避-412

「起きて、ねえ起きてったら、ラブ」

 今日は私がこの世界に着てから初めて迎えるお正月、元旦だ。
 一緒に初日の出を見たいから起こしてと頼まれていたのだが……。

「起きなさい!」
「ん~むにゃむにゃ……せつなぁ~」

 ドキッとする。もしかして私の夢を見てくれてるの?
 初夢は大事ってラブに教えてもらった。
 私もラブの夢が見られた。内容はよく覚えてないけど、幸せな気持ちにつつまれる。

「お願い、あたしのニンジン食べて~~」
「…………………………」

 そう……食べ物の夢なわけね。
 この怒りと失望どうしてくれようか。
 私はラブのパジャマをめくってわき腹に指を走らせた。

「わはっ、あははっはあはは、きゃはははは、やめ、おきたから、あははすとっ~ぷ、きゃはは」

「酷いよせつな、死ぬかと思ったじゃんか」

「文句いわないの。笑顔で新年迎えられてよかったじゃない」

 酷いのはそっちでしょ、と私はむくれた。
 こんなの笑顔って言わないもん、と涙を浮かべて抗議してくる。知らない!



「見て、ラブ。日が昇るわ」
「ほんとだ。今年もいい年になるといいね」

 あらためて顔を見合わせて、あけましておめでとうって挨拶する。
 なんとなく恥ずかしくって、こそばくて、そしてとっても嬉しい。

 部屋に戻って着替えることにした、今日は特別な服が着られるんだ。





「おとうさん。おかあさん。あけましておめでとうございます」

「おめでとう、ラブ、せっちゃん。とても綺麗よ」
「おめでとう、ラブ、せっちゃん。二人ともよく似合ってるぞ~」

 おとうさんとおかあさんが笑顔で迎えてくれた。
 今日のために晴れ着を作ってもらえた。すごく嬉しい。
 祭りに着た浴衣に似てるけど、もっと派手で華やかで。

「おとうさん、おかあさん、ありがとう」

 私は嬉しくてクルクル廻って見せた。
 吹き荒れてるわ、私の幸せの嵐。



 その後、おせち料理とお雑煮で朝ごはんを食べた。
 私もお母さんやラブを手伝って一緒に作ったの。
 すっごく綺麗で食べるのがもったいないくらい。

「はい、ラブ、せっちゃん。お年玉よ。
 今日は美希ちゃんと祈里ちゃんと初詣に行くんでしょ。
 明日はわたしたち家族でもう一度いきましょうね」

 これがお年玉。たくさん入っててびっくりした。
 ラブと二人で顔を見合わせて『ありがとう!』って言った。
 うん、明日も楽しみ。毎日楽しくてしかたないわ。





「あけましておめでとう。ラブ、せつな」
「あけましておめでとう。ラブちゃん、せつなちゃん」

 二人も晴れ着姿だ。もちろん申し合わせをしたんだけど。
 美希は流石に綺麗だ。
 似合うというか、どんな服も服のほうから美希に合わせてくれるみたいに。
 ブッキーも可愛らしかった。私の気持ちも弾む。





 神社の社前に来て目をとめる。

「これ狛犬って言うのよね?なんだか沖縄のシーサーに似てるわね」
「起源は同じとも言われてるの。二組で対になっていて神の守護と魔除の意味があるそうよ」
 とブッキーが教えてくれた。

 鳥居をくぐり、手水舎で清めて、参道の左側を歩いて参拝をする。
 それぞれにお願い事をする。
 静かに手を合わせて語りかける。私の願いは……。

「ラブはどんなお願い事をしたの?」

「みんなで幸せゲットできますようにって。
 美希たんこそ何にしたの?」

「アタシはヒ、ミ、ツ、よ」

「え~ずるいよ美希たん!」

「お願い事は人に話しちゃうと叶わないとも言われてるもんね」
 とブッキーが茶化した。
 私は恥ずかしいからと、口を濁しておいた。



 お神酒を少し頂いてからおみくじを引くことになった。

「やった、大吉、幸せゲットだよ!」
「アタシも大吉、アタシ完璧!」
「わたしは吉か、がんばらなくっちゃ!」

 私は…………。

 楽しかった気分が一気にどん底に沈む。
 大凶……。
 泣きたくなってきた。

「大凶なんて本当にあるのね……アタシも流石に初めて見たわ」

「美希ちゃん追い討ちをかけないで!」

「だ、大丈夫だよ。もう一回引けばいいよ」

「ダメよ、ラブちゃん。そんなことしたらいけないの!」

 ブッキーが両手で私のおみくじを持つ手をそっと握って励ましてきた。

「せつなちゃん、こんな言葉があるの。
 陽極まれば陰生ず、陰極まれば陽生ずって言ってね、
 大吉や大凶のように対局にあるものはその反対にも転じやすいって意味。
 精一杯がんばればきっと素敵な一年が訪れると思うよ」

 調子にのってるとラブちゃん美希ちゃんは危ないんだから、と嗜める。

「さ、せつなちゃん、木に結んでいきましょう。
 悪い運勢のおみくじは左手だけで結ぶと良い結果に変わるそうよ」

 利き手じゃないのに片手は苦労したがなんとか結べた。

「ありがとう。ブッキーは詳しいのね」

「祈ること、願うことにはつい詳しくなっちゃうの」
 エヘヘと笑う。
 本当にありがとう、ってもう一度心の中でお礼を言った。





 お守りなんかを買ってから屋台に目を向けてみた。
 色んなお店がある。
 鯛焼き・たこ焼き・焼きソバ・カステラ・寒いのにアイスクリームなんてのもあった。
 その中でも一際行列の出来ている店が……。

「て……カオルちゃん!!!」

 それは見慣れたドーナツ屋さんだった。



「やあ、お嬢ちゃんたち、おじさん忙しくて困っちゃったよ、
 盆とクリスマスと正月がいっぺんに来たみたい。
 あ、今は正月だっけ、ぐはっ」

 わたしたちは顔を見合わせて相談する。

「ね、カオルちゃん。あたしたち手伝うよ!」

「お、いいのかい、じゃあ頼んじゃおうかな」

「まかせて!」

 みんな、クローバーのドーナツ屋さん、がんばろー、おー。
 私、精一杯がんばるわ。


「さ~カオルちゃんのドーナツ屋だよ~美味しいよ~~
 縁起もいいよ~見通しがいい、なんちゃんて、ぐはっ」

 ラブが調子に乗ってカオルちゃんの口癖を真似る。
 それってレンコンの話じゃ、とブッキーが突っ込みを入れていた。

 美希は澄ました顔でレジを打っていた。
 なぜか男の人のお客さんが増えた気がする。

 私は心を込めてドーナツを包んでお客さんに手渡す。
 手を握ってくる人も居る。両手で握り返して微笑む。
 どうかみんなに幸せが訪れますように。


 2時間ほど手伝ったら随分と客足も落ち着いてきたのでお暇することにした。

「ありがとうね、お嬢ちゃんたち。助かっちゃったよ、これお礼とお土産」

 ドーナツの袋と、小さな封筒が4枚。

「ちょっとまって、こんなの受け取れないよ。そんなつもりじゃないし
 それにいつもご馳走になってるし」

 ラブが封筒だけでもと返そうとしている。

「いいのいいの。お年玉とでも思ってくれたら。そうだ、お賽銭でもいいかな。
 幸運のクローバーにおじさんからのお布施。商売繁盛しますように」
 パンパンと手を合わせる仕草をする。

 ラブもさすがに笑って、ご利益ないと思うよと言いながら、ありがとうって受け取った。



 家に帰ってラブの部屋でお正月の遊びをした。

 福笑い、これはラブが作った顔がひどい事になって笑い転げた。

 百人一首は白熱した争いになった。
 私とブッキーで最期まで競った。美希もなかなか凄かった。
 ラブは……聞かないであげて。

 その後、お外に出て羽根付きをした。
 みんなを真っ黒にしてやろうと意気込んだけど、美希が強かった。
 遊びと言うよりスポーツの試合みたいになってきて近所の人も集まってきた。
 激戦の末なんとか勝ち越せた。
 ラブ……あなたパンダみたいよ。
 ブッキー……はクマさんかしら。
 みんなで大笑いした。





 みんなありがとう。
 私、凄く幸せよ。
 神様って居るのかな。
 信じてもいいような気がしてきた。

 私のお願いは、みんながずっと幸せでいられること。
 そして、
 私がみんなと一緒に居られる幸せが、一日でも長く長く続いてくれますように。

 私、今年も精一杯がんばるわ。
最終更新:2010年01月01日 21:44