「ゴメンね、手伝ってもらっちゃって。」
「いいのいいの。さ!どんどんやっちゃおー!」
三月三日はひなまつり。
女の子のすこやかな成長を祈る伝統行事。
中学生になったアタシたちにはもう、関係ないかと思っていたけれど。
「このお花は?」
「ラブちゃんのお花だよ。」
「えっ!?」
「くすくす.....」
「ブッキー?」
「これはね、桃の花。この時期は桃の花が咲く季節になるからね、桃の節句とも言うの。」
「なんだかラブの日みたいね。」
せつなは興味心身。目に映る物全てが新鮮のようだ。
質問の一つ一つに対し、丁寧に答えていく祈里を見てラブは幸せそうに微笑む。
三人のそれぞれの姿を見て、美希もまた喜ぶ。
奮起した甲斐があったと言う物だ。
「ママー。お雛様って何処しまったっけ?」
「え~。もうしばらく飾ってなかったから…」
「もしもし。和希覚えてるかな?お雛様何処に片付けたか…」
「お雛様?うーん...」
「思い出して!何処探しても出てこないのよ…」
「あっ!」
「何!?」
―――こんな所に。
屋根裏部屋には使わなくなった家財が幾つか置かれていて。
古い本やおもちゃもあったり。
新聞紙が一つだけ、丁寧にファイルされていた。
―――1995年―――
「そっか。アタシが産まれた年よね。」
ノスタルジックな雰囲気に包まれながら、美希は大きな箱を目にする。
「これね。」
箱の上には少々、埃が被ってしまっていたが、中を開けると―――
「覚えてる?」
「当たり前じゃん。」
「言ってみてよ。」
「やだよー!恥ずかしい.....」
「恥ずかしいの?」
「うん。」
「アタシは嬉しかったけど。」
蘇る思い出。
あれは7歳の頃。
小学生になり、最初のひなまつりで。
ラブは突然、男雛を全て取り除いてしまったのだ。
「できたぁ!」
「らぶすごい!!!」
「あれ?おんなのこしかいないよ?」
「これはみきたん!こっちがぶっきー!まんなかはあたしだよ!」
五段もある雛飾りに、真ん中にちょこんと置かれた三体だけの女雛。
今思えば、明らかに不自然ではあるけれど。
その時から、アタシたちはお互いを大切に思うようになってたのかもしれない。
もちろんその後、ママにキツーく怒られちゃったんだけどネ.....
「アタシとブッキーは泣いちゃって。」
「そうそう。」
「和希まで仕舞いには泣いちゃうし。」
「泣き虫和ちゃんだもん。」
「で、あたしは?」
「覚えてるんでしょ。」
「はい…」
「言ってみてよ。」
「泣かないでってチューしました.....」
「何処に?」
「ほっぺ」
「それはブッキー」
「おでこ」
「それは和希」
「今日は白酒ゲットだよ!」
「せつなには飲ませないの!!!」
アタシのファーストキス。
それは三月三日。
憧れの人は今、アタシの目の前にいます。
「さ、これで最後ね。」
「またやっちゃおーかな」
(まさか…)
「よーにんならんだー」
何年ぶりかに飾られたお雛様。
ニヤニヤしながらラブは、丁寧に上段へ女雛を移動する。
それも四体。
と、言う事は。
「わかってるわよね、ラブ。」
「は?」
「とぼけたってムダ。」
「さぁ?何の事でしょうか?」
アタシは強引にラブの手を引っ張って、雛壇の後ろへ連れ込む。
「―――好きよ」
「ん―――」
ブッキーとせつなの話し声がかすかに聞こえた。
でも―――
今は。
もう少しだけ―――ね。
(浮気したら泣かすわよ)
~END~
最終更新:2010年03月03日 04:39