
最終更新:2009年12月30日 06:17