十二月三十一日、大晦日。
人々が行く年に思いを馳せ、来たる年はより良くあれと願う日。
しかし、インフィニティを奪取したメビウスの野望を挫く為、
管理国家ラビリンスに乗り込んだプリキュア達には関係の無い事。
世界の為、大切な人を守るためだもの、大晦日だ正月だなんてことは言ってられない。
その筈だったのだが……。
「みんな、覚悟はいい?じゃあ行くよ!」
「あ、ちょっと待って、ピーチ!」
「どうしたの、パイン?」
「これ……見て」
ピーチ達が見たのものは、メビウス城の正門に書かれた張り紙。
そこに書かれていた言葉は。
“偉大なるラビリンス総統メビウス様の城”
『営業時間はAM9時からPM3時
今、メビウス様は *不在*
※年末年始12月31日から1月3日までは休業日となります』
「………………………………………………………………」
「そ、そういえば、土日祝日と年末年始はお休みだったかしら。
……ごめんなさい、こういうことは私が早く思い出すべきよね」
「いや、パッションは悪くないって」
「そうよ、普通は世界征服中の悪の組織が正月休みとか、ありえないでしょ」
謝るパッションに、ピーチとベリーがフォローの言葉を掛ける。
「それにしても……管理国家、休み短っ!」
「中小企業並みの休みしか無いのね」
「あ、それはクラインが年間稼働率を出来るだけ下げるなっていう
方針だったからなの」
「うわあ……部下に嫌われる上司の典型例ね、それ」
「それはそうと、これからどうしよっか?」
「「「うーん……」」」
パインの言葉に、腕を組んで考え込む3人。
「とりあえず、四つ葉町に一端戻ろうか?」
「いやいや、あれだけ盛り上がって出発したのに
今更帰れないでしょ!」
「でも、ここで4日までただ待ってるわけにもいかないわよ」
「「「うーん……」」」
打開策を考えるも思いつかず、唸るピーチ、ベリー、パッション。
そこに、おずおずと手を上げながらパインが口を開く。
「ええっと……じゃあとりあえず、
ラビリンスも休みだからプリキュアもお休みってことで、どうかな?」
「何言ってるのパイン!一刻も早くシフォンを助けて世界の危機を解決しないと!」
「……いやー、パインの言うことも正しいかもしれないよ」
「ピーチまで!」
「だってほら、見てアレ」
「?」
言われてピーチの指す方向を見上げるベリー。
「……ニュースで見た、巨大な機械のコード?」
そこにあったのは、スイーツ王国、おもちゃの国をはじめとして
数々のパラレルワールドを一夜にしてラビリンスの支配下へと変貌させたコードだった。
「あんなに沢山あったのね……」
「でも、止まってるみたいだよ?」
パインの言うとおり、見上げる先に無数にあるそれらは、宙に浮かんだまま停止状態。
「……本当だ。止まってる?」
「つまり、ラビリンスが休みの間は城にも入れないけど世界が侵略もされない、と」
「そういうことになるのかしら」
「………………………………………………………………」
「……じ、じゃあ、とりあえず一度出直す?」
「「「さんせーい!」」」
ベリーの言葉に、諸手を上げて賛同する三人。
「ね、せつな、初日の出見に行こ!」
「うん……あ、私初詣っていうのにも行ってみたい」
「それならみんなで行こうよ。ね、美希ちゃん、どこかオススメの場所とかある?」
「東京タワーとか、どう?あそこから日の出、見れるらしいわよ。
その後は明治神宮に行ってみるとか。人、凄いけどね」
「いつもニュースで人がいっぱい映ってる場所だよね……はぐれちゃったり、しない?」
「大丈夫よ、ラブ。私何があってもラブの手は離さないから」
「ん、それならあたしも絶対せつなの手を離さないよ!」
「ラブ……」
見詰め合う、早くも手を取り合うピーチとパッション。
そんな二人に呆れ顔のベリー。
「全く、この二人は人前ではばかりもしないでいちゃいちゃと……」
しかしそこで、自分の手を誰かが引いているのに気が付く。
「……ん?どうしたのブッキー」
「美希ちゃんは、してくれないの?」
「え?」
「……してくれないの?」
「いやー、そんなラブ達みたいなことは……」
言いかけたベリーを捨てられる子犬のような目で見つめるパイン。
見つめられたベリーはうっ、と軽くたじろぐ。
「…………っ、ちょっと、そんな目でアタシを見ないでよ!
あーもう、わかったから、手を繋いで初詣、行ってあげるってば!」
「うん、ありがとう」
途端にぱあっと明るい笑顔に表情を一変させるパイン。
ベリーはそんな彼女の様子にやれやれと溜息をつきながらも、
決してまんざらでもない様子。
「ほら、せつな、美希タン達だって人の事言えないでしょ?」
「というか、確実に見せつけてるわよね……」
そこに、いつの間にかこちらの様子を凝視していたピーチとパッションの声。
途端にベリーの頬が瞬間湯沸かし器の如き速度で赤く染まる。
「こらっ、そこの外野二人、何勝手な事言ってるの!」
「勝手って、ねえ。事実を言ってるだけだってば」
「うん、そうだね。ラブちゃんの言うことの方が正しいかな」
「……何でブッキーまでそっち側なのよ!
もういいから、帰るならとっとと帰るわよ!
ちょっとせつな、何笑ってるの!早くアカルン使いなさいってば!」
「……はいはい、じゃあ、アカルン!」
パッションの言葉と共に、赤い光が周囲に満ち、同時にピンク、赤、青、黄の
4つの光がその場から飛び去った。
そして、プリキュア達が去り、人気の無くなったメビウス城の扉。
「行ったか……?」
「ああ、そのようだ」
その向こうで息を潜ませていた二人の男が声を掛け合う。
「お前の言うとおりの張り紙をしてみたが……まさか本当に帰ってくれるとはな」
「プリキュアと言っても年相応の女の子だからね。
辛い戦いの前に、ちょっとでも自由になる時間があるとわかれば
喜んでその通りにするだろうさ」
「イースもか?」
「彼女も大分あっちの世界に馴染んでるみたいだからね」
「……で、俺達はいつまでこうしてればいいんだ?」
「『私達が戻ってくるまではプリキュアを進入させないように』と
ノーザさんは言ってたよ」
「メビウス様とクラインとノーザ……さんの三人で
インフィニティが手に入った祝勝会代わりの温泉旅行か……いいなあ。
っていうか何で俺達呼ばれないんだよ?幹部なのに」
「インフィニティ奪取の作戦考えたのはノーザさんだからね。
僕達は言われた通り動いただけだし」
「それにしても折角の休みに、
なんでこんな番犬みたいなことしなきゃならんのだちくしょー!
年越しソバ食い歩きとかゆく年くる年の実況に乱入とか、
やりたいこと沢山あったのにー!」
「……それを言うなら僕も同じさ。
ここの所溜め込んでいた本を消化する良い機会だと思ってたんだけどね。
何が悲しくてキミと一緒にこんなことしなきゃいけないんだが」
「……イース達は初日の出見に行って初詣って行ってたよな」
「言ってたね。まあ、この時期にこんなことをしてるのは僕達くらいだろうね」
「で、数日後にはまたプリキュアを向かい撃たなければならん、か」
「そうなるね」
「……」
「……」
「中間管理職ってのは、つらいな……」
「ああ……」
そして、二人の男達は顔を見合わせると、揃って溜息をつくのだった。
最終更新:2010年01月03日 08:15