出会いはクローバーの丘の上。
小さくて儚げで、今にも消えてしまいそうな気がした。
娘と同じくらいかしら、そう思ったらつい話しかけちゃった。
どこからきたの。どうして一人で居るの。何を悲しんでいるの。
質問が次々に浮かんでは消えていく。
孤独と絶望を湛えた瞳、軽々しく口にしていいことではないと思えた。
理由なんてどうでもいい。
この子にこんな表情をさせる世の中がおかしいと思った。
抱きしめてやりたい思いを懸命に堪えてその場を離れた。
この子には時間が必要かもしれない。
「クローバータウンストリートにいらっしゃい」
もう一度会えることを祈りながら。
「おかあさんにお願いがあるの」
娘にそう言われた時は本当にびっくりした。
あんなに必死な表情は初めてだったから。
娘が連れてきた子は、あのときの少女。
「また会えたわね」
そう、これはきっと運命。
あゆみに迷いが無いなら僕も信じよう。
その日から私達に新しい娘が出来た。
その子の名前は東せつなちゃん。
静かで控えめで、あまり笑わない子。
何から何までラブと正反対の子。
そしてきっと同じくらい優しい子。
ラブはせつなちゃんに色んな表情を見せた。
彼女を見つめる目はとても愛しそうで。
彼女と過ごせる時間はとても楽しそうで。
彼女を語る様子はとても誇らしそうで。
彼女と一緒に居る時にだけ見せる笑顔は、
私達ですら見たことも無いくらいに輝いていた。
「私は幸せになってはいけない気がするんです」
孤独に震えていた少女が口にした言葉。
どんな想いで一人で生きてきたんだろう。
どんな想いでそれを口にしたんだろう。
悲しくて悔しくて、胸が掻き毟られた。
この子の過去に何があったのか。
そんな疑問なんてどうでもよくなった。
ラブとの中は本当に睦まじくて微笑ましくて。
だんだん明るくなっていく様子が愛しくて。
私達が話しかけると、恥ずかしそうにして、
でも確かにそっと微笑んでくれる。
いつしか私達は、ありのままのせつなちゃんを愛していた。
始めは遠慮だと思った。
あの子は何も欲しがらず、求めなかった。
感情すら表に出すのを恐れているみたいで。
いつも自分を抑えていた。
幸せになってはいけない、そんな言葉を思い出した。
きっと、せつなちゃんは過去と戦っているんだろう。
だから私達も一緒に戦おうって決めた。
あの子が自分を許せる日が来るまで。
せっちゃんて呼ぶようになった。
おとうさん、おかあさんて呼んでくれるようになった。
この幸せがずっと続くと思っていた。
ずっとこの子たちを守ろうと思っていた。
まさか、守られてきたなんて知らなかった。
あななたちはどんな思いで戦ってきたの?
料理には自信があるつもりだった。
こんなに美味しくなかったんだ、二人だけで取る食事は。
帰ってくる夢、こない夢、交互に繰り返される苦悶の日々。
帰って来たらうんととっちめてやるんだから。
そしてたっぷり抱きしめよう。
その後、時期外れのクリスマスパーティーをしよう。
すぐ後にはお正月のお祝いだ。
二人とも覚悟しておきなさい、きっちり埋め合わせしてもらうんだから。
最終更新:2010年01月03日 17:21