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「んっ…ああっ!……ハア~ッ、また失敗しちゃった。卵焼きってどしてこんなに難しいのよ……」

「あーあ……残念だったねせつな。けど練習あるのみ。だよ!」

「どしてラブみたいに上手くできないのかしら」

「あたしだって始めは下手っぴだったんだよ?だからせつなだってきっと大丈夫!ねっ?」

ラブの心からの励ましとこぼれんばかりの笑顔。
さっきまでの悔しさを包み込むような温かさが、せつなの胸に拡がります。

「ようし!上手く巻けるようになるまで、何度でも精一杯がんばるわ!」

「その調子!」

微笑みあうふたりのそばには、山のような卵の殻が積み上がっていました……とさ。



「ふふ。二人とも頑張ってるじゃないか。」
「家計の事情もあるんだけど。」
「まあまあ。僕のお小遣いから引いといて。」

「冗談よ。でもせっちゃん楽しそうね。」
「ああ。ラブも楽しそうだね。」



「お父さんお母さん、お待たせっ!
 今晩のメインディッシュは、せつな特製!くるくるだし巻卵だよっ!」

「まあ、せっちゃん!とっても上手になったじゃない!」

「だけどメインってことは、サブのおかずがあるわけで……
 他のおかずはどこにあるんだい?」

圭太郎に聞かれ、にこやかに微笑みをたたえたラブが指差したのは、お皿に乗せられた大きな黄色い塊。
それは綺麗に巻かれなかった、だし巻卵の成れの果てたちだった。

「これが……サブ?」

「お父さんお母さんごめんなさい……卵焼きに夢中で、
 気がついたら他のおかずを作る時間が無くなってたの」

「ささ、せつなの努力の成果なんだから、文句言わずに食べる!
 それに、見映えはアレでも、味はラブさんの保証つきだよ!」

「どれどれ……ん!旨い!」

「あらホント!お父さんのお弁当のおかずにピッタリ。
 明日からせっちゃんに毎朝お願いしようかしら」

「嬉しい!任せて、お母さん!」

「せつなの卵焼きで、皆幸せゲットだね!」



翌日。

「お!桃園さんは今日も愛妻弁当ですか。うらやましいなあ」

「実は……下の娘が初めて作ってくれましてね」

かぱっ。

圭太郎が蓋を開けると、唐揚げやブロッコリー、ミニトマトの間におさまった、せつな特製くるくるだし巻卵が。
そして、御飯の上には桜でんぶで大きなハートマークが……!

「幸せゲットだぜ!」



「あ、いっけない。お父さんに渡したお弁当、ラブのと間違えちゃった」
最終更新:2010年01月30日 00:07