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競-581

わたしはラブちゃんが好き。
そう自覚したのは、何気ない日常の出来事だった。


ダンス練習の後、いつものようにカオルちゃんのドーナツカフェに寄って帰ろうということになった。
カオルちゃんからドーナツを受け取り、ラブちゃんとせつなちゃんがいるテーブルに置こうとした。


その時、胸の奥がチクって痛んだ。


笑いあっているラブちゃんとせつなちゃんを見ておきた胸の痛み。
最初は、ダンス練習の後だからと思っていた。
ダンスは簡単そうに見えて、とても難しくて体力も使う。
これまでほとんど運動をしていなかったわたしは、最初のうちはみんなの動きについていくので精一杯。

でもだんだんと、ダンスのせいじゃないって分かった。
ラブちゃんとせつなちゃんを見ておきた胸の奥の痛みは、
自分でも不思議なことに、ラブちゃんと美希ちゃんが一緒にいても、
或いはせつなちゃんと美希ちゃんが一緒にいても、痛みはおきない。


ラブちゃんとせつなちゃんが一緒にいるときだけおきる現象。


だけど、その痛みは、小さいけれど確実に存在して、時が経つごとに大きくなっていく。
今では、わたしのそばにせつなちゃん達がいなくても、胸が痛むようになった。


ラブちゃんを見て、胸の奥に広がる温かいもの。
ああ、これが人を愛おしく思う気持ちなんだって思った。

それに、せつなちゃんが嫌いなわけではない。
むしろ、慣れない環境で精一杯頑張っているせつなちゃんを見て、わたしの出来ることならなんでもしたいと思う。
ダンスをしようか迷っていたせつなちゃんに練習着を渡した時の気持ちは、今でも変わっていない筈なのに。



今はダンス大会を1か月後に控えた、大事な時期。
この大会は大きな大会で、優勝すればラブちゃんの夢に大きく近づく。
優勝しなくても、何カ月も前からみんなが目標にしていた、大切な大会。


でも、最近の練習は全員の動きがかみ合わず、不本意なものに終わっていた。
寒いから動きが鈍いのかなとかみんなは言っていたけど、多分、わたしが原因。
ダンスをしているとき、横にいるラブちゃんとその隣のせつなちゃんが気になって仕方ない。

ラブちゃんの夢の足手まといになりたくない。
そう思うけど、今のわたしは足を引っ張ることしかしてない。


思い悩んだわたしは、バレンタインにチョコを渡そうと決めた。
想いを口にすることはできないけれど、せめてバレンタインのチョコに想いを込めたい。
ラブちゃんが気づかなくてもいいと思うのは自己満足だとは思うけど、そうしたらダンスに専念できるかもって思った。


毎年、お父さんとかにはバレンタインにチョコを渡していたけれど、手作りなのは今年が初めて。
美希ちゃんとせつなちゃんには同じ生チョコを、ラブちゃんには違うものを。
数日前から、デパートへ行って道具や材料を揃えたり、料理の本を買ったりした。
わたしの気合の入れように、お母さんには、好きな男の子にあげるのと聞かれたけど、わたしは友チョコだって答えた。


確かに、友チョコ。だけど、違う。


ラブちゃんへの想いを自覚する前なら、みんなに感謝の気持ちを込めて作っただろうけど、
今ではもう、カムフラージュでしかない。ラブちゃんにチョコを渡す為の。


バレンタインデーの今日はダンス練習の日だから、みんなに会えるし、チョコを渡せる。
ラッピングは全部同じで、中身はラブちゃんのだけ違っている。
ラブちゃんのチョコがどれか分からなくならないように、見えないところに印をしたりして。

でも、チョコを渡す直前になって、ラブちゃんとせつなちゃんが一緒に箱を開けたらどうしようと思った。
ラブちゃんとせつなちゃんは同じ家に住んでいるから、一緒に開ける可能性がある。
ラブちゃんに一人の時に開けてねと言うことはできるけど、どうして?って聞かれたら、どう答えよう?


そんなことを考えていてダンス練習が終わっても、結局ラブちゃんにもみんなにも渡せなかった。



帰宅し夕御飯の後、自分の部屋に戻っていたけど、焦燥感にも似た思いに駆られ、外へ出た。
やっぱりラブちゃんにチョコを渡したい、その思いで。
ラブちゃんの家はわたしの家とそんなに離れていないから、走ればそう時間がかからない。
部屋にいた時のままの服装で外に出たけど、走ったせいか、寒さは全然感じなかった。


ラブちゃんの部屋もせつなちゃんの部屋も灯りが点いている。


リンクルンで呼び出せば、ラブちゃんは外に出てきてくれるだろうけど、
慌てて家を出てきたから、ラブちゃんのチョコしか持ってきていない。
せつなちゃんのチョコがないことの説明がつかない。

それにチョコを渡すなら、今日はいつでもチャンスがあった。
わたしがダンス練習の集合場所の公園に行った時、先にいたのはラブちゃんとせつなちゃんの二人だったし、
練習の合間の休憩のときでも、帰りに寄ったドーナツカフェにいるときでも、いくらでも。



もう、渡せるわけないよね。
そう思い帰ろうと後ろを向いたわたしの目の前を、白いものが落ちてくる。


空を見上げると、暗闇のなかからタンポポの綿帽子のような雪が降りてくる。
雪はわたしの顔に落ちて溶け、幾筋もの流れとなって、頬を伝い下へと落ちてゆく。


その流れの中に、一筋の熱い雫。
わたしは声もなく涙を流しながら、ただ、はらはらと舞い降りる雪を眺めていた。






時間はどれくらい過ぎていたのだろう。
気がつけば、ラブちゃんの部屋もせつなちゃんの部屋も灯りが消えていた。


雪は絶え間なく降り続け、世界を、全てを、白く染めていく。
だけど、暖かくなれば儚く溶けてしまう雪。


わたしのこの思いも雪に埋もれ、消えてしまえばいいと、そう思った。



最終更新:2010年03月14日 23:08