せつなの言葉を聞いた時。
アタシは、良かった、って思った。
嬉しく、思った。
LOVE SOMEBODY
「ラブ」
長い、長い階段を駆け上がる。その行き着く先には、シフォンが待っている。
相変わらず体は重くて、飛び上がることも出来ないけれど、負けていられない。シフォンを助けて、全ての世界を
元通りにする為に、負けられない。
「ねぇ、ラブ」
思いながら駆けあがって行くアタシの隣に並んで来たのは、パッションだった。アタシの名前を小声で呼びながら、
こちらに視線を向けてきている。
「どうしたの? せつな」
アタシは、パッションではなく、せつなと彼女を呼んだ。せつなが今のアタシを、ラブと呼んだから。
つまりそれは、プリキュアとしてではなく、友達として話をするという意味。
「ん――――最後の戦いの前に、ラブにちゃんと言わなきゃいけないと思って」
走り続けながら、アタシを横目で見て、パッションは――――せつなは言う。怪訝そうなアタシの表情に気付いた
のだろう、彼女は小さな笑みを顔に浮かべる。
「ホントは、こんな時に言うことじゃないんだけどね――――ありがとう、って、どうしても言いたかったから」
「え?」
「アタシに幸せを教えてくれたこと。アタシを守ってくれたこと。言葉にし尽せないぐらい、ラブには感謝してるわ」
驚くアタシ。けれど、駆ける脚を止めることはしない。走りながら、アタシは黙ってせつなの言葉を聞く。
「貴方がいてくれたから、私は自分の幸せを見つけることが出来た。誰もが、自分の想いを持っていいのだと、気付く
ことが出来た――――この世界で管理されていたなら、絶対に気付くことが出来なかったことを、貴方が教えてくれた」
少しだけ、彼女がアタシの方に顔を向けた。その目は、とても暖かい笑みを湛えていた。そう、かつてイースとして、
アタシ達の前に立ちはだかった少女と同じとは思えない程に。
「もちろん、お母さんやお父さん、美希やブッキー、それに四ツ葉町の皆からも色んなことを教わったわ――――
けれど、一番はやっぱり、ラブだから」
だから、ありがとう。
そう言う彼女に、アタシも返す。想いを。
「じゃあ、アタシからもありがとう、かな」
「え? 私、ラブに何かした?」
「せつなから、たっくさん幸せ、もらったよ」
一緒にご飯を食べて、ダンスをして、学校に通って。
せつなと一緒に過ごした時間は、とっても楽しいものだった。
かけがえのないもの、絶対に守らなきゃいけないものと思える程に。
「だから、ありがとう、せつな」
「――――なんだか、照れ臭いわね。けれど――――あったかい」
ありがとう、って素敵な言葉ね。
せつなの言葉に、アタシも大きく頷く。
ありがとう。感謝の気持ち。それは言葉にすればたったの五文字だけれど、とても大きな意味を持つもの。
「それにね、アタシ、嬉しかったんだ。せつなが、メビウスに手を差し伸べたのを見て」
「……ラブ」
「メビウスに、手を差し伸べて、理解し合おうって言ってくれて――――うまく言えないけど、良かった、って思ったんだ」
かつて、せつなはメビウスに忠誠を誓っていた。それを裏切った相手にも、せつなが優しさを見せてくれて、幸せを
共にしようと言ってくれて。
すごく、ジーンとした。
「あれも貴方のおかげよ」
「そうなの?」
「ええ。だって貴方が、敵であった私に手を差し伸べてくれたから」
「――――そっか」
アタシは笑う。せつなも、笑う。
「メビウス様は、私の手を取ってくれなかったけれど――――私、これからも色んな人に手を差し伸べることをやめない。
それがたとえ、敵であっても」
誓うように言って、せつなは後ろを一瞬、振り向く。つられて見れば、彼女の視線の先にはウエスターとサウラーの
二人がいた。
そっか。あの二人も、せつなと美希タンが手を差し伸べたから。
「そうやっていつかは、全ての世界の人達が、皆、手を取り合っていけたら――――」
「うん。そしたら、皆で幸せを分かち合えるね」
繋いだ手から伝わったんだ。アタシの気持ち。想い。
それが、イースであったせつなを助けたのなら、きっと、彼女が助けた人にも、アタシの想いは伝わっていく。
そうすれば、きっとたくさんの人に、愛を届けられるだろう。
「だから――――だから私、精一杯、頑張るわ」
「うん。シフォンを連れ帰って、皆で幸せ、ゲットだよ!!」
笑いあってから、アタシは大きく叫ぶ。
「行くよ、皆!!」
『ええっ!!』
美希タン、ブッキー、せつな。皆の声が、アタシの背中を強く押してくれる。
プリキュアは――――ううん、アタシ達は負けない!!
皆のハートが、力になるんだから!!
思いながらアタシ達は。
シフォンへと続く階段を、駆け上がっていったのだった。
最終更新:2010年01月24日 16:12