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避2-23

「はい、せつなちゃん。これで直ったよ。前より丈夫に補強しておいたからね」

ここは、わたしの部屋。せつなちゃんはほつれてしまったダンス服を直してもらいに来ていた。
ラブちゃんと美希ちゃんも付いてきている。
せつなちゃんはちょこんと正座して待っててくれた。美希ちゃんはアロマの瓶の補充をしてく
れた。
ラブちゃんは退屈なのか、色々部屋のものを弄りだした……。

「ありがとう、ブッキー。ほんとうに器用なのね。こんなことが出来るなんて不思議」

わたしは、手際よく服を畳んで紙袋に入れ手渡した。
待たせちゃってごめんね。そう謝って椅子から降り、みんなの向かいに座って話した。

「そんなことないけど、昔からピアノ習ったり、裁縫したり、指先は鍛えてきたの。
だって、不器用な獣医さんて……怖い、でしょ?」

「そりゃまあ、確かにね。なら、ブッキーは名医間違いなしね」
「うんうん、ブッキーなら凄い獣医さんになれるよ」

そんな簡単なものじゃないと思うの。でも――ありがとう。そう言って恥ずかしくなってうつ
むいた。





「ねえ、ブッキーならお料理も凄く上手なんじゃないかしら? 私も色々作れるようになって
きたけど」

わたしの部屋に居るからか、話題の中心はどうしてもわたしのことになる。

「料理ならラブって思ってたけど、そう言えばブッキーの料理ってごちそうになったことない
わね。アタシは簡単なものしか作れないから、憧れるな~」

「そうだね、一度食べてみたいな、ブッキーの手料理っ! ねえ、ブッキー。お食事会しよう
よ」

ラブちゃんの提案にしどろもどろになりながら、首を振って後ずさる。

「え、えっと、あのね、そんなには得意じゃないと言うか、期待されても困るというか、どう
しよう……」

「謙遜しなくていいわよ、ブッキー。あ~美味しい料理作れる人良いな。アタシ料理好きじゃ
ないから得意な人と一緒になりたいなぁ~」

ラブのハンバーグは捨てがたいけど、せつなのコロッケも良いわね、と流し目を送る。

「くすっ、意外と食いしん坊なのね、美希って」
「量は食べられないからね、質を大事にしたいのよ」

「あっ、あのっ、あのね」

頑張れ、わたし。美希ちゃんのお嫁さんの座は譲れないっ!

「やってみる。美味しい料理、作ってみせるもん」

「決まりだね! 今週末の夕ご飯で、おとうさんやおかあさんたちも呼んでパーティーしよう
よ」
「いいわね、期待してるわ、ブッキー」
「アタシもすごく楽しみ、頑張ってよね、ブッキー」

あ……あのっ、今すぐってわけじゃ――――もう、遅いよね、どうしよう……。





「それで、ワイが味見役に呼ばれた。ちゅうわけやな」

キッチンでエプロンをつけて腕を組むタルト。正と尚子は診療所の方に居て、当分戻ることは
無い。

「ごめんね、タルトちゃん。わたしはあまり味覚が鋭くないみたいで、味見には向いてないの」

「まあ、まかせときいや。これでもスイーツ王国の王子やで、味覚にはちょっと自信あるんや」

「さっそくこれから食べてみて。カレーライスよ」

「ちょい待ちぃな……。なんでカレーやのに赤いんや。近寄っただけで何か涙が出てきたんや
けど」

パクリ。

「ぎょえぇぇーー辛いぃぃ、水~~!」
「はい、お茶」

ゴクゴク

「みぎゃぁぁーー熱つっっ、これは熱湯やぁぁーー」

「はぁはぁ、ワイを殺す気かいな。もう辛いのは勘弁やで」

「ごめんなさい、タルトちゃん。唐辛子とタバスコ入れすぎたみたい。今度は甘い玉子焼きよ」

そもそもカレーにそないなもん、そうそう入れへんやろ……ぼやきながら卵焼きを口に入れる。

ぶぅぅーーーーーー!

「甘いなんてもんやないで、スイーツ王国のお菓子にもこないな甘いもんあらへんわっ!」

パインはん、もうあきらめ。これで帰らせてもらうわ。

「くすん。すん。えっえっ」

「……わかった。ワイも男や、こうなったらトコトン付き合うで」

(アズキーナはん、ワイは生きて帰れんかもしれん……)





――――ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、まだや、まだワイは倒れとらへんで。

「なあ、パインはん、ちゃんと分量守ったらそないな味にならへんのと違いますか……」

「最初は守ってるのよ、でも味見したら物足りなくて。
それに、マニュアル通りに作ってラブちゃんやせつなちゃんに敵うとは思えないし」

(食べられるもん作るんが先やと思うんやけど……。ちゅうか、根本的に味覚音痴なんとちゃ
うやろか)

「ごめんね、タルトちゃん。もういいよ。明日、美希ちゃんたちにちゃんと事情話して謝るか
ら」

「まだや、まだ諦めへんで、プリキュアたる者が泣きなんていれたらアカンのや。ワイらは心
と体を共有した仲やないか。一心同体で行くで!」

二人は思い出す。あの時の感覚を。気持ちを一つにした時のことを。

「よし、パインはん、最初からや」

――食材の加工!

「うん、できた」

――煮込みのタイミング!

「うん、こうだね」

――調味料の分量!

「うん、マニュアル守ったよ」

「よし、味見はまかせてや!」
「うん」 

ドキドキドキドキ

「美味い、これはイケルで!」
「やったーーー」

「よし、この調子でメニュー増やしていくんや」
「うん、頑張ろうね」

特訓は数日間に及んだという。





「みなさん、集まってくださり、ありがとうございます。
お粗末ではありますが、わたしの料理の品々、召し上がってください」

パチパチパチパチ

「あ、ブッキー、このスープ美味しいよ」
「さすがね、ブッキー。どれも美味しいわ」
「このお肉の焼き加減、アタシも大満足」

「いつの間に上手になったの、祈里。頑張ったわね」
「お父さんも鼻が高いぞ」

お父さんもお母さんも、おじさんもおばさんも和希ちゃんも、みんな喜んでくれてる。
良かった。
あれ? 美希ちゃんが手招きしてる。どうしたんだろう。

「ブッキー、本当に美味しかったわ。素敵よ」

「えへへ、料理も得意なんだよ」

良かった。誉めてもらえて。タルトちゃんのおかげだよ。

「でも、本当は料理は苦手だったんでしょ、お疲れ様」

「えっ? えぇ~~!?」

美希ちゃんが困ったような顔で見てる。

「美希ちゃん――――いつから気がついていたの?」

「わりと最初からよ。ほら、手の傷見せなさい。無理しちゃって。
昨日までずっと料理の匂いプンプンしてたわよ」

美希ちゃんは頭を撫でて労ってくれた。わたしは情けなくなって涙が出てきた。

「やっぱり、わたしは美希ちゃんみたいに完璧にはなれないもん」

「何言ってるのよ。ブッキーは今のままで完璧に可愛いわよ」

自信たっぷりの声で宣言されると、本当にそんな気持ちになる。

やっぱり、優しい。かっこいい。すてき。
わたしの王子さま――なんて言ったら怒られるよね。誰より素敵な女性だってこともわかって
る。

「美希ちゃん、まっててね。きっといつか、お料理も完璧になってみせるから」

「ええ、ブッキーなら出来るって、アタシ信じてる」

木の陰に隠れて、ふたりはそっと唇をあわせた。ちょっと料理の残り香があった。

それは幸せの味だった。
最終更新:2010年04月07日 19:29