それは、いつものようにラブと愛をかわした夜の出来事。
愛し合った後、お互いに裸のまま抱き合って眠るのが、わたしは好きだ。
抱き合いながら、汗ばんだ肌をラブに撫でられていると、満足しきったはずの身体に再び火が点くこともしばしばだった。
いつもなら、わたしを昇らせることに集中し過ぎているために、自分の快感には無頓着なことが多いラブ。
だけど、今夜のラブはどこかおかしかった。
「せつな…お願い、あたしにも…ちょうだい、もっと、もっと。せつなを一杯ちょうだい――――」
いつも求めさせてばかりのラブが自分から求めてくるなんて、滅多にない嬉しいことだ。
そんなラブが可愛くてたまらなくて、今夜はわたしがリードする場面が自然と多くなった。
攻めるのって、とっても体力がいるのね。知らなかった。だけど、いつもラブはそれをしてくれてる。それは、わたしが愛されてる証…なのかしら。
そう考えて、わたしは頬が熱くなる。ラブからの大きな愛を実感して、気恥ずかしさに襲われたから。
そんなわたしの横では、何度となく達しては果てたラブが、心地良さそうに眠っている。
なんて愛らしい生き物……ラブ、貴女が大好きよ。
その可愛いくちびるに口づけようと、顔を近づけたその瞬間、ラブの眉間が急に険しくなったかと思うと、突然に彼女は喋り出した。
「い…や…いやだよ…いかないで…いかないでっ…せつな…」
「ラブ?行かないでってどして?
わたし、どこにも行かないわよ?ここに、貴女の隣にちゃんといるわよ」
必死に答えるが、ラブから返事はなく。
しばらく考えて、ようやくそれが寝言だと気づいたのだったが。
悪い夢でも見ているのか、うなされているラブの額には玉のような汗が吹き出している。
「可哀相なラブ……わたしならどこにも行ったりしないのに。貴女を置いてどこかに行くなんて、わたしに出来るはずないのに……」
そうひとりごち、ラブの額に浮かんだ汗を、ティッシュでそっと押さえ拭く。
それに嫌々をするように首を横に振りながら、ラブはわたしの名を呼んだ。何かを掴むように右手を高々と挙げ、きつく閉じられた瞳から涙まで流して。
「せ…つな…」
わたしは思わずラブの右手を握った。
一体ラブはどんな夢を見ているというのだろう。こんなに苦しむ程だ、わたしに関するとてつもなく不幸な内容に違いない。
ハラハラする想いで一杯になり、胸が苦しくなる。
ああ――――ラブの夢が覗けたらいいのに。
「キィ!!」
わたしの想いに反応したのだろうか。紅い鍵が、キラキラ輝きながらリンクルンから飛び出してきた。
「アカルン?――――そうか!あなた、ラブの夢の中へ連れて行ってくれるのね!?」
「キィ、キィ!」
そうだと言うようにうなづくアカルン。
「ありがとう!!じゃあ急いで服を着て…と。OK!出発よ!」
「キィ!」
服に着替えたわたしが深紅の光に包まれ向かったラブの夢の中、そこには待っていたのは……。
この時のわたしはまだ知らなかったのだ。そこに、とんでもない光景が待っていたなんて。
わたしがいるのは、さっきまで居たラブのベッドではなく、公園だった。
「ここがラブの夢の中…なの…?」
「キィ!」
アカルンが自信満々に答える。
いつもと変わらない、クローバータウンの公園。しばらく歩いてみると、ステージの近くにラブを見つけた。
「ラブ!」
大声で叫んだわたしの声には気づきもしないで、ラブは茂みに隠れる。
茂みの陰から誰かをのぞき見ているようだ。
ラブの視線の先にいるのは、ベンチに座る美希と、彼女にしな垂れかかる黒髪の少女……わたし?!
「ありがと美希。今日はとっても楽しかった。服を選んでくれて、それからこんなに素敵な指輪まで……」
「やっぱりルビーにして正解だったわね。せつなにスッゴク似合うわ」
「だけど、こんなに高価なもの貰っちゃって――――ホントにいいの?」
「当然。アタシがあげたいの。だってせつなはアタシの彼女なんだから。アタシのだっていう印、つけとかなきゃね」
「嬉しい…美希」
「可愛いせつな…」
見つめ合うふたり。そのままふたりはくちびるを重ね合って……。って、えええっ!!ラブの夢の中ではわたし、
美希の彼女なの!?どして!?
ふたりのキスには次第に熱が入り、美希の手はわたしの胸を揉みはじめ…んー、ややこしい。
便宜上、夢の中のわたしをセツナと呼ぶことにする。
美希に胸を揉まれながら、まるでもっともっととねだるように身体を押し付けていくセツナ。
そんなセツナのスカートの中に、美希の手が伸びていき……。
一方、熱いキスを茂みからのぞき見るラブは、涙を浮かべている。
「セツナ…あたしこんなの嫌だよ…」
ラブ…あれはわたしじゃない。セツナよ。わたしならここにいるわ。せつなは貴女だけを愛してる。
わたしはラブのそばに駆け寄り、抱きしめようとした。
だけど、駄目だった。いくら力を込めて抱きしめようとしても、腕がするりとすり抜けてしまうのだ。
どうやら夢の世界では、わたしは半実体の存在らしい。
そうこうしてるうちに、風景が急に暗転していく。
どうやらここは、喫茶店らしい。奥まった席で、ブッキーとセツナが座っている。
ラブを探すと、ついたてを挟んだ隣の席に、彼女はいた。聞き耳を立てているようだ。
「セツナちゃん、ここ?」
「んっ…ふ…あんっ…」
微かに聞こえる喘ぎ声。テーブルの下で、ブッキーの手がセツナのスカートの中をまさぐっている。
こちらでは、セツナの相手はブッキーなのね。
セツナは顔を赤く染め、陶然とした表情を浮かべている。
「くすくす…そんなに気持ちいい?あんまり声出すと、他のお客さんに聞こえるよ」
「だって…祈里が…んっ…あんまり上手いんだもの…ふあっ」
セツナはびくびくと震え、達してしまったようだった。
「ほらもう私の指、セツナちゃんのでびちょびちょだよ…どうしてくれるの?」
「ごめん…なさい…」
「罰として、ココから下着は脱いで帰るのよ。電車の中でもたっぷりと可愛がってあげる…」
これがブッキーなの!?いつもの彼女とはまるで別人だわ……
って、別人なのよね。いけない、いけない。つい間違えそうになっちゃう。
隣の席では、ラブがまた涙を流している。
「セツナ…ひどいよ…」
だから!あれはわたしじゃないってば!!
抱きしめられないとわかっていても居ても立ってもいられなくなり、わたしはラブを抱きしめる。
すり抜けてしまうけれど、包み込むように、そおっと。
だけど、再び世界は暗転して……
行く先々の世界で、セツナは様々な人に抱かれていた。
ミユキさん、レミさん、由美にまで……。
中にはとても言えない相手までいた。
「アカルン!もういい。こんなの無意味よ!帰りましょう」
「キ、キィ…」
申し訳なさそうに、うなづくアカルン。アカルンが悪い訳じゃないのに、わたしったらアカルンに当たってる。
「ごめんなさいアカルン…、貴女のせいじゃないのに、あんな言い方」
「キィ」
アカルンは優しく微笑んでくれた。分かってるよ、と言うように。
再び深紅の光に包まれて、わたしは現実世界に舞い戻った。
見慣れたラブの部屋。ベッドの上では、ラブがまだうなされている。
「嫌っ…せつな、いかないでよ…」
「ラブったら…あれは夢なのよ。起きて!!」
ラブを悪夢から覚ますため、わたしは彼女を精一杯揺り起こした。
「う…うぅ…せつな…?」
目を覚ましたラブが、涙を擦りながらわたしを見つめ、強く抱きしめてくる。
「せつな…どうしていっちゃうの!?」
「やぁね、あれは夢、わたしは何処にも行かないわよ」
「だってアタシ以外の人達から、いっぱいイかされてたじゃんか…」
…
……
………はーーー。がっくり。
そっちの「イかないで」だったわけね。
「もう!勝手にあんなエッチな夢見ておいて、何なのよ!ラブなんて知らない!!」
「あれっ…?何を怒ってるのかな、せつなは。
あ、アタシだけ気持ちよくなったから怒ってるのか。ごめんね、今からいっぱいせつなもイかせたげるから。
――――ってか夢の中身、何で知ってるの?」
「知りません!!」
その日からしばらくの間、エッチをおあずけされて悶絶の日々を過ごしたラブだけど、それはまた別のお話。
最終更新:2010年01月03日 11:19