避-822

「余計なことをするな!」

ふたりを一喝し、
部屋に入った。


体に、力が入らない。

壁にぶつかり、
崩れ落ちる。


猛烈な痛み。

痛んでいるのは、多分
体だけではない。



残り2枚になった
カードに、目をやる。

このカードの、力の源が
何なのか、わかった。


私の、苦しみ。


私が、苦しむほど、
その力は、増大する。

増大した力は、そのまま
跳ね返り、さらに私を苦しめる。


ナキサケーベの力が、
もっとも強くなるとき。

それは、多分
私の命に、関わるとき。


これも、メビウス様から
与えられた、試練なのだろう。

極限まで、力を
上げなければ。



「心配してくれて、ありがとう」

「せつなは、どこ?」

「ここには居ないのね、
 よかった...」


ラブの言葉ばかり、
頭をよぎる。


動揺した。

そんなはず、ない。

この命など、
尽きても構わない。


気を、しっかり
持たなければ。


せつな、なんて人間は
ここには、いない。


最初から、いない。



机のカードをシャッフルし、
1枚だけ、めくる。


逆位置の、隠者。


苦笑した。

カードにまで、
見透かされているのか。


鏡の中の
自分を、見る。


憔悴しきった顔。

生気のない瞳。


かすかに、聞こえる。


助けて。


目の前に映る私から、
視線をそらした。
最終更新:2010年01月27日 00:36