避-610

 大人しい、慎ましい、控えめ、わたしはいつもそんな風に形容されてきた。
 欲もあるよ。嫌なものは嫌。特に優しいわけじゃないの。
 自分を抑えていれば周りが庇ってくれる。
 優しくしてくれる。
 誉めてくれる。
 だからそれが正しいんだって思い込んできた。

 そんな時、美希ちゃんに教えられるの。
 わたしと正反対で、何でも思ったことをすぐ伝えようとする子。
 まわりとぶつかりに行ってでも、自分の信念を貫こうとする子。
 人の意見に惑わされない子。
 わたしは思ったの。
 ああ、この子は自分を信じているんだなって。
 それがとても羨ましかった。



 わたしは人と争うのが苦手。傷付け合うのが怖い。
 だからいつのまにか消極的になっていく。
 人から少し距離を置こうとしてしまう。

 そんな時、ラブちゃんに教えられるの。
 自分の気持ちに正直で、何でも思ったことをすぐ行動に移す子。
 周りとぶつかりに行ってでも、相手の気持ちを確かめに行く子。
 人の気持ちに真っ直ぐな子。
 わたしは思ったの。
 ああ、この子は人を信じているんだなって。
 それがとても眩しかった。



 わたしが動物を好きだと思ったのはいつからだったろう。
 生まれた時から囲まれて育ってきたから、初めからなのかも。


 捨てられた子犬を拾ったことがあるの。
 雨に打たれて震えて動けなくなっていて。

 わたしに何かを伝えようとしていたのに、何もわかってあげられなかった。

 近くにその子の兄弟が居たことも。わたしは何も救ってあげられなかった。

 意志を伝えられない生き物。
 それがなんだか自分のことにも思えてきて悲しかった。


 そう、わたしは動物が好き。
 人と交流を結び、共に暮らしている動物たちはもっと好き。
 ペット・サーカス・動物園。ゆがんでいると思うよ。
 人間の身勝手だと思う。
 それでも人は動物に合わせては生きられない。
 動物に人に合わせてもらうしかないの。
 自由を奪っている。犠牲を強いている。
 でもそんな中でも、確かな愛情が、友情が結ばれることも知っている。


 だからわたしは獣医になりたいと思ったの。
 人を愛してくれる動物達が、少しでも快適に、幸せに生きていく手助けがしたいから。

 だから二人みたいに強くなりたいって思ったの。そんな子たちを守ってあげられるくらいに。


 美希ちゃん。ラブちゃん。これからもわたしに力を貸してね。
 みんなが一緒に居てくれたら、きっとわたしも変わっていけるって信じてる。
最終更新:2010年01月11日 11:52