「もしもし、美希!今すぐウチに来て!いいから早く!」
「ブッキー!あたしんちにすぐ来て!寝たら承知しないよ!」
あたしはとにかく、この部屋で起こった現象をいち早く伝えたかった。
家にはお父さんもお母さんもいるけれど、この二人を選んだのには理由がある。
◇ ◇ ◇
「ラブ、どうしたの?こんな朝早くから!」
ジャージ姿の美希たんがあたしの部屋に入って来た。
朝のジョギングの途中だったらしく、汗で濡れた頬に髪が貼りついている。
「ふわぁ、おはよう、ラブちゃん。日曜日なのに・・・。」
続いて、ブッキーも部屋にやって来た。
その声と表情からして、とても眠たそうだ。
「ごめんね、美希たん。ブッキー。こんな時間に呼び出して。」
「それでラブ、一体何の用なの?」
「美希たん!こ、こ、これを・・・。」
おずおずと美希たんに1通の手紙を渡す。
「別に普通の手紙じゃない。どれどれ・・・。」
「桃園ラブ様・・・ラブ宛てね。で、差出人は・・・」
「東せつな・・・せつな!?せつなちゃんなの!?」
「だってせつなは今はラビリンスに・・・」
「あたしも初めは信じられなかったよ!でも・・・」
あたしは30分ほど前の出来事を話した。
ベッドで寝ていたら、聞き覚えのあるメロディが部屋に響いて。
そして部屋の鏡から眩しい光が発せられて、この手紙が残されていた事を。
「とにかく、その手紙を読みましょ。ラブ。」
「そうそう、せつなちゃんからの手紙だもんね。きっといいことが書いてあるよ!」
「う、うん。じゃあ開けるよ。」
封筒を丁寧に開き、中から手紙を取り出す。
ああ、確かにせつなの字だ。
早く読んでよ、と二人に促されてその手紙を読み上げた。
――ラブへ
お久しぶり。元気にしてた?私は元気よ。
ラビリンスに戻ってからは毎日忙しくて、ようやく落ち着いてきたから手紙を書いているの。
あ、手紙が届いた時、驚いたでしょう。
他の世界には、こうして手紙をテレポートで送っているの。
私も前に、ラビリンスから鏡を通じて手紙をもらった事があったわ。
そう、不幸のゲージを壊しに行った時・・・あの時はごめんなさいね。
今、私はラビリンスの子供たちに関する仕事をしているわ。
国中の学校や幼稚園、病院などを視察しているの。
時にはそこで授業や講演を行ったり、子供たちと遊んだりもしているのよ。
どの施設でも、帰る時にはみんなが笑顔になっているわ。
これもラブたちと一緒に過ごした経験が生きているのかしら。
ラブ、私がいなくてさみしくない?
そんな事ないよね、お互いに頑張るって私と約束したんだから。
あなたにはお父さんやお母さんがいる。
美希やブッキー、由美や学校の友達だって。
ミユキさんやカオルちゃん、ほかにもあなたと関わりのある人は数多くいるわ。
だからこれからも、みんなの幸せのために頑張ってね。
私もラビリンスのために精一杯頑張るわ。
きっとラブたちにまた会える事を祈って・・・。
ラブ、みんなによろしくね。
せつな
◇ ◇ ◇
「せつなちゃん・・・うっ、うっ・・・」
「泣かないでよブッキー。アタシまで泣きたくなるじゃない。」
「だってぇ、せつなちゃんがこんなに頑張っているなんて・・・。うれしいけど、それが見られないのが悲しくて・・・。」
「そりゃそうだけど・・・って、ラブも!?」
「せつな・・・せつな・・・うえええ~~~」
結局、美希たんも交えて三人で涙が止まるまで泣き合った。
手紙をしまおうと封筒を手にすると、まだ中身があるのに気付いた。
何だろうと軽く振ってみると、中から数枚の写真が飛び出してきた。
「あれ・・・?この写真、どこにもせつなが写ってない。」
「そんな訳ないでしょ。よく見ればいるはずよ。」
「・・・あーっ!もしかして、これがせつなちゃんなの?」
そこに写っていたのは、あたしたちがよく知る黒髪のせつなではなく、銀髪の少女――イースだった。
ただ、かつてラビリンスの幹部として悪さを働いていた頃の表情は全く無かった。
あるのは希望にあふれた輝く瞳、そして笑顔。
あたしたちは改めて1枚ずつ、写真を見始めた。
白い衣装を身にまとったせつながウエスター、サウラーと一緒に手を取り合っている写真。
スーツを着たせつなが演壇に立っている写真。
エプロン姿のせつなが子供たちと触れ合っている写真。
「せつなもずいぶん偉くなったものね・・・。」
「この調子なら、せつなちゃんの夢が実現する日も近そうね。」
「あたしたちも、せつなに負けずに頑張らなくちゃ!」
そのまま、写真を眺めながらあたしたちはおしゃべりに夢中になった。
しばらくすると、階下でお母さんの声がした。
「ラブー、美希ちゃんと祈里ちゃん来てるんでしょー。一緒に朝ごはん食べてってもらってー。」
「はーい!今行くからー。美希たん、ブッキー、行こっ!」
そうだ!お母さんやお父さんにもこの手紙と写真を見せなくちゃ。
どんな反応をするのか、ホントに楽しみだよ。
最終更新:2010年02月11日 20:58