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競-440

足が、細かく
震えている。

口の中が、
乾いている。


初めて立つ、舞台。

クローバーコレクションの
バレンタイン特集。

タイアップしている雑誌の
読者モデルにも、声がかかった。

何度も、ため息をつく。

気分は、晴れない。



スタジオや、ロケ先で
写真を撮ってもらう。

それが、雑誌に載る。

そうやってきた。


今回は、違う。

たくさんの観客に、
生身でぶつかる。


今回の、モデルへの要求は、
「バレンタインチョコを渡すポーズ」

ちゃんと歩いて。
ちゃんとポーズして。
ちゃんとターンして。


間違えないようにすればするほど、
動きが硬くなる。

「美希ちゃん、笑顔が硬いよ!」
「もっと足を軽やかに!」

リハーサルでも、
散々注意された。

スタッフさんの反応も、
いまいち。


何だか、情けない。

アタシ、全然
完璧じゃない。



調子が出ないまま、
本番が始まった。

音楽が流れ、モデルさん達が
ひとりずつ、軽やかに歩いていく。

みんな、自信にあふれて
生き生きとした表情。


鏡を見る。

口だけ、笑っている。


こんなんじゃ...



光の点滅が、
目に入った。


アタシの、リンクルン。

伝言メモが3件。

順番に、再生する。


「美希たんなら、出来るよ!
 応援してるからね!」


「美希ちゃん、絶対にいい笑顔に
 なれるって、信じてる!」


「案外、緊張してたりして...。
 精一杯、楽しんでね」


みんなの声が、
体にしみ込む。

胸に、手を当てる。

暖かい。

みんなが、いる。


顔を上げる。

目の前の空気が、
変わった。



前の人がターンし、
戻ってきた。

アタシの出番だ。

軽くタッチし、歩き始める。

センターステージに、
3人が見える。

笑顔で、
手を振っているラブ。

小首をかしげて、
微笑んでいるせつな。

胸の前で指を組み、
にっこり笑っているブッキー。


一緒に、ダンスをした。

力を合わせて、闘った。

心から笑い、泣き、
喧嘩も出来る仲間。


今年の、バレンタイン。

感謝と、想いを込めて、
みんなに、チョコレートを贈るわ。


3人に、近づく。

あらたまると、何だか
ちょっと照れちゃうね。

手前で、立ち止まる。


いつも、ありがとう。

大好きだよ。


気持ちを込めて、
チョコレートの箱を差し出す。



霧が晴れるように、
現実に引き戻された。

無数の、カメラのフラッシュ。

拍手と歓声。


そっか。

ステージだったね。


緊張感は、もう無い。

ターンを決め、
足取り軽く引き上げる。


次の人にタッチし、
ステージ裏に戻る。

スタッフさんの、拍手で
迎えられた。

「いやあ、最高だったよ、美希ちゃん!」
「恋する乙女の表情、ばっちり撮れたよ!」


カメラの映像を
見せてもらう。

恥じらいと、決意が
入り混じった、微笑み。

少し、赤らめたほお。


我ながら、完璧。

もう一度と言われても、
多分無理。



「さ、みんなの声援に応えてあげて」

他のモデルさん達に腕を組まれ、
再びステージに上る。

ラストの全員ウォーキング。

拍手が、心地良い。


みんな、ありがとう。

アタシ、出来たよ。


みんなに渡すチョコは
買っておいたけど、変更。

心を込めて、作るからね。

今夜は、徹夜かも。
最終更新:2010年02月14日 10:32