「はいっ、そこでターン!
歩幅を意識して、膝を柔らかく使って、後は体が動いてくれるわ」
軽快な音楽と軽やかなステップ。
集った数百人の市民が慣れないダンスに興じている。
「そこの男の子、慣れるまでは足だけで踊ってみて。大丈夫、きっと出来るようになるわ」
ラビリンス首都に新設された中央公園。そこのステージの上で踊る一人の少女が居た。
年の頃は14~15程度だろうか。
明るい笑顔と溢れる躍動感。可憐な容姿と相まって人々の目を惹き付ける。
その姿は巨大スクリーンに映しだされ、遠くの者にまで見えるよう配慮されていた。
本人はどのような手段で見えるのか、マイクで付いて来れない者にアドバイスまで出していた。
「きゃあ」
「あ、ゴメン」
「大丈夫ですか」
躓く者。
ぶつかる者。
転倒する者。
始めはバラバラだった人々が、励ましあい、徐々に一体になっていく。
労働ではない汗、初めて知る連帯感。
感動すること、昂奮すること、夢中になること。
数時間に及ぶダンスパーティー。
心地よい疲れと充実感に包まれ、人々の会話も弾む。
「さあ、疲れた後は甘いものがいいぞう。ドーナツ食べ放題だ」
――ドーナツ――
メビウスの支配から解放されたラビリンスで、急速に普及してきたおやつ。
ねじれた支配の象徴たる、メビウスの輪と対を成す物。人の輪を示す食べ物として。
また、解放後初めて口にすることができた嗜好品として、広く愛されるようになった。
「お疲れ、少しは休んだらどうだい」
「ありがとう、でもまだ午後のステージがあるわ。
それに帰ったら新しい曲と振り付け考えなきゃ」
一回り年の離れた美形の青年から、タオルと飲み物を受け取る。
そのまま、また人の輪の中に入っていく。
声援に応えながら、気が付いたことをアドバイスしていく。
「全く、何をしても心配させる奴だな」
「彼女に休めと言うのが無理な話さ」
暫定政権の指導者として。また、新政権発足の地固めに。普段は眠る暇も無く働いている。
週に一度、取れるか取れないか。そんな休みはこうしてダンスを広めてまわっていた。
山盛りのドーナツを片手に、体格の良い青年がぼやく。こちらも大変な美形だ。
「まあ、あいつはいつまで経っても成長しないからなあ」
「誰が成長しないですって?」
いつの間にか戻ってきていた少女が口を開く。ドーナツを一つ掴み、口に運ぶ。
「ふーん、だいぶ美味しくなってきたわね。
カオルちゃんのお店のに比べたらまだまだだけど」
憎まれ口を叩きながら美味しそうに食べきる。
「レシピは一緒なんだよ。この間教えてもらってきたんだ。
お前こそ帰らなくていいのか? たまの休みを全部ボランティアに使わなくてもいいだろう」
少女は寂しそうに、しかし力強く答える。
「今はまだやめておくわ。自分のやってきたことに自信が持てるようになってから、
胸を張って報告に行こうと思うの。だからその日が早く来るように」
――私、精一杯がんばるわ――
最終更新:2010年04月04日 20:58