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9-154

「とうぶんお別れね、ラブ」

「そうだね、せつな」

「わたしがいなくてもちゃんと起きられるかしら?」
「もー子供扱いしないでよー」

いつもの会話、いつもの笑顔。
二人はこれが最期だと言うのを、まるで気付かないフリをしているかの如く。

「だいたい、アカルンがあればいつでも戻ってこられるんだもん。そんなに悲しむこともないよね!」
「そ、そうね」
「そうだよ!」


嘘。


せつなはラビリンスの再建が完遂出来るまでは、ラブ達とは合わないことを決めていた。
それがメビウスを裏切り、そして、次はラブから離れる自分への罰だと。
ラブもその事には気付いていた。

「・・・幸せ、ゲットだよ!」
「・・・精一杯頑張るわ!」
「ふふっ」
「あはは・・・」


「じゃあ、そろそろ行くから・・・」
「ん・・・」

そう言って離れかけた手を、ラブは再び掴む。

「ねえ、せつな」
「な、なに・・・?」

「幸せに・・・」

「・・・ラブ?」


「あたしも幸せになりたい・・・!」
「!」
「せつなと一緒に幸せになりたいよ!どうしてダメなの!?せつなはあたしと一緒じゃ嫌?」


「違うの・・・。私はラビリンスを・・・、自分の故郷を守らなきゃいけないから・・・。
精一杯頑張らないといけないから・・・だから・・・」
「嫌だよ!それがあなたの幸せでも・・・。あたし・・・嫌・・・!あたしもあなたと・・・せつなと・・・」

「ラブ・・・」



「・・・あはは!なーんちゃって!ごめんね!変だよね!こんなの・・・ちょっと・・・変だよね・・・」
「ラブ・・・」
「あはは・・・じゃ、じゃあね!頑張ってねせつな!バイバーイ!」
「ちょ、ちょっと・・・!」

ぐちゃぐちゃになった顔で、ラブは笑顔の真似事をしようとするが、激流のように押し寄せる感情の前では無駄な試みだった。

それを気付かせまいと、顔を俯けたまま走り去るラブを、せつなは呆然と見送るしかなかった。


「あの子が、いつも自分よりも他人を優先させるラブが、あんなこというなんて・・・」




「準備はできたのかイー、・・・せつな!」
「その様子だと、まだ心の準備がついていないようだね。」

シフォンの力で命を、プリキュアとの絆で人間らしい心を取り戻した西隼人と南瞬。彼らは、東せつなのラビリンスへの
帰還に思う所があるようだった。

「そんな事はないわ。みんな笑って見送ってくれた。私も心の整理は・・・ついている。」

「みんな?」
「みんなって・・・誰だよ!?」
厳しい眼でせつなを見つめる瞬と隼人 。

「みんなは・・・みんなよ!」
「そのみんなの中に桃園ラブは入っているのか?」
「・・・!あなたたち、見てたの!?」
今度はせつなが二人を睨み返す。

「桃園ラブは、みんなで幸せゲットしようと言った。」
「だから私は、ラビリンスのみんなの幸せのために・・・!」
「桃園ラブの幸せはどうなる!?」
「!」

「お前の幸せもだ、イー・・・せつな!」
「僕たちはプリキュアから集団としてではなく、個人個人、みんなを幸せにする事が大切だと学んだ。」

「ここにいるみんなが幸せになる事。メビウスからの脱却。これが俺たちのするべき、第一歩だと考えている。
だから、お前と桃園ラブには幸せになってもらいたい。」
「一方的な理屈で・・・!」
「おいおい。これは君たちが教えてくれたことじゃないか、東せつな。」
「そうだぞ!イース!素直になれ!」

何故か、嬉しそうな顔でせつなを見下ろす二人。隼人に至っては名前の訂正すら忘れてしまっている。

「なんと言われようと、私はラビリンスを再建する!これはもう私が決めたことなの!邪魔しないで!」

「やれやれ、強情な子だな。」
「そう言う所は変わってないんだからなー。」

目配せする二人。
「やるか?」
「ああ」
「あなた達・・・まさか!?」

―――スイッチ!オーバー!―――

「「ホホエミーナ!我に力を!」」
二人がホホエミーナのダイヤを投げると木々に刺さり、木の形をしたホホエミーナとなった。

木の形をしたホホエミーナは二人とせつなを遮断する壁となった。
「じゃーなーイース、じゃなくてせつな!また本場のドーナッツ食べにくるからなー」
「しばしのお別れだ、東せつな。他の三人によろしく。」
「こら!待ちなさい!瞬!隼人!待ちなさいったら!どうしてあなた達はいつもそう勝手なのよ!
私の言う事なんか・・・私の言う事なんか一度だって聞いてくれやしない・・・」

「そんな事はないぞせつな!俺たちは確かに聞いた!」
「そう、ここに留まりたいと言う君の心の声をね。」
「だから最後ぐらいはお前の言う事も聞いてやろうと思ったわけだ!ハッハッハッハ!」
「あとは君が、君の心の声を聞いてあげる番だよ。」
「そう言う訳だ!じゃあな!また会おう!」

ホホエミーナも消え、木々は元に戻り、静寂が再び訪れた。

「そうだ・・・アカルン!アカルンがあれば私もラビリンスに・・・」
呆然とした眼で、何かに操られるようにアカルンを取り出すせつな。

「おねがい、アカルン・・・私もラビリンスに・・・」
「キー?」
「あ、ちょっと!」
なんと、せつながアカルンを取り出そうとするとアカルンが逃げ出してしまった。
アカルンはふわふわと漂うようにどこかへ行ってしまう。

「キー!」
「待って!アカルン!私はあなたがいないと・・・!」
「キー!キー!」
何か憤った様子でアカルンはどんどんどこかへ行こうとしている。

「待ってったら!」
せつなは懸命に追いかけようとするが、せつなの走るスピードよりほんの少しだけ速いスピードでアカルンは飛んで行く。
「キー♪」



「ねえ、ミキたん、ブッキー」
「なぁに?」
「振られちゃったんだ・・・」
「何?また友達の話?」
「うん。そう。友達の話」
「・・・そっか」

いつもの公園のいつもの場所。カオルちゃんのドーナツ屋さんの前。三人はいつもと変わらない様子に見えた。

「ラブちゃん・・・無理しなくて良いよ・・・」
「何が?」
「食べたくもないのに、元気を装ってそんなにドーナツ食べてると体に毒よ?」
「そんなことないもん。あたし元気だもん。」

「せつなちゃん、まだラビリンスに帰ってないかも。」
「引き止めなくて良いの?ラブ。」

「せつななら大丈夫だよ!きっとラビリンスを元気な町にしてくれるって!」
「そうじゃなくて・・・」
「ラブちゃんは・・・どうなの?」

「あたし・・・あたしは・・・せつなが、みんながラビリンスのみんなと幸せゲットしてくれれば・・・」
「もうイヤ!」
美希は激しい勢いで立ち上がり、ラブを睨みつける。
「ミキたん・・・?」
「あなたのその空疎な持論にはもうウンザリ!みんなって誰よ!そのみんなの中に入ってないのよ!あなたが!そしてせつなも!」
ちょっと来なさい!」
「ちょ、ちょっと、ミキたん!?」
「いこ、ラブちゃん。せつなちゃんに会いに!」
「ブッキー・・・」

二人と、その二人に引っ張られる一人の合計三人はドーナツ屋さんから離れ、公園を後にした。



「ここは・・・」
気がつくとそこは森であった。

イースが倒れ、4人目のプリキュアが生まれたあの森。

「キー♪」
「あなた、ここに連れてきたかったの?」


「あ、やっぱりここにいた!」

「ブッキー!それに美希!」

「ほら、出てきなさいよ!」
美希が呼びかけると、木の陰からおずおずとラブが出てきた。

「せつな・・・」
「ラブ・・・」

今までのことが走馬灯のように頭をめぐる。
占いの館で初めて出逢った日のこと。
イースとして初めて対峙し、そしてせつなとして初めて対峙した日のこと。
キュアパッションとして生まれ変わった事。
ラブと一つ屋根の下で過ごしたかけがえのない日々。

せつなはいつの間にか顔を真っ赤にして、涙を流していた。

そう、これが本当の気持ち。罪悪感に囚われ、閉じ込められていた本当の気持ち。
私は、桃園ラブと一緒にいたい。片時も離れず、ずっと、一緒に・・・

「わあああああー!ラブー!」
「せつなー!」

強く抱き合う二人。お互い、びしょびしょになりそうなほどの涙を流しながら、二人は強く抱き合う。

「ごめんね、せつな。あたし・・・ちゃんとせつなを笑って見送れるようにって、せつなが幸せゲットできるようにって、
頑張ろうとしたけど・・・一生懸命頑張ろうとしたけど・・・」

「いいの、ラブ・・・。私が、あなたの幸せになるわ。私が幸せになって、あなたにゲットされてあげる。
これからは、ずっと、一緒に・・・」

「これで、ようやく、みんなで幸せゲット、って訳ね。」
「わたし達、完璧!」
「ブッキー!それアタシのセリフ!」
「あはは、ごめーん」

「さ、帰るわよブッキー。」
「え?このまま二人をほっといていいの?雨降ってきそうだよ?」
「やぁねえ、このままがいいんじゃない。こ・の・ま・ま・が。」

祈里の予想通り、確かに雨は降ってきた。
だがそれは暖かく、優しい雨。
二人の涙をぬぐい去ってくれるような、優しい雨だった。



おわり
最終更新:2010年02月02日 01:46