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初めて見たその大人びた顔に、私は―――





ラブと一緒に住める事になり、これ以上ない幸せを私は日々、実感していた。

起きるのも一緒。
歯磨きも、朝食も、登校も下校も。
遊んだり、ダンスをしたり、泣いたり笑ったり。

ねぇ、ラブ。
私と一緒にいて楽しい?私と一緒にいて嬉しい?

いつしか、私の心の奥底に宿る感情。
こんな気持ち、初めてだった。

それはどこか、もやもやして。



伝えたいのに―――伝えられない




私はこちらの世界に来て、多くの事を学んだ。
もっともっと知りたい事がある。

知りたい人が…いる。

いや、
知りたい人が―――出来た





「せつなー!ドーナツ食べにいこっ!」
「あっ、あのねラブ。ごめん、先に帰って…」
「えぇ~。今日約束したじゃ~ん。デートするって~」

「…ごめんねラブ。」



違うの。
何かが違う。

それが何かはわからないのだけれど。



いつもと変わらず、明るい笑顔でみんなに接する貴方。
それは私にも一緒で。


嫌。
嫌よ、ラブ。

私には。
私だけには―――



あの時。

私だけを見詰めてくれた。
私だけを抱きしめてくれた。

嬉しかった。凄く嬉しかったのよ、ラブ。





幾月が経ち、貴方はいつも、私の傍にいてくれる。

ありがとう。
毎日感謝しているわ。

でも。

でもね?



次のステップに進んでもいい頃だと思うの。




私は最近、図書館で一人本を読んだり、考え事をしたりする。
悩む事はあまり良くないとラブは教えてくれた。
何も言ってないのに、私の表情一つで悟られてしまう。



悩む原因は―――貴方の事を―――愛しすぎてるから




がんぼう【願望】
(1)ねがいのぞむこと。がんもう。
「強い?を抱く」
(2)〔心〕 精神分析で、主に意識されていない欲望のこと。

国語辞典を開く時、必ず見てしまう言葉。それが〝願望〟


もっと愛されたい。
もっともっと愛されたい。

愛し続けてほしい。


―――私だけを





でも、これじゃ意識している事になってしまうわよね。
少し頭を冷やさないと。
こんなんじゃ、ラブに笑われてしまうもの。




普段の私、東せつなを演じなくては。

せっかく誘ってくれたデートを断ってしまった。
私の理不尽な我侭で。

謝るよりも、ラブの大好きなハンバーグを作って、笑って許してもらおう。




精一杯の―――愛を込めて




~END~
最終更新:2010年01月29日 01:10